知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第6章 知力100の美少女に転生したので、世界を救ってみた

閑話28 立花里奈(オムカ王国軍師相談役)

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 軽率だった。
 それは認めよう。

 自分1人なら乗り切れると思ったけど、まさか明彦くんまで来るとは思わなかった。
 さらに、達臣くんが出てくるなんて思いもよらなかった。

 混乱する状況の中、琴線に触れる何かがあった。

 嫌な感じ。
 明彦くんの足元。

「危ないっ!」

 明彦くんごと突き飛ばす。
 地面から炎が吹きだした。
 髪の毛の焦げるにおい。

 炎。
 明彦くんを狙った。

 やっぱり、達臣くんがやったんだ。

「里奈。邪魔しないでくれ。僕は君を殺したくない」

「ならやめて! 明彦くんを殺さないで!」

「違うんだよ、里奈。僕は何度生まれ変わろうと明彦は殺す。だから殺す。邪魔をしないで」

「なんで!? だって、私たち友達だったじゃない! なのに、なんで!?」

「……言いたくないな」

 訳が分からない。
 彼の言っていることを深読みすれば、あの大学での火事。
 それも達臣くんの仕業ということ。

 それに巻き込まれたってこと?
 達臣くんのせいで、私も、明彦くんも死んだってこと?

「達臣、お前……」

 明彦くんが茫然とした様子でつぶやく。
 体に力が入ってない。
 ダメだよ、今は逃げなきゃ。

「里奈くん。どいてくれないか。彼女を殺す。それですべては終わる」

 さらに堂島さんが、一歩下がっていた堂島さんが再び前に来る。
 やはりどこかおかしい。
 焦っている?

「今はまだ君を殺したくない。できれば、最高の場所、最高の時に最後の殺し合いをしたい。だから今はどいてくれ」

「お断りします!」

「なら、ともに死ね」

 殺意が来た。
 目の前から堂島さんが疾風の如く駆けてくる。
 さらに地面からは達臣くんの炎。

「全軍、退路を遮断しろ。杏の仇、ジャンヌ・ダルクをここで屠る!」

 さらに堂島さんの号令と共に、騎兵が動き出す。

「里奈、逃げろ!」

「できるわけないでしょ!」

 ようやく正気を取り戻した明彦くんの一声。
 正気とは思えない言葉を一蹴した。

 明彦くんを置いて逃げるなんてありえない。
 だって、明彦くんだよ。明彦くんが死んだら、私は生きていけない。
 それに、皆だって困る。
 明彦くんを頼ってきた竜胆や愛良、ミストさんらも困るし、何よりマリアも困る。

 だから生かす。
 ここから、この絶望的な戦力差でも、明彦くんを生かして帰す。
 たとえ、私がどうなろうとも!

「『収乱斬獲祭ハーヴェスト・カーニバル・カニバリズム』」

 視界が赤くなる。

「はぁ!」

 堂島さんが来る。明彦くんをかっさらうようにして避ける。
 地面から気配。明彦くんを抱えて転がってその場から離れた。思った通り、炎が噴き出す。

 逃げる。明彦くんを抱えたまま。相手が馬だろうとなんだろうと、逃げ切る。
 だって、恋する乙女は無敵なんだから!

「里奈!」

「黙って!」

「違う、後ろだ!」

「っ!」

 振り返るまでもない。
 激しい馬蹄の音。堂島さんの部下。馬群。

 ちょうどいい。

「お、おい!」

 反転して突っ込んだ。馬群に。
 狂奔する数百の馬に突っ込むなんて、自殺行為もいいところ。馬の足に蹴られて死ぬ。
 けどそんなもの、もっと狂ってる私の前には無意味だ。

「食うぞ!」

 吠える。
 殺意をたたきつける。
 いや、今のは食い気か。馬刺しっておいしいんだよね。

 直後、馬の群れが驚いたように速度を落として棹立ちになる。
 これ以上進みたくないと抗議するように。

 その隙に跳んだ。明彦くんを抱えたまま。
 先頭。馬上の兵。棹立ちになった馬を何とか抑えようとしているが、つまりそれは隙だらけということ。

 蹴り飛ばした。
 そのまま馬の鞍に着地すると、明彦くんを前に乗せ、手綱をつかむ。

「逃げるよ!」

「お、おぅ……」

 明彦くんはまだぼうっとしている。
 私は馬腹を蹴って、馬を走らせる。
 速い。さすが堂島さんの部下。良い馬だ。

「逃がさんと、言った!」

 後ろから声。堂島さん。あと達臣くんもいる。
 さらに右手から馬蹄。
 回り込んだ残りの騎兵が来ているようだ。

「まずい、里奈。このままだと砦に戻れない!」

 手元に地図みたいのを出して慌てふためく明彦くん。あぁーもう、可愛い。抱きしめたい。ぎゅっとしたい。なでなでしたい。
 けどさすがの私もTPOはわきまえる。
 ぎゅっと手綱を引きちぎりそうになるほどに握りしめて我慢。

 どうやら明彦くんが言うには、南に向かうべきところを、南東へと向かわされているということらしい。
 あれくらいの騎馬隊なんて突っ込んで蹴散らせばいいと思うけど、今こちらは明彦くんを文字通り抱えている身だ。無茶はできない。

「なら振り切る!」

 馬に自分の意志を伝えようとする。
 だがそれは加速を命じるものではなく、左に避けるような指示だった。

 直後、元の進行ルート上に炎が沸き上がった。

「達臣か!」

 明彦くんが毒づく。
 その間も次々と炎が上がり、それを回避していく。

 これはまずい。
 なんとなく炎が来る場所は分かる。けどそれは相手も承知なのだろう。承知の上でなお攻撃してくるのは、回避することで速度を落とさせることが目的だからだ。それくらい私にも分かる。

 相手の炎が来なさそうな方向へ、そちらに馬を向ければそれは南東。
 どんどん味方のいる方からかけ離れていく。

「くそ、囲い込まれた!」

 明彦くんが毒づくように、北は堂島さんと達臣くん、西は堂島さん配下の騎兵、南は川、東は山と完全に包囲された。

 ここから逃れるとすれば、東の山の中か。
 相手は騎兵。山に入れば追ってこないだろう。もちろん、この雨の中、山で一晩ないしを過ごす危険性はあるけど。でもそうなったら洞窟とか見つけて、明彦くんと一緒に……うふふ。

「明彦くん、山に逃げよう」

 けど、明彦くんはかぶりを振る。

「いや、直進だ里奈」

「え?」

「南の川に向かって直進だ!」

 え、それって川に飛び込むってこと?
 寒くはないけど、この風雨で川は荒れ狂ってる。そこに飛び込むなんて、どうしようもなく危険すぎる。

「でも……」

「いいから!」

 必死に叫ぶ明彦くん。
 あぁもう、その必死さも可愛いなぁ。
 仕方ない! 私も腹をくくろう。元はと言えば自分が蒔いた種だ。

「飛ばすよ!」

 答えを待つまでもなく、馬を加速させた。
 やがて川の流れる音が聞こえてくる。
 何もない。いや、あれは――人だ。

 大勢の人。
 そんな多くの人が、こんな天気に集まる理由がない。

 軍勢だ。
 退路をすでに断たれていた。
 やっぱり東に、山に向かうべきだった。
 ここから逃げようにもすでに背後には堂島さんたちが迫っている。

 明彦くんだってミスをする。
 だったらあとはもう、自分が暴れてなんとか明彦くんを逃すしかない。

 そう思ったけど――

「突っ込め!」

「え……」

「味方だ!」

 味方?
 どうしてこんなところに?

 疑問符が頭を占める中、明彦くんが叫ぶ。

「水鏡、俺だ! ジャンヌ・ダルクだ!」

 その声が届いたのか、軍勢が警戒を解いて道を開いた。
 そのまま馬をその中に突っ込ませた。

 間違いない。シータ軍だ。

 私たちを収容した軍は、北から来る堂島さんたちに対して警戒態勢を取る。

 数万の味方に包まれ、ようやくホッと一息。
 馬を止めたところに、水鏡さんがやってきた。

「船の様子を見にきて、何か起きてると来てみれば……何やってるの?」

「ちょっと野暮用で」

「野暮用でこの雨の中、敵と追いかけっこ? 偏屈ね」

「出るなって言ったのに、外にいるお前に言われたくないよ」

「そんな命令聞いてないわ。そもそも私の上官はあまつよ。アッキーの命令に必ず従う必要はなくて?」

「ま、それもそうか」

 なんかいい感じの会話に、ちょっとイラっとくるけど明彦くんが助かったことは事実。
 それだけでも満足しないと。

 と、そんな私たちの背後で声がした。

「ジャンヌ・ダルク!」

 堂島さんだ。
 追撃を諦めて、シータ軍と対峙した形でこちらに叫ぶ。

「私は必ずお前を殺す! そしてオムカを滅ぼす! 殺して、殺して、殺しつくす! それが私の戦いだ!」

 それだけ言い放つと、卒然として踵を返し、そのまま闇の中を去って行ってしまった。

「アッキー、今のは?」

「……ただの敵だよ。敵の、宣戦布告だ」

 明彦くんの、苦虫を噛み潰したような表情を見ながら思う。

 一体、何が堂島さんをそこまで駆り立てたのだろう。
 そんな人ではなかったはずだ。優しかったはずだ。

 一体、彼女に何が……。

 そう不安が胸をよぎるけど、今はただ、明彦くんの無事に安堵するばかりだった。
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