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第2章 南郡平定戦
第46話 隘路
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大地を震わす馬蹄の音が響く。
競馬には1度か2度足を運んだことがあるけど、その時の馬が起こす音と振動には圧巻された。
その数倍、いや数十倍の量の馬が走れば、その迫力は言語を絶するだろう。
3千と200の軍団。
3千と200の騎馬。
3千と200の援軍。
俺の部隊とブリーダの部隊の合わせて3千200が王都バーベル南部の平原を駆け抜ける。
俺の部隊が少し増えているのは、前回間に合わなかった残りの100人に馬があてがわれたからだ。
そうまでして編成を急いだのは、今回の援軍が何よりスピードを重視するため。
何事もなければサカキに半日遅れて南郡入りできるはずだ。
よくよく考えたら、俺の部隊とブリーダの部隊は因縁で結びついていると言ってもいい。あの時、俺らと彼らは敵対していたが、今はこうして轡を並べているのも感慨深い。少年漫画のお約束みたいだ。
「隊長殿、どうされましたか?」
左を走るクロエが聞いてきた。
もう2日目の行軍になるというのに、まったく堪えたようすはない。
正直、俺はもうへばっている。
「貴様はやはり何もわかってないのだな。隊長は体力がないのだ。お疲れになっているけど、今は何より速度が大事だから弱気は見せられないという隊長の心意気が分からないのか?」
「ウィット。合ってるけど、もっと言葉に気を付けようねー?」
「はっ……すみませんでした!」
「ぷぷー、怒られてやんのー!」
「う、うるさい! そもそも貴様がごちゃごちゃ言うからだろうが!」
はぁ、相変わらずの平常運転。
頼むから俺を挟んで言い合いしないで欲しい。
「む、隊長!」
ウィットが喚起する。
前を走るブリーダの軍が速度を落とした。
休憩か、と思ってしまう己の浅ましさに首を振るが、ついには本当に停止してしまった。
俺たちも慌てて速度を落として停止する。
ここで止まるとは聞いていない。
今日は国境にある山の谷間まで行くと朝話していたはずだけど……。
「ちょっと話してくる」
それだけクロエとウィットに言って、馬を前へ走らせる。
3千もの騎馬隊が並ぶのを横目に見ながら、先頭にいるブリーダのところへ駆けた。
「あ、これは軍師殿。こちらから出向かずすまないっす」
「いや、いい。どうしたんだ?」
「偵察部隊を先行させたんすが……おい、さっきのを軍師殿にも聞かせろ」
「はっ!」
ブリーダの隣にいた若い兵が答える。
「ここより5キロほど先。谷間の入り口にてわが軍が交戦中! 敵はおそらくワーンス軍。山を左右にした入り口に柵を立てて進路を塞いでおります!」
「なんだって……」
してやられた。
あそこは左右を山に囲まれた細い隘路(狭い道、難所)だ。
だから入り口を抑えてやれば、それ以上進むことはできない。しかも攻め口が正面しかないので、大軍で押そうにも物量で押しきれない。
「確かワーンスは2千とかって聞いてるっす。さすがのサカキ師団長とはいえ、同兵力で要所に陣取られて守られれば抜くのは難しいっすね」
ワーンスからここまではどんなにかかっても1日。
逆にサカキからの位置では2、3日かかる。
どうしても先に抑えられてしまうのだ。
「くそっ、時間がないってのに」
本当ならサカキの軍はもうワーンス王国についていてしかるべき時間だ。
だが今もここに足止めされているということは、半日ほどの遅延が発生したということになる。
「っす。だからここで停止してちょっと戦術を確かめたかったっす。相手に援軍が来たことを教える必要はないっすからね」
「さすがだな。良く敵を見ている」
「ま、自分もあの頃の自分とは思って欲しくないっすから。で、どうするっすかね。さすがに騎馬隊の機動力で翻弄できる相手ではなさそうっすが」
そう。騎馬隊の本領はその機動力にある。
よく歴史ものである、騎馬隊の突撃で敵が壊乱するなんてのはほぼありえない。馬は臆病な生き物で、敵にどっしり構えられて槍を出されれば突っ込んでくれない。
あわよくば突っ込んだとしても、槍で足止めされれば、足を止めた馬などただのデカい的だ。そうなれば歩兵の餌食になる。
かの騎馬大国で有名な甲斐の武田信玄も、騎馬隊が突っ込むのではなく、弓や鉄砲で怯ませ歩兵で敵を乱した後に騎馬隊で蹂躙するという戦い方をしていた。
そもそも騎馬兵は部隊長が乗るもので、純粋な騎馬隊というのはかなり少なかったとされているのだ。
西洋の騎馬隊も、機動力を重視した軽騎兵と馬にも鎧をつけた重騎兵を上手く使い分けることに勝敗の妙があるのだ。
その機動力を、今回の戦闘では活かせない。敵を攻めるのは正面からしかないからだ。
かといって騎馬隊で正面突破しようにも、先ほどあったように槍で足止めされれば目も当てられない被害が出るだろう。
今は1人でも多くの兵が必要だ。こんなところで損耗している場合ではない。
だからブリーダの判断は正しい。
だが、どうする。
「めんどくさいっすね……馬でぴょーんとあの山を飛び越して裏に回れば楽なんすが」
「そりゃ無理だろ。あの険しい山を登るなんて――あっ!」
そうだ。それがあった。
というかそれしかない。
あの有名な戦いを忘れるとは、やっぱりどこか最近の俺は精彩を欠いているようだ。
「何か閃いたっすか!?」
ブリーダが目を輝かせてこちらを見てくる。
だからちょっと得意げになって、ドヤ顔で俺は言ってみた。
「あぁ、1つだけ教えてあげるよブリーダ。敵が考えそうもないところから攻撃するから奇襲って言うんだ」
競馬には1度か2度足を運んだことがあるけど、その時の馬が起こす音と振動には圧巻された。
その数倍、いや数十倍の量の馬が走れば、その迫力は言語を絶するだろう。
3千と200の軍団。
3千と200の騎馬。
3千と200の援軍。
俺の部隊とブリーダの部隊の合わせて3千200が王都バーベル南部の平原を駆け抜ける。
俺の部隊が少し増えているのは、前回間に合わなかった残りの100人に馬があてがわれたからだ。
そうまでして編成を急いだのは、今回の援軍が何よりスピードを重視するため。
何事もなければサカキに半日遅れて南郡入りできるはずだ。
よくよく考えたら、俺の部隊とブリーダの部隊は因縁で結びついていると言ってもいい。あの時、俺らと彼らは敵対していたが、今はこうして轡を並べているのも感慨深い。少年漫画のお約束みたいだ。
「隊長殿、どうされましたか?」
左を走るクロエが聞いてきた。
もう2日目の行軍になるというのに、まったく堪えたようすはない。
正直、俺はもうへばっている。
「貴様はやはり何もわかってないのだな。隊長は体力がないのだ。お疲れになっているけど、今は何より速度が大事だから弱気は見せられないという隊長の心意気が分からないのか?」
「ウィット。合ってるけど、もっと言葉に気を付けようねー?」
「はっ……すみませんでした!」
「ぷぷー、怒られてやんのー!」
「う、うるさい! そもそも貴様がごちゃごちゃ言うからだろうが!」
はぁ、相変わらずの平常運転。
頼むから俺を挟んで言い合いしないで欲しい。
「む、隊長!」
ウィットが喚起する。
前を走るブリーダの軍が速度を落とした。
休憩か、と思ってしまう己の浅ましさに首を振るが、ついには本当に停止してしまった。
俺たちも慌てて速度を落として停止する。
ここで止まるとは聞いていない。
今日は国境にある山の谷間まで行くと朝話していたはずだけど……。
「ちょっと話してくる」
それだけクロエとウィットに言って、馬を前へ走らせる。
3千もの騎馬隊が並ぶのを横目に見ながら、先頭にいるブリーダのところへ駆けた。
「あ、これは軍師殿。こちらから出向かずすまないっす」
「いや、いい。どうしたんだ?」
「偵察部隊を先行させたんすが……おい、さっきのを軍師殿にも聞かせろ」
「はっ!」
ブリーダの隣にいた若い兵が答える。
「ここより5キロほど先。谷間の入り口にてわが軍が交戦中! 敵はおそらくワーンス軍。山を左右にした入り口に柵を立てて進路を塞いでおります!」
「なんだって……」
してやられた。
あそこは左右を山に囲まれた細い隘路(狭い道、難所)だ。
だから入り口を抑えてやれば、それ以上進むことはできない。しかも攻め口が正面しかないので、大軍で押そうにも物量で押しきれない。
「確かワーンスは2千とかって聞いてるっす。さすがのサカキ師団長とはいえ、同兵力で要所に陣取られて守られれば抜くのは難しいっすね」
ワーンスからここまではどんなにかかっても1日。
逆にサカキからの位置では2、3日かかる。
どうしても先に抑えられてしまうのだ。
「くそっ、時間がないってのに」
本当ならサカキの軍はもうワーンス王国についていてしかるべき時間だ。
だが今もここに足止めされているということは、半日ほどの遅延が発生したということになる。
「っす。だからここで停止してちょっと戦術を確かめたかったっす。相手に援軍が来たことを教える必要はないっすからね」
「さすがだな。良く敵を見ている」
「ま、自分もあの頃の自分とは思って欲しくないっすから。で、どうするっすかね。さすがに騎馬隊の機動力で翻弄できる相手ではなさそうっすが」
そう。騎馬隊の本領はその機動力にある。
よく歴史ものである、騎馬隊の突撃で敵が壊乱するなんてのはほぼありえない。馬は臆病な生き物で、敵にどっしり構えられて槍を出されれば突っ込んでくれない。
あわよくば突っ込んだとしても、槍で足止めされれば、足を止めた馬などただのデカい的だ。そうなれば歩兵の餌食になる。
かの騎馬大国で有名な甲斐の武田信玄も、騎馬隊が突っ込むのではなく、弓や鉄砲で怯ませ歩兵で敵を乱した後に騎馬隊で蹂躙するという戦い方をしていた。
そもそも騎馬兵は部隊長が乗るもので、純粋な騎馬隊というのはかなり少なかったとされているのだ。
西洋の騎馬隊も、機動力を重視した軽騎兵と馬にも鎧をつけた重騎兵を上手く使い分けることに勝敗の妙があるのだ。
その機動力を、今回の戦闘では活かせない。敵を攻めるのは正面からしかないからだ。
かといって騎馬隊で正面突破しようにも、先ほどあったように槍で足止めされれば目も当てられない被害が出るだろう。
今は1人でも多くの兵が必要だ。こんなところで損耗している場合ではない。
だからブリーダの判断は正しい。
だが、どうする。
「めんどくさいっすね……馬でぴょーんとあの山を飛び越して裏に回れば楽なんすが」
「そりゃ無理だろ。あの険しい山を登るなんて――あっ!」
そうだ。それがあった。
というかそれしかない。
あの有名な戦いを忘れるとは、やっぱりどこか最近の俺は精彩を欠いているようだ。
「何か閃いたっすか!?」
ブリーダが目を輝かせてこちらを見てくる。
だからちょっと得意げになって、ドヤ顔で俺は言ってみた。
「あぁ、1つだけ教えてあげるよブリーダ。敵が考えそうもないところから攻撃するから奇襲って言うんだ」
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