知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第1章 オムカ王国独立戦記

第37話 虚誘掩殺

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 見るまでもなく大勝利だった。

 敵は城門攻略を諦め、東は3キロほど後退し、南は船で下流まで退いていった。

 この3日間、熟睡できる状況ではなかったため、疲労で体が重い。
 それでも頭が冴え渡っていたのは、一歩間違えれば死という状況におかれていたからだろうか。

 一番の危機はついさっき、西門を攻撃された時だ。
 攻撃は東門と南門に集中していた。北門の攻撃は一度跳ね返した。その安堵は次の瞬間に何故西門を攻めないのか、という疑問に変わった。

 答えは単純で、そこまで行くのが難しいからだと思った。
 北から行くには城のすぐ下を通らなければならないので発見されれば狙い撃ちされる。
 南からは城塞がある高台のおかげで、大きく迂回しなければたどり着けない。

 では無理か、といえばそうではないのだ。
 川をさらに上流に遡り、上陸して平地を疾駆すれば攻められなくはないのだ。

 だがそれはかなり確率の低い策だ。
 正直、そこまでやるのか判断に迷ったが、それをハワードに相談すると、

『思ったことは全部やっておけばいいんじゃ。そうすれば後で後悔しないで済む。ま、軍人なんてものは最悪の事態を常に想定しておくのが正しいから、その懸念は間違ってはおらんぞ』

 そう後押ししてくれたから、俺は罠を張った。

 1つの方向から攻撃して敵を引き付け、隙を突いて防御の薄い反対側を攻撃して打ち破るのを偽撃転殺ぎげきてんさつの計という。
 逆に偽撃転殺の計にかかったふりをして敵を誘い込み、一気に殲滅するのを虚誘掩殺きょゆうえんさつの計という。

 俺はその虚誘掩殺の計を使った。

 東門の敵の一部が撤退したように見えた後、西門から偵察を出した。
 敵を発見したらのろしで知らせろ、と命令して。

 案の定、次の日の朝にのろしが上がった。
 西門を攻める敵を見つけたのだ。

 だから俺は西門の守備隊を城壁から降ろし、城門近くの家屋の屋根に配置した。
 彼らは弩を持って敵を待ち構えている。

 しばらくして城門を叩くような音が鳴り、激しい衝撃を持って城門が観音開きに突破されると、敵が2千ほど雲霞うんかのごとく城内に突入して来た。
 本来ならそこで敗北は決定的なのだが、彼らにとって不運なのはすでにその行動を見透かされていたこと。家屋をつなぐ小道には廃材などで通行止めをしているから、彼らは一直線に狩場に案内されることになった。

 そこは道がバリケードで塞がれている袋小路だ。
 それに気づいた兵たちが惑った瞬間に、俺は旗を振って号令を発した。

「撃て!」

 その2文字の後に死の旋風が巻き起こった。

 周囲から弩を射かけられ、敵は大混乱に陥った。
 逃げる場所は背後しかない。だが城門を突破した兵たちは、手柄を求めて次々に入ろうとする。そこで敵は押すな騒ぐなの大混乱に陥った。
 反撃しようにも屋根という高所を取ったこちらに地の利があり、相手は密集した状態だから弓も引けない。
 一方的な虐殺――とはいえ、また弩の弓は短いものだからそう死者はでないはずだ。

 それでも矢を十数本受けた者や、急所に受けた者、そして味方に押しつぶされた者など死者は少なくはない。
 敵が蜘蛛の子を散らすように逃げ去った後には、100人前後の死体が残されていた。

 そして再び城門を閉じ、西門にも警備を置いた俺は勝鬨をあげさせた。

 奇襲部隊は撃退した、と敵に知らせるためだ。

 そして案の定、敵は撤退を開始した。

 そこを襲ったのがハワードの率いる軽騎兵たちだ。
 彼らは昨日ひそかに北門から抜け出し、山に潜み機を待っていた。

 そして撤退しようとする敵軍に向かって、ハワードが先頭になって突撃した。
 敵は絹の布を引き裂くように、いともたやすく陣形をズタズタにされて逃げていった。

 まったく、あの年でなんて爺だ。

 こうして散々にシータ国を討ち破ったカルゥム城塞防衛戦は終結した。
 相手の死傷者は数えきれないが、こちらの死者は敵の矢にあたった数十名だけだ。

 これほどの兵力差を考えれば、亡くなった人には申し訳ないが上々と言って良い部類だろう。
 クロエは白兵戦ができなかったからフラストレーションが溜まっていたらしいが、俺からすれば納得のできる内容だ。まぁ膠着状態に持ち込むという最初の方針から大きく違ってしまったわけだが。

 それでも少しは自信がついたような気がする。

 そう、これはあくまで練習。
 問題は本番である、王都バーベル防衛戦。

 カルゥムほど地の利にも城壁にも恵まれておらず、何より圧倒的な兵力差を考えると、今回の籠城戦が子供の遊びに思えてくるほどの苦境に陥るだろう。

 どんなに外交交渉を進めても、おそらく1度は必ず通らなけらばならない道だ。
 だからその練習の機会を与えてくれたハワードには感謝しかない。だが、さんざん敵を討ち破って満足した様子で帰ってきたハワードの第一声に、その思いは裏切られる。

「この敵にこの戦果。危ういところもあったし、まぁまぁじゃの。50点といったところだな」

「この爺……いつか絶対満足させる軍略してやるから楽しみに待ってろ!」

「おぅ、楽しみにしておるぞ」

 やれるもんならやってみろ、と言わんばかりのハワードの笑顔にパンチを入れたくなった。
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