知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第2章 南郡平定戦

第43話 家出とおばば、ときどき挙兵

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 あまり物事に頓着とんちゃくしないタイプだった。
 嫌なことがあっても、些細な事なら1日寝ればほぼ忘れたし、2~3日あればそういうこともあったな、くらいにくらいにまってしまう。

 けど、今回のは些細では全然なかった。

「……最悪だ」

 眠れぬ夜を過ごした。
 ベッドに入っても眠れず、ごろごろごろごろと何度寝返りをうったか分からない。

 ようやく体も疲れて、うとうとし始めようとしたころ。空が白み始め、遠くから鶏の鳴き声が響いてきた。

「最悪だ」

 何度呟いても状況は変わらない。
 ほぼ完徹状態で一日を迎えることになるのだから、今日のパフォーマンスは最悪だろう。

 こういう時は仮病でも使おうかと思うが、さすがに昨日のあれで出仕しないのは体裁が悪い。

 ていうか謝った方がいいんじゃないかと思う。

 けど何を?
 それが分からない。

 ニーアに言われた『最低』という言葉。
 だが、そうなるまでに至った経緯を思い出せないのだ。

 あの時は正直、脳がヒートアップして思考より先に言葉が出ていた。

 よくない癖だ。
 こないだ、倒れた後のクロエにも同じようなことをした覚えがある。それでもあの時は、まだクロエが歩み寄ってくれたからなんとかなった。

 けど今回は無理だった。

 じゃあ俺から歩み寄ればいい?
 俺が?
 謝ればいい?
 何も覚えてないのに?
 ごめんなさいと言えと?

 いや、無理だろ。
 マリアだって中身のない謝罪を受け入れるほど感性は乏しくない。
 それにクロエの時と違って、俺ばっかりが悪いわけじゃない。マリアの我がままだというのはカルキュールもハワードも分かっていただろうに。

 なのに俺ばっか責めやがって。

 それでも俺が悪いというなら、さすがに人生の先輩として謝った方がいいのか。

 そんな堂々巡りの思考をぐだぐだと続けていると、

「隊長殿、朝ですよ」

 クロエのモーニングコールが聞こえた。

「ん……あぁ、おはよう、クロエ」

「おはようございま――って、大丈夫ですか? あまり顔色良くないですよ。何かあったのですか?」

 クロエには昨日の出来事は話していない。
 だけどまぁよく気の回ること。

「大丈夫だよ。色々考え事して、あまり寝れなかっただけだ。ちょっと顔洗ってくる」

 クロエが更に余計なことを言う前に、俺はベッドから跳ね起き、顔を洗いに風呂場へ行く。
 そのままクロエが作った朝食を腹に入れると、食後のお茶を飲む間もなく外に出ようとする。

「え、隊長殿!? もう出るのですか? まだ早いと思いますが――」

「いいんだ。ちょっと歩いていきたい。少し、独りにしてくれ」

 クロエを置いて先に家を出る。

 少し冷たかったかな、と思う。
 なんだか最近、自分がどんどん悪い人間になっていくようで、かなり気が滅入ってきている。

 もともと、そんなに人づきあいが良い人間ではなかった。友達と呼べる人間も片手で数えれば足りるくらいだったし、どちらかといえば独りを好むほうだった。
 そんな人間が、国の運用をしているのだから本当何で? って思う。もっとマシな人材がいるだろうと。

 けどそれがいないのだから仕方ない。
 俺でもなんとか回ってしまうのだから仕方ない。

 いや、実際回ってるのかどうか疑問なんだけど。だから昨日みたいな不協和音が出てしまうわけで。

 そろそろ潮時かなぁ。
 軍事だけに専念して、あとは全部カルキュールにぶん投げようか。そうすればきっとマリアとも話し合う時間ができるだろうし、ニーアもピリピリしなくていいわけで。

 そんなことを考えながら、俺は王宮の門番に挨拶を受けて王宮に入り、自分の執務室に向かう。
 その3分のの1もいかないところで、意外な人物に出会った。

「おお、来たかジャンヌ・ダルク!」

 カルキュールだった。
 息を切らした様子で、肩を激しく上下させている。

「女王様を見なかったか?」

「いや、今来たばっかで、昨日から見ていないな」

「ええい、役立たずめ。となるとどこに……」

 なんでそんなことで役立たずと言われなくちゃいけなんだとは思ったが、カルキュールの様子を見るにただごとではなさそうだ。

「マリアがいないのか?」

「あぁ、侍従長が起床の時間になっても出てこないを不審に思い、女王様の寝室に入ったがもぬけの殻だったようだ」

 侍従長っていうと、マリアがおばばと言っていたあの人か。

「先に起きていたのかも」

「確かに寝間着が無造作に置いてあることや、服が数着なくなっていることからすでに起床なされている可能性はある。だがどこにもいないのだ。さらに近衛騎士団長もいなくなっているとの報告があった。その部屋にはこんな置き手紙があってな」

 カルキュールが懐から取り出したのは、1通のメモ書き。
 そこには大陸文字で、

『ちょっとドスガに誘われたんで女王様と行ってきまーす。追伸、ジャンヌのばーか』

「あんの馬鹿娘!」

 メモを破りそうになったのを鋼鉄の精神で耐える。
 いや、ちょっとびりっていった。

「ジャンヌ・ダルク、これはまさか……」

 まさかも何も。
 勝手に家を抜け出してどこかへ行く事象。
 それを表す言葉は1つしかない。

「家出、だろう」

「やはり、か」

 カルキュールはプルプルと体を震わしたかと思ったら、顔を真っ赤にして俺をにらむ。

「ええい、どう責任を取るのだジャンヌ・ダルク!」

「なんで俺!?」

「ここに書いてあるだろう! 貴様の罵る言葉が! そもそも昨日の朝議での一件、今回のことと関りないわけがなかろう! あぁ、おいたわしや女王様。このような無粋な者に心を乱されるとは……」

「確かに俺も昨日は言いすぎたけどさ、だからって俺だけの責任? 門番は何してたのさ。それに宰相、あんたも一族ならその管理をするのは仕事のうちじゃないか!」

「なぜわしに振るか! そもそもの原因は貴様だろう! なんとかせんか!」

「俺は占い師じゃないっての! あいつらがどこ行ったかなんて知るか!」

「ここに書いてあるではないか! ドスガに行くと! だったらさっさと追うのが筋だろう!」

「だからなんで俺が――」

「いいかげんになさい!」

 ヒートアップする言い合いを止めたのは、厳粛で冷静な声。
 俺とカルキュールが声に驚き振り向いた先にいたのは、

「じ、侍従長……」

 マリアがおばばと呼ぶお付きの老女だった。
 事の全てを知っているだろうに、慌てた様子もなく静かなたたずまいで立っていた。

「まったく、この国のトップ2人が揃ってはしたない。今は言い合いをしている場合ではないでしょう?」

「そ、それはそうだが……」

 カルキュールもたじたじだ。

 俺もちょっとたじろいだ。
 ずばりと核心を突いてくるから意外と苦手だったりするんだよなぁ。

「女王様の無断外出は事実。近衛騎士団長が付き添いになっていることも事実。ドスガ王国に向かっただろうことは事実。ならばすぐに捜索隊を組織して追いかけるのが家臣としての役目でしょう」

「う、うむ。そうだが……だからこそジャンヌ・ダルクを――」

「軍師様はこのような荒事はお向きにならないと聞いています。ならば別の人に任せるのが筋でしょう。適材適所。何より今回の事件の発端とも言える人を差し向けたところで、女王様の不興を買うだけだと何故分からないのです?」

 擁護しているように見せて、その実、お前は役立たずだから黙ってろと言わんばかりの落とし方。
 ……きっついなぁ。

「そ、そうか。そうだな……では誰にするかを決めなければ」

「すでに近衛騎士団の3人を向かわせています。イース、アルー、サンの3人を。彼女たちは昨夜、自分たちの団長に夜警の任を解かれたことを不審に思った矢先のこれですから。きっと全力で女王様を追ってくれるでしょう」

 なにこの有能な即対応。
 この侍従長、宰相やってくれないかな。

 とにかく俺が捜索隊から外されたのにホッと一息。正直、あの2人に追いついたとして、どういう顔して会えばいいのかまだ心構えができていない。
 情けない話だけど、今はまだ心の整理が必要だった。

「軍師様。そこで胸を撫で下ろしている場合ではありませんよ。そもそもが貴女の言動に問題があるのは事実なのです。いくら若いからといっても、国政を預かる身。来年から女王様と一緒に学びなおしてはいかがです?」

「……はぁい」

 この人エスパーかな……。
 てゆうか俺もお勉強会強制参加!?

「捜索隊はそれだけで良いのか? もっと大規模に探した方が良いのではないか?」

 カルキュールが侍従長の対応に不安そうだ。
 だから俺はその不安を否定した。

「いや、そっちの方がいい。というより今すぐかん口令を敷くべきだ。女王が行方不明なんてことを知られたら、国中がパニックになる」

「む……確かに」

「それだけじゃない。乗じてエイン帝国とビンゴ王国が攻めて来ることは間違いない。だから女王の身柄が確保できるまで、このことは絶対秘密にした方がいい。ただハワードとサカキには伝えて、第二の捜索隊に……って、そうかサカキはいないんだった。ええと、ならブリーダだ。機動力もあるし女王様の先回りをできる可能性がある」

「それがよいかと」

 侍従長がはっきりと頷く。
 お墨付きをもらった俺は、一息ついて更に今後の方針を定めようとしたが、侍従長の方が先に俺から視線を外し、聞く。

「ところで、そのお方は誰ですか?」

「ん?」

 侍従長に言われ右を見た。
 誰もいない。
 左を見た。
 誰もいない。

 もしかしてからかわれてる?

 いや、この人に限ってそんな無駄なことはしない。
 ならこれは――

「あの、ジャンヌ隊長」

「うぉ!?」

 びっくりした。
 急に真横から声をかけられたのだから。
 だって今そこに人がいないのを確認したのに。

 この影の薄さ。知っている。

「イッガーか! 驚かすな!」

「はぁ……すみません」

 全然すまなそうじゃない。
 やる気が見れないというか、マイペースというか。
 いや、仕事はできるから後者なんだろう。

「どうしたんだ? まだドスガにいたはずじゃ……」

「あ、はい。その、ちょっと急用があったんで」

「急用?」

「はい、ミストさんから、急いで隊長に伝えろって」

「ミストから? 何の話だ?」

「はぁ……えっとですね……」

 こいつ、本当に会話のテンポがゆっくりになるよなぁ。
 どうも急用と言われても危機感が湧かない。

 だがその内容は、これまでのことをぶっ飛ばすようなほど強力なものだった。

「ワーンス、ドスガ、トロン、スーンが挙兵しました。狙いはフィルフ王国。ジーン師団長以下3千の兵は風前の灯火です」
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