知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第41話 ドスガ王国からの使者

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 さらに2日経った朝。
 普段通りの生活は滞りなくできるほどには体力が回復した。

 だから俺は陽が昇ってすぐに、隣で寝るクロエを起こさないよう起きると、顔を洗い、着替え始める。真っ白にのりの効いたシャツに、オムカの王宮勤めの制服である青を基調とした上着を羽織る。ロングソックスとマリアからもらった膝が隠れるくらいのスカートを履き、あとは白のブーツを足に通せば準備完了。

 数日前まで見慣れた自分の姿が姿見に映される。
 いや少し痩せたか。ただでさえ小さくて細くて軽いのに、これ以上痩せたらそれこそ骨と皮だけになってしまうのではないかと思う。

 けど肌のノリは良さそうだ。
 これならもう出仕できる。

 買い置きのパンに、昨夜の残りの野菜を適当に突っ込んでサンドイッチにすると、それを手に外に出る。
 11月が差し迫る秋の朝。少し肌寒さを感じるも、人気のない早朝の空気は澄んでて美味しい。

「よし、頑張るか」

 声に出して気合を入れると、そのまま王宮へと徒歩で向かった。

 ――のだが。

 出仕すると同時、朝っぱらから喧騒に巻き込まれた。

「ええい、ようやく戻りおったかジャンヌ・ダルク! 体調不良など日頃の不摂生ふせっせいがたたったのだろう! わしを見ならえ! 王宮に勤めてからこれまで、病欠などしたことはないぞ。というのも毎朝のヨーグルトは…………」

「おお、ジャンヌ。今度は災難だったのぅ。ん、さっそくカルキュールのお小言をもらったようじゃな。ま、これにこりたら少しは人を使うことを覚えい。わしなら朝も夜も使われるのは構わ――ぎゃふ!」

「あ……無事でよかったです。と、ジャンヌ・ダルクという人に言伝お願いできますか。いえ……その……なんでもないです!」

「ジャ、ジャンヌちゃーん、助かったー。もう無理ー。助けて―」

 一週間近く間が空いたのだ。
 王宮も様変わりして、戴冠式の準備も進んでいるだろうなんて思ったが甘かった。

「このスケジュールおかしいでしょ! なんでパレード終了の5分後に女王が祭儀堂にいることになってんだ! 瞬間移動でも使うのか、女王様は!? 祭儀堂までの距離が分からない? 分からないなら自分で歩け! その3倍を女王様の時間にするの!」

「王都の警護、何人いる! 敵が来るのは外からだけじゃないだろって! 内側をちゃんと守るように配置する! なに? ちゃんと置いてる? だからここと、ここと、ここと、ここが要らないだろ! なんでパレードにも巡幸先にも関係ないこんなとこを守るんだ! それと今、ここにはジーン師団長はいないんだからな! そこの数、間違うなよ!」

「迎賓館の準備がなんでできてない! 今から作ろうとか馬鹿か! こういうのは豪華な屋敷を持ってる人に借りるんだよ! なに? 従わない? 女王の威厳を損なうことになってもいいのかと脅しとけ!」

「てか料理人の選定おかしいだろ! なんでシータ王国の人に海鮮料理を提供しようとしてんだ! 海鮮の本場に、海鮮で渡り合おうとしてどうする! こういうのはここでしか食べれないものってのを出してこそ意味あるんだろ! なんならビンゴ王国から買い付けた食材とかでもいい! とにかく珍しものを食べてもらって、オムカの国力を分かってもらうの!」

 全然変わってなかった。というか悪化してる。つまりこの数日が無駄に浪費されてきたということで、刻一刻とタイムリミットまでの時間が残り少なくなっていくということ。

 うぅ、また頭が痛くなってきた。
 こんなこと、政治の問題というより、かなり一般寄りの問題だと思うんだけど。本当に人材不足してるよなぁ。

 そんなわけで、復帰の初日は午前中が引き継ぎで終わり、午後が終始怒鳴りっぱなしの一日で、家に帰ったのはもう日が変わるころだった。

 帰宅した先で無理するなとクロエに怒られたのは言うまでもない。
 ……はぁ。疲れた。

 そして3日目。
 執務室でサカキと話をしていた。

「――というわけで、南郡が怪しい気がする。地図のここらへん、王都と南郡の入り口の間に軍が駐屯できる場所を作れないか?」

「まぁ、そうだろうなぁ。あれで収まるとは思ってなかったけど、それなのにあの国王許しちゃったんだから。ジャンヌちゃん何か悪い事考えてるなって思った」

「悪い事ってなんだよ、心外だな。俺が許した理由はワーンス王に言ったとおりで、他意はなかったぞ」

「本当~?」

「まぁ恩を売って時間稼ぎするつもりだったのは確かだけど」

「てことは来年か?」

「ああ。年が明けたら一気に南郡を制圧するつもりだ。けど今は戴冠式だよ。それをしっかり終えないとちゃんと動けないし」

「まぁ言いたいことは分かった気がするけどよぉ……」

「歯切れが悪いな。不満なのか?」

「いや、なーんか嫌な予感がしてならないんだよなぁ……」

「よせよ。縁起でもない」

 理性より勘で動くサカキにそんなこと言われると、それが真実味を帯びる気がする。

「分かったわかった。とりあえずここらへんかな。近くにコトスの街もあるから維持しやすいとは思う。早速、今日招集して明日出発するわ。3千でいいか?」

「ん、じゃあそれで。頼んだよ。費用はこないだの謝礼の中から出るから財務の大臣に言っておいて」

「あぁ、結構な量だったなぁ。あれなのか? 南郡って結構金持ち?」

「さぁ……見た感じ裕福そうには見えなかったけど。あれじゃないか。砂漠を超えて交易隊が来ているって話だし。そこの利益が上がってるんじゃないか」

「ふーん。そういやその交易権を巡って、ドスガの王様はトロンの王族を皆殺しにしたんだっけ? ははっ、なかなか強欲だよなぁ、ドスガ王ってのも」

「笑い事じゃないぞ。つまりドスガ王は何が大事かをちゃんと分かってるってことだ」

「ま、その王様も今や虜囚りょしゅうの身、四天王も残り2人。楽勝じゃね?」

「あぁ、だから来年まで大人しくしてくれていればいいんだけど。ま、時間が欲しいのは向こうも同じだから、とりあえずは表向き平和になるだろ。そのうちこっちに和平の使者を送ってきて、時間稼ぎするはず」

 その時だ。
 ドアの向こうから絨毯を踏みにじるように、大きな足音が聞こえた。
 誰か来た。

「た、隊長殿! 大変です!」

「なんだ、クロエ。そんな血相変えて」

「はっ……はっ……はぁ……えっと、隊長、殿。あ、師団長殿も……えっとえっと……」

「分かったから落ち着け。急いだところで俺たちは逃げないから」

 俺が声をかけると、クロエはこくこくと頷いて深呼吸で息を整える。

「それが……ドスガ王国から使者が……」

「噂をすれば、だな。さすがジャンヌちゃん」

 サカキがそう言ってニッと笑う。

 別に狙ったわけじゃないから、さすがと言われても困るわけだが。
 ただちょっと早い気がするのが気になる。

「それで、誰が来るんだ? 残った四天王か? それとも宰相かなんかが来るのか?」

「それが……その……」

 クロエが若干言葉に詰まり、やがて意を決して言葉にした。

「国王です」

「は!?」
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