知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第1章 オムカ王国独立戦記

第54話 王都バーベル防衛戦3日目・投石機

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 3日目は、昨日と何も変わらない単純な繰り返しから始まった。
 もう爆雷はないから矢と石、あと油を撒いて無理やり鉄板に火をつけるというやり方でなんとか堀を埋める行動を遅延させていた。

 だがそれは急にやって来た。

 ドォン、と遠く鳴り響く大きな音に加え、城壁がわずかに揺れた。
 地震かと思ったが断続的に響くその音と振動がその想像を否定していた。
 この音、西門の方か。

「クロエ、少しの間、ここを頼む」

「あ、はい! 隊長殿!」

 クロエに後を任せて城壁の上を小走りに行く。
 敵は相変わらず総出で堀を埋めにかかっているから、弓を警戒する必要はない。

 しかし、こんな時にこそ城の大きさと自分の体力のなさを呪うことはない。
 西門に着くまで2キロも行かなければならないのだ。

 だが事実の確認に対してはその半分で済んだ。

 城壁の端にして四角形の頂点のところに達した時、遠目にそれが見えた。
 地面から突然生えたような巨大な三角形。
 地面に立つ人間を比較対象にすると、その高さはゆうに5メートルは超える。

「投石機……」

 それがその攻城兵器の名前。
 三角形の頂点のところを支点に棒が前後に伸びる、簡単な天秤を思い浮かべてもらえれば良い。その一方に岩を載せ、もう片方は紐を結わえておく。前者は地面に、後者は空へと傾く。
 あとは簡単だ。
 紐がついた方を思いっきり下に引けば、てこの原理で岩が上空高く放り投げられるという原理だ。もちろんそれ相応の力が必要で、紐を持った何人もの兵士が飛び降りて下に引くことでその不足分を補っているのだが。

 それが5機。
 昨日の増援はこれのためだったか。

 岩が飛ぶ。弧を描いて西門の中ほどに直撃した。
 再び城壁が小さく揺れる。

「あ、これは軍師殿」

 見れば伝令らしい少女が西門から駆けてきているところだった。

「ニーア将軍より伝令です」

「いやいい。見た。ニーアには無理するなと伝えてくれ。詳しくは昼に」

「は……はっ!」

 礼をして伝令の少女は去って行った。

 これはなかなか厳しい。
 北門に戻りながら思考を続ける。

 ついに敵は攻城兵器を投入してきた。
 堀埋めの戦術に投石機とは本気でこの城を落としにかかってくるのが伝わってくる。

 だが、と思う。
 なぜ西門だけなんだ?
 これだけ準備をしているのに、西門だけ集中している理由は?
 ニーアのせいか?
 それとも西門の方が攻めやすい?
 確かに西門は城で唯一の農業地帯で牧畜も行われているから、大軍を引き入れるには適している。
 市街戦でやっかいなのは、建物を盾にしてのゲリラ戦だ。これなら兵力差はある程度緩和できる。

 だが西側は開けた場所だから兵を展開しやすい。そこを狙ったのか。
 敵には元ハカラの部下がいるのだ。城の構造など百も承知だろう。

 推測はここまでだ。
 後は昼の会議で意見を聞こう。

 籠城が始まってから日に1度は各門の責任者――いわゆる幹部で集まるようにしている。
 もちろんすぐに動けるように、かつ兵士たちに見えるように食事をとる場所は営舎の中だ。

 敵に昼食は昼に取るのがポリシーとでもあるかのように、昼には一度兵を退いていった。
 それに合わせてこちらも休憩を取る。

「投石機か……やっかいだな」

 サカキがサンドイッチをかじりながら言う。
 昼ごはんは質素かつ手軽に食べられるサンドイッチがメインだ。
 実際そうはならないだろうが、いつまで続くか分からない籠城だ。そう贅沢はできない。
 それにこうやってみんなから見えるところで食べていれば、幹部も同じものを食べていると兵も納得し、不満も出にくいものだ。籠城戦といった我慢を強いられる場所では、こういう小さなところから綻びが出るものだからそれは気をつけないといけない。

 とりあえず今のところみんな生気は保っている。

「大砲でないだけマシですね。昔はオムカにもあったのですが、ビンゴとシータの連合軍との戦いの際に破損し、ハカラ将軍が『こんなものは戦士の武器ではない』と、すべて破棄してしまったのです。それがあれば少しは戦い方も変わったでしょう」

 そっか、大砲は存在するのか。
 てかハカラ……死してなお俺たちの足を引っ張るとは。味方にないのは残念だが、敵に大砲で来られたら打つ手もなく遠距離から城門を破壊されてたかもしれない。そう思うとゾッとした。

「だからって投石機か? 過去の遺物を引っ張り出してきて何考えてんだ?」

「それでも大砲より持ち運びは楽ですよ。今回の帝国軍は我々の蜂起に対し間髪入れず行動に移した。おそらくスピードを優先するために大砲は持ってこなかったんでしょう」

「たぶんジルのが正解かな。そのおかげでなんとか助かったわけだけど」

 とはいえ攻城兵器に間違いはないから放置するわけにはいかない。

「ニーア。今のところ被害はないのか?」

「そーね。当たっても1メートルとか下の壁だから。城門にも当たらないし、壁を少し崩してるだけよ。計算ミスったんじゃない?」

「少し……ずっと受け続ければ危険、か」

「はい、ジャンヌ様の言う通りです。なんとか妨害か、火をつけられれば良いのですが」

「結構距離あるよ? それに1万がガッチリ守ってるから。おかげで堀は埋められないけど、城壁が壊れたらあんま意味ないからねぇ。無茶するなってジャンヌにも言われちゃったし」

「なんか呼ばれてるような気がすんな。城壁を壊されたくなかったら投石機を燃やしに来い、みたいな」

「だからといって飛び込めば数万の軍が待ち伏せしている。これはなかなか難しいですね」

「あーもー、まどろっこしいわね! あたし籠城戦向いてないかも!」

 みんなが自由闊達に意見を言う場は貴重だ。
 こういうところから突破口が生まれる可能性がある。
 もちろん、幹部たちが動揺していることを兵たちに知られるわけにはいかないからなんでもいいわけではないが。

「ジャンヌ様、ニーア殿。女王様がお呼びです」

 そんな時だ。王宮から呼び出しがかかったのは。
 なんだろうとニーアと顔を合わせるが分からない。

 とりあえず投石機への対処は考えておくことにして、その場は散会となった。

 急な呼び出しに不安を抱きながらも、俺とニーアは王宮へ急いだ。
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