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第5章 帝国決戦
第53話 和平交渉4・女神様かく語りき
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誰かが大陸を統一すると、世界が滅びて勝者が死ぬ?
訳が分からない。
俺だけじゃない。
水鏡も、(反応が分かりづらいが)雫も、吉川も唖然として動かない。
平然としているのは帝国側の3人、そして尾田張人。
彼らは事前に知っていたのだろう。だから驚かない。それだけ。
だが、どういうことだ。
まったく意味が分からない。
誰かが生き残るとってことは、たとえば俺が、オムカ王国が大陸を統一したら……世界が滅んで俺が死ぬ?
なんだそりゃ? 理解が不能すぎる上に理不尽すぎて、冗談だとしても笑えない。
「残念ですが事実です」
「いや、だが何をもって事実なんだ? そんなの、証拠はないだろ」
言って、虚しい反論だと思う。
この男が証拠もなしにこんな話を切り出すわけがない。
「良いでしょう。では順を追って説明しましょう」
煌夜は1つ咳払いして話を始める。
「まずは、ご存じですか? パルルカ教の教義の1つ。『異界より来たる神官の力を得て、神は顕現するだろう』というくだりを」
そういえばそんなことを、ほかでもないこの男から聞いた。
その時はよくある『神を信じなさい』的な内容だけだと思っていたが。
「そうですか、ならば話は早い。その中にある『異界より来たる神官』、これすなわち我々プレイヤーのことを指します。この世界とは別の世界、異界から来たのは事実ですから。すなわち我々の力を得て、神が復活するという意味です」
そう言われれば納得できないこともない。
けど、それがなぜ世界が滅ぶのか、俺たちが死ぬことにつながるのかが分からない。
えっと、いや待てよ。
結果がどうかは置いておいて、その教義とやらを今得た情報に置き換えてみよう。
つまり『俺たちプレイヤーの力を得て神が復活する』ということ。
うん、だからどうしたって感じなんだけど。
けど俺たちの力を得るってどういうことだ?
スキルのことかと思ったけど、それはまさに千差万別。これといって復活につながるようなものではない。
だとすると他、俺たちの存在そのもの?
あるいは俺たちがやってきたこと。けどそれなんて、争い、戦い、殺し殺され、どうしようもないことしかしていない。
……いや、待て。
それ、なのか?
異界から来た俺たちの力。
それは争いを引き起こし、そして消費させる力。
すなわち――
「どうやら気づいたようですね。その通りです。プレイヤーの力とは、命そのもの。神の復活の生贄として使われるのが、我々プレイヤーの命ということになります」
「勝ち残ったプレイヤー、その命を使って復活するって言うのか……」
「ええ、それがパルルカの神――あの転生の女神の目的なのです」
「え……」
ちょっと待て。
今、さらっと大事なこと言わなかったか!?
しかも俺の考えたのより、さらに斜め上の。
「今、なんて?」
「パルルカの神。この世界の創世神こそが、我々の知る、あの女神にほかなりません」
まさか……アレが?
原始にて原初のこの世界を創った神?
あの女神が、今まで夢の中でしかなかったあいつが、この世界に、肉体をもって現れる。
……いや、待て。それって、
「別にどうでもよくないか?」
正直、あいつが復活しようがなんら害はない――わけはないけど、世界が滅ぶほどのことじゃないだろ。
あの性質の悪い性悪が世の中に解き放たれるなんて想像もしたくないが、少なくとも世界が終わる未来は見えない。
だが俺の楽観を煌夜は否定する。
「1つ、重要な点があります。パルルカの初代教皇にパルルカ神が“前の世界は不浄な人間が増えすぎた。だから浄化してこの世界を創った”と告げたそうです。ここまで話せば、聡明な貴女には理解できるでしょう」
いや、そんなのありきたりな創世神話じゃ……いや、待て。
世界を、浄化した?
今ある世界より、さらに前の世界というものがあって、それをなくしてその上に新たに世界を創ったとしたら。
「あいつは……世界を滅ぼすことができる?」
煌夜は無言で首肯した。
「しかも、おそらくあの性格です。気まぐれに滅ぼすくらいのことはするでしょう」
「で、でもわざわざ創ったのを、そんな簡単に壊すのか!?」
「あの女神は子供と同じです。一生懸命作った砂山を、ほんの気まぐれで破壊するくらいのことはするでしょう。それに、神という高次元の存在を、我々人間と同じ理で知ろうとすれば手痛いしっぺ返しがくるのはご存じでは?」
それは、確かに。
あのなんともつかみようのない性格。子供と一緒。そして子供の理屈は大人と理屈と往々にして合わないのは自明の理。
気まぐれに世界を滅ぼす。
あるいは、その通りだと確かに思えてしまう。
「そう。ですからこの我らの戦いに勝者を出してはいけないのです。そもそもその勝者が女神復活の生贄になるのですから。ふっ、今思えばひどい詐欺ですよ。元の世界に戻す、それだけを聞けば、我々が生きていたあの世界に戻れる。誰もがそう思うはず。しかし我々はそもそも死人です。一度、死んだのです。そんな我々の元の世界と言えば……」
死後の世界なんてものは信じないが、もしそういったものがあるのだとしたら。
俺たち死んだ人間にとっての元の世界――すなわち死後の世界に戻される。
つまり、死ぬ。
もう一度。
何もない元の世界へと戻される。
……ははっ。なんだよそれ。
散々命を削って、罪にまみれて。
そうまでもして戻りたかった世界。
そんなものがないとするなら――俺は――一体何のために戦ってきたんだ?
「勝者は約束通り、命を吸われて死の世界に戻されることになるでしょう。さらにこの世界は滅びる。終わり切った遊び場など、あの女神にとっては娯楽のない、価値のない世界に成り下がるでしょうし」
誰が勝っても、全滅エンド。
なんて最低最悪のシナリオだよ。
「これでお分かりでしょう。貴女が我々に協力しなければならない理由が。貴女は以前語った。その決意を。その意志を。この世界も大事だという理想を」
確かに言った。
言ったからこそ、今になってその本当の意味が分かる。
けど……。
「恥ずかしながら私はこれまであの女神に協力していました。その罪をあがなうわけではありませんが、それ故に殺すのです。娯楽で人を殺し、人の苦しむのを見て愉悦し、人の不幸をあざ笑う女神を、我々の手で殺すのです」
「けど、どうやって……」
「それについては秘策がある、とだけ言っておきましょうか。ただそのためには1人でも多くの力あるプレイヤーが必要なのです。何よりこの世界の人間たちの協力が。これまではいつ終わるとも分からない戦いに希望が見出せませんでした。ですがそこに貴女が現れた。帝国に対する力を作り、なおかつ多くのプレイヤーを有する貴女とならば。帝国の民も講和やむなしということで、全世界が一致団結して女神に当たることができます」
だから今、なのか。
俺がどれだけ戦えるかを知らしめて、オムカが帝国に対するほど強力だと民意に理解させるために。
ここまで、争いを静観してきたと。
……いや、そのことに怒りはしない。
それも彼なりの戦いだったのだろうから。俺が彼の立場だったら、オムカなんて弱小を放っておいて他の国とどうするか決めただろうから。
だから仮定の話はどうでもいい。
重要なのは今。
こうして拮抗する国力を持つ者たちが集まったということ。
ここで講和をすれば、その力をすべて女神の野望を打ち砕く原動力とできること。
「だから改めて聞きましょう。私と共にあの女神を殺しませんか?」
去年、聞いたのと同じ言葉を煌夜は吐いた。
だがあの時と状況も心境も全く違う。
彼がそんなことを言う理由、目的、動機が明らかにされて、俺としても納得せざるを得ない空気になっている。
しかもそれを後押しするのが、
「あ、ちなみに赤星さんが言ってるのはほぼ事実。俺がこの半年、各地で調べた内容と一緒だな。メモを色々まとめたのあるけど、あとで読む?」
尾田張人がひょうひょうとした様子で言う。
そうか。何をしてきたかと思えば、そういうことか。
「アッキー……」
水鏡がどうする? という視線を送ってくる。
雫は飽きたのか理解できていないのかうつらうつらと舟をこいでるし、吉川はおろおろしているばかり。
だが俺は答えない。
答えられない。
頭では正しいと思える彼らの言葉。
だが、それが本当に正しいのか、と思ってしまう。
別に悪いわけじゃない。
ただ、どこか性急すぎて無謀にも近しいイメージを受ける。
たとえばこんなことを考えているのを、あの女神が知ったら。
自分を殺そうとしている存在を、彼女は許すのだろうか。
正直に言うなら時間が欲しい。
だが、それが許される状況なのか、それが分からない。
「煌夜。ここは一度考える時間を与えてやった方がいいだろう。この会議も1日で終わるようなものでもないだろうし」
悩む俺を見て、達臣が煌夜にそう水を向けた。
達臣がそう助け船を出してくれたことに、ホッと安堵。
それには煌夜も頷いて、
「そうですね。ここは一度解散して、今の内容を吟味していただいた上で――」
その言葉が終われば、今日は散会の流れになったはずだ。
そして一度、物事を整理して、水鏡やマリアたちとも話し合って。
明日か明後日にもまた、こうして頭を突き合わせることになっただろう。
だがその言葉が終わらないうちに、この日、最大の驚愕と、俺たちの今後の運命を決める、決定的な声が響いた。
「ダメダメー、アッキーは優柔不断だから、いくら待ったってすぐ決めらんないよーっと」
女性の声。
誰だ、今のは?
視線を走らせる。
もちろん俺じゃない。
水鏡と雫はぽかんとしている。
蒼月麗明はしゃべれない。
他に女性はいない。
なのにこの声が聞こえたってことは……外か!?
「違うよ、アッキー。ちゃんとここに、すぐそばにいるじゃない」
すぐ近くで、はっきりと声がした。
声の発信源、視線の先――蒼月麗明が、にこやかな表情で俺に視線を向けていた。
そして何より一番の違和感。
――声を発していた。
初めて見た時から表情の変わらない、ある意味人形のような雰囲気を醸し出していた彼女が、今や表情の変化や身振り手振り、声を出して、まさに人間に戻ったかのように、存在していた。
それがどれだけ異常か。
それは煌夜の表情を見れば一目瞭然だった。
「ば……かな」
そう、バカな状況だ。
こんなのありえない。
ありえてはいけない。
けどそういう不正な状況を作り出すのは、いつだって神の存在なわけで。
だから、その存在が自らを紹介した。
「おひさの人も、そうでない人も。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! はーい、皆のアイドル、女神ちゃんDEATH! よろしこー」
ハイテンションのまま両手を顔に近づけてダブルピース。
これまでの彼女からのあまりの変貌ぶりに、誰もが二の句も告げない。
「そろそろそんなつまらない話も終わらせないと――虐殺しちゃうぞ☆」
蒼月麗明が、いや、その姿をしたあの女神が、しらじらしいほどきゃぴきゃぴした口調でウィンクしながら恐ろしいことを言い放つ。
この光景に誰もが肝をつぶし、寒気を感じる中。
その日、運命が変わる。
訳が分からない。
俺だけじゃない。
水鏡も、(反応が分かりづらいが)雫も、吉川も唖然として動かない。
平然としているのは帝国側の3人、そして尾田張人。
彼らは事前に知っていたのだろう。だから驚かない。それだけ。
だが、どういうことだ。
まったく意味が分からない。
誰かが生き残るとってことは、たとえば俺が、オムカ王国が大陸を統一したら……世界が滅んで俺が死ぬ?
なんだそりゃ? 理解が不能すぎる上に理不尽すぎて、冗談だとしても笑えない。
「残念ですが事実です」
「いや、だが何をもって事実なんだ? そんなの、証拠はないだろ」
言って、虚しい反論だと思う。
この男が証拠もなしにこんな話を切り出すわけがない。
「良いでしょう。では順を追って説明しましょう」
煌夜は1つ咳払いして話を始める。
「まずは、ご存じですか? パルルカ教の教義の1つ。『異界より来たる神官の力を得て、神は顕現するだろう』というくだりを」
そういえばそんなことを、ほかでもないこの男から聞いた。
その時はよくある『神を信じなさい』的な内容だけだと思っていたが。
「そうですか、ならば話は早い。その中にある『異界より来たる神官』、これすなわち我々プレイヤーのことを指します。この世界とは別の世界、異界から来たのは事実ですから。すなわち我々の力を得て、神が復活するという意味です」
そう言われれば納得できないこともない。
けど、それがなぜ世界が滅ぶのか、俺たちが死ぬことにつながるのかが分からない。
えっと、いや待てよ。
結果がどうかは置いておいて、その教義とやらを今得た情報に置き換えてみよう。
つまり『俺たちプレイヤーの力を得て神が復活する』ということ。
うん、だからどうしたって感じなんだけど。
けど俺たちの力を得るってどういうことだ?
スキルのことかと思ったけど、それはまさに千差万別。これといって復活につながるようなものではない。
だとすると他、俺たちの存在そのもの?
あるいは俺たちがやってきたこと。けどそれなんて、争い、戦い、殺し殺され、どうしようもないことしかしていない。
……いや、待て。
それ、なのか?
異界から来た俺たちの力。
それは争いを引き起こし、そして消費させる力。
すなわち――
「どうやら気づいたようですね。その通りです。プレイヤーの力とは、命そのもの。神の復活の生贄として使われるのが、我々プレイヤーの命ということになります」
「勝ち残ったプレイヤー、その命を使って復活するって言うのか……」
「ええ、それがパルルカの神――あの転生の女神の目的なのです」
「え……」
ちょっと待て。
今、さらっと大事なこと言わなかったか!?
しかも俺の考えたのより、さらに斜め上の。
「今、なんて?」
「パルルカの神。この世界の創世神こそが、我々の知る、あの女神にほかなりません」
まさか……アレが?
原始にて原初のこの世界を創った神?
あの女神が、今まで夢の中でしかなかったあいつが、この世界に、肉体をもって現れる。
……いや、待て。それって、
「別にどうでもよくないか?」
正直、あいつが復活しようがなんら害はない――わけはないけど、世界が滅ぶほどのことじゃないだろ。
あの性質の悪い性悪が世の中に解き放たれるなんて想像もしたくないが、少なくとも世界が終わる未来は見えない。
だが俺の楽観を煌夜は否定する。
「1つ、重要な点があります。パルルカの初代教皇にパルルカ神が“前の世界は不浄な人間が増えすぎた。だから浄化してこの世界を創った”と告げたそうです。ここまで話せば、聡明な貴女には理解できるでしょう」
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世界を、浄化した?
今ある世界より、さらに前の世界というものがあって、それをなくしてその上に新たに世界を創ったとしたら。
「あいつは……世界を滅ぼすことができる?」
煌夜は無言で首肯した。
「しかも、おそらくあの性格です。気まぐれに滅ぼすくらいのことはするでしょう」
「で、でもわざわざ創ったのを、そんな簡単に壊すのか!?」
「あの女神は子供と同じです。一生懸命作った砂山を、ほんの気まぐれで破壊するくらいのことはするでしょう。それに、神という高次元の存在を、我々人間と同じ理で知ろうとすれば手痛いしっぺ返しがくるのはご存じでは?」
それは、確かに。
あのなんともつかみようのない性格。子供と一緒。そして子供の理屈は大人と理屈と往々にして合わないのは自明の理。
気まぐれに世界を滅ぼす。
あるいは、その通りだと確かに思えてしまう。
「そう。ですからこの我らの戦いに勝者を出してはいけないのです。そもそもその勝者が女神復活の生贄になるのですから。ふっ、今思えばひどい詐欺ですよ。元の世界に戻す、それだけを聞けば、我々が生きていたあの世界に戻れる。誰もがそう思うはず。しかし我々はそもそも死人です。一度、死んだのです。そんな我々の元の世界と言えば……」
死後の世界なんてものは信じないが、もしそういったものがあるのだとしたら。
俺たち死んだ人間にとっての元の世界――すなわち死後の世界に戻される。
つまり、死ぬ。
もう一度。
何もない元の世界へと戻される。
……ははっ。なんだよそれ。
散々命を削って、罪にまみれて。
そうまでもして戻りたかった世界。
そんなものがないとするなら――俺は――一体何のために戦ってきたんだ?
「勝者は約束通り、命を吸われて死の世界に戻されることになるでしょう。さらにこの世界は滅びる。終わり切った遊び場など、あの女神にとっては娯楽のない、価値のない世界に成り下がるでしょうし」
誰が勝っても、全滅エンド。
なんて最低最悪のシナリオだよ。
「これでお分かりでしょう。貴女が我々に協力しなければならない理由が。貴女は以前語った。その決意を。その意志を。この世界も大事だという理想を」
確かに言った。
言ったからこそ、今になってその本当の意味が分かる。
けど……。
「恥ずかしながら私はこれまであの女神に協力していました。その罪をあがなうわけではありませんが、それ故に殺すのです。娯楽で人を殺し、人の苦しむのを見て愉悦し、人の不幸をあざ笑う女神を、我々の手で殺すのです」
「けど、どうやって……」
「それについては秘策がある、とだけ言っておきましょうか。ただそのためには1人でも多くの力あるプレイヤーが必要なのです。何よりこの世界の人間たちの協力が。これまではいつ終わるとも分からない戦いに希望が見出せませんでした。ですがそこに貴女が現れた。帝国に対する力を作り、なおかつ多くのプレイヤーを有する貴女とならば。帝国の民も講和やむなしということで、全世界が一致団結して女神に当たることができます」
だから今、なのか。
俺がどれだけ戦えるかを知らしめて、オムカが帝国に対するほど強力だと民意に理解させるために。
ここまで、争いを静観してきたと。
……いや、そのことに怒りはしない。
それも彼なりの戦いだったのだろうから。俺が彼の立場だったら、オムカなんて弱小を放っておいて他の国とどうするか決めただろうから。
だから仮定の話はどうでもいい。
重要なのは今。
こうして拮抗する国力を持つ者たちが集まったということ。
ここで講和をすれば、その力をすべて女神の野望を打ち砕く原動力とできること。
「だから改めて聞きましょう。私と共にあの女神を殺しませんか?」
去年、聞いたのと同じ言葉を煌夜は吐いた。
だがあの時と状況も心境も全く違う。
彼がそんなことを言う理由、目的、動機が明らかにされて、俺としても納得せざるを得ない空気になっている。
しかもそれを後押しするのが、
「あ、ちなみに赤星さんが言ってるのはほぼ事実。俺がこの半年、各地で調べた内容と一緒だな。メモを色々まとめたのあるけど、あとで読む?」
尾田張人がひょうひょうとした様子で言う。
そうか。何をしてきたかと思えば、そういうことか。
「アッキー……」
水鏡がどうする? という視線を送ってくる。
雫は飽きたのか理解できていないのかうつらうつらと舟をこいでるし、吉川はおろおろしているばかり。
だが俺は答えない。
答えられない。
頭では正しいと思える彼らの言葉。
だが、それが本当に正しいのか、と思ってしまう。
別に悪いわけじゃない。
ただ、どこか性急すぎて無謀にも近しいイメージを受ける。
たとえばこんなことを考えているのを、あの女神が知ったら。
自分を殺そうとしている存在を、彼女は許すのだろうか。
正直に言うなら時間が欲しい。
だが、それが許される状況なのか、それが分からない。
「煌夜。ここは一度考える時間を与えてやった方がいいだろう。この会議も1日で終わるようなものでもないだろうし」
悩む俺を見て、達臣が煌夜にそう水を向けた。
達臣がそう助け船を出してくれたことに、ホッと安堵。
それには煌夜も頷いて、
「そうですね。ここは一度解散して、今の内容を吟味していただいた上で――」
その言葉が終われば、今日は散会の流れになったはずだ。
そして一度、物事を整理して、水鏡やマリアたちとも話し合って。
明日か明後日にもまた、こうして頭を突き合わせることになっただろう。
だがその言葉が終わらないうちに、この日、最大の驚愕と、俺たちの今後の運命を決める、決定的な声が響いた。
「ダメダメー、アッキーは優柔不断だから、いくら待ったってすぐ決めらんないよーっと」
女性の声。
誰だ、今のは?
視線を走らせる。
もちろん俺じゃない。
水鏡と雫はぽかんとしている。
蒼月麗明はしゃべれない。
他に女性はいない。
なのにこの声が聞こえたってことは……外か!?
「違うよ、アッキー。ちゃんとここに、すぐそばにいるじゃない」
すぐ近くで、はっきりと声がした。
声の発信源、視線の先――蒼月麗明が、にこやかな表情で俺に視線を向けていた。
そして何より一番の違和感。
――声を発していた。
初めて見た時から表情の変わらない、ある意味人形のような雰囲気を醸し出していた彼女が、今や表情の変化や身振り手振り、声を出して、まさに人間に戻ったかのように、存在していた。
それがどれだけ異常か。
それは煌夜の表情を見れば一目瞭然だった。
「ば……かな」
そう、バカな状況だ。
こんなのありえない。
ありえてはいけない。
けどそういう不正な状況を作り出すのは、いつだって神の存在なわけで。
だから、その存在が自らを紹介した。
「おひさの人も、そうでない人も。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! はーい、皆のアイドル、女神ちゃんDEATH! よろしこー」
ハイテンションのまま両手を顔に近づけてダブルピース。
これまでの彼女からのあまりの変貌ぶりに、誰もが二の句も告げない。
「そろそろそんなつまらない話も終わらせないと――虐殺しちゃうぞ☆」
蒼月麗明が、いや、その姿をしたあの女神が、しらじらしいほどきゃぴきゃぴした口調でウィンクしながら恐ろしいことを言い放つ。
この光景に誰もが肝をつぶし、寒気を感じる中。
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