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第2章 南郡平定戦
第72話 突入
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「この先よ」
水鏡の先導で俺たちはドスガの街を北上した。
俺が外に出ている間、王宮に侵入するのに都合の良い場所を探してもらっていたから、どこに連れていかれるかは知らない。
俺とニーアは並んで、その後ろを追うことになる。
若干気まずい。
ニーアとはまだちゃんと話せてはいない。
あの時のニーアはほぼ意識がないような状況だったし。
「……あのねジャンヌ」
なんて迷っていると、ニーアに先手を打たれた。
「あぁ、どうした?」
なるだけ平静を装って答える。
何を言われるか、それを覚悟する時間でもあった。
「ごめんね。女王様のこと、ううん、ジャンヌに酷い事を言ったことも」
言われたのはニーアが前に夢うつつで言っていた言葉。
それはつまり彼女の本心という事。それがはっきりと聞けて、心休まる思いと同時に、俺から謝るべきだったという罪悪感が芽生える。
「いや、俺の方こそ済まなかった。マリアだけじゃない、ニーアにも」
「え、なんであたしにも? その謝罪の言葉は女王様に取っておいてもらった方がいいんじゃない?」
「お前にあれだけ警告されてた。なのに俺は無視して、マリアをひどい目に合わせた。考えればマリアには女王として語ってきただけだったからな。しっかり話をしないと。だからその謝罪だ。マリアにもしっかりと謝る、それから話をする。これは俺のけじめだよ」
「ふふっ」
笑われた。
けど不快な感じはしない。
どこか誇りを持った笑みに思えたから。
「まさかジャンヌにそのことを聞かされるとはねー」
「そのこと?」
「前にね。ある人から聞いたの。“語る”のと“話す”のは違う事だって」
「はぁ……」
「語るってのは一方的に話をすること。一方通行なんだよ。でも話すは違う。受け答えをして、会話にしなくちゃいけない。独りじゃできないことだって。ほら、あたしって武門の家だったから。父親には問題があったら殴って解決しろって言われてたこともあって、その話は目からキノコだったわ」
怖いよ。
良い話が最後で台無しだ。
でも、確かにとは思う。
話し合う。それが俺たちには足りていなかったこと。
「あぁ、そうだな。ちゃんと話す。そうするよ」
「だからさ、ジャンヌ。これ終わったら女王様とお喋り会やろう!」
「女子会か……ま、それもいいか」
「うわっ、ジャンヌが即答した!? てか女子会? なにそれ、良い響き。それいただき! てかそれで決定!」
そんな驚かれることだったか。
まぁ、俺もあーだこーだ言って避けてきた部分もあるからな。文系陰キャの真骨頂というところか。
それも少しは変えていこう。
それがきっと、この国のため――なにより俺のためには良いことになると思うから。
「はいはい、いちゃつくのはもういい? てかそんな男女と女子会とか……え、なにそれ羨ましい、私も参加――いや、ふざけないでアッキー!」
「なんで俺が怒られるの!?」
「ふっふー、残念でした。これはオムカの女子会ですー。他国の人は黙っててくれますかー?」
「はぁ? それならもうシータでやったしー。別に羨ましいなんて思ってないですー。てかそんな二番煎じで、楽しいわけ?」
「楽しいに決まってるじゃん。だってジャンヌと女王様だよ? ダブル可愛いを独占できる機会なんてほとんどないよ?」
「くっ……やるわね」
やるわねじゃねぇよ。
おい水鏡。お前なんだかどんどんニーアと同じレベルになってきてるぞ、特に知能指数が。
これ以上は水鏡が可哀そうな気がして、俺は咳払いして話を先に進めることにした。
「で、そこの井戸か?」
「え、ええ。ここから王宮に入るわ」
少し頬を赤らめた水鏡だったが、何事もなかったように話を進める。
「え、もしかして地下水路から入ろうっていうの? 嫌だよ、そんなとこ。てゆうかそうしてる間に女王様危険なんじゃない?」
「ああそうだな。けど行くのは下じゃない。上からだ」
ニーアが不思議そうに首をかしげるが、それも仕方ない。
これはプレイヤーではない相手には想像しにくいだろう。
「じゃあ2人とも。わたしに掴まって。絶対離さないでね。死ぬから」
そう言われると怖いな。
けどやるしかない。
井戸のふちに立つ水鏡の後ろに立つ。
俺はどうしようか迷って、身長差的にも男女的にも背中から腰に手を回した。
さらにその後ろからニーアが来て、俺を挟みながら水鏡の肩に手を回す。
「おおう、ジャンヌをミカっちと一緒にサンドイッチ。これは……滾る!」
「馬鹿なこと言ってないで。アッキー落とさないようしっかりしなさいよ!」
ギュッとニーアの手に力が入る。
その分、水鏡の背中に押されて胸元が苦しい。
てか何かに押されてる。背中に感じる、柔らかくて大きい何か……! てかぐりぐりするな! まさかわざと!? わざとなのか、この女! 痴女!?
「ぐっ……うぐぅぅ」
「ちょっと変な声出さないの! 集中できないでしょ!」
さらに押し付けられて水鏡の背中に顔面が押し当てられる。
い、息が……。
「ひゃう! ふ、ふざけないの!」
「ぞ、ぞんばごぼびっべ……」
「はぅぅぅ! こ、腰はなし! 背中にしなさい。背負うから!」
というわけでニーアに手伝ってもらって、水鏡におんぶされる形に。
その後ろからニーアが俺をサンドするのは変わらない。
けど息苦しさはなくなったから、後は覚悟のみだ。
「じゃあいくわよ……『大人魚姫』!」
水鏡が唱えた瞬間、井戸の中から大量の水が噴き出してきた。
それに乗った俺たちは、一気に上空へと押し出される。
「うおおおおおおおお!」
逆バンジーってこんな感じか。
いや、逆バンジーなんてしたこともないけど。急速な急上昇、空気抵抗がヤバい、視界も三半規管も一気に混乱する。
水鏡の肩越しに見える風景が安定した。
はるかに見える青い空。そして眼下には緑の山々が悠々とした大自然を展開している。
下は見ないようにした。
見れば絶対後悔するだろうから。
案外、俺は高所恐怖症なのかもしれない。いや、こんな命綱なしで空に放りあげられれば誰だってそうなるだろ。
ただ高さはなんとなくわかった。
目の高さに王宮の3階部分が見える。つまり地面から上空10メートルはゆうに超えているだろう。
「アッキー、場所は!?」
「西の塔! あのぽつんと出た塔の最上階だ!」
「了解!」
水鏡が軽快に答える。
と、急に体を支える力がなくなった。
下から突き上げる水の力がなくなったのだ。
つまりそれは――
「落ち――ぶわっ!」
横から衝撃。
水の方向が変わったのだ。
それは俺たちを目標の窓にぶつけるように飛んでいく。
「ぶ、ぶつかる!」
「しないわよ!」
水鏡の言葉に応えるかのように、もう1つの水の奔流が俺たちを通り過ぎる。
そしてその水が窓を砕いた。
瞬間、悲鳴が聞こえた気がした。
いや、名前を呼ばれた気がした。
確信する。
あそこにマリアがいる。
そして助けを求めている。
だから、
「突っ込め!」
「分かってる!」
加速した。
そして割れた窓に吸い込むように体が入り、一瞬の浮遊感。
何が起きたか分からないが、加速のエネルギーが何かで消え去ったようだ。
降り立つ。
水浸しの絨毯。天幕付きのベッド。
軟禁場所とはいえ、いやだからこそ、それなりに豪華なつくりをしているようだ。
見回す。
そこそこ広い部屋に、衛兵らしき男たちが十人ほど転がっている。
他にはドスガ王、マツナガ、そして横たわるクロエに寄りそうマリア。
どうやらギリギリだったらしい。
だがこれで逆転だ。
ここですべてを終わらせる。そのために来た。
「待たせたなマリア」
だから少しだけ格好つけてみようと思って、俺はマリアに向かってこう言った。
「ヒーロー参上、ってか?」
水鏡の先導で俺たちはドスガの街を北上した。
俺が外に出ている間、王宮に侵入するのに都合の良い場所を探してもらっていたから、どこに連れていかれるかは知らない。
俺とニーアは並んで、その後ろを追うことになる。
若干気まずい。
ニーアとはまだちゃんと話せてはいない。
あの時のニーアはほぼ意識がないような状況だったし。
「……あのねジャンヌ」
なんて迷っていると、ニーアに先手を打たれた。
「あぁ、どうした?」
なるだけ平静を装って答える。
何を言われるか、それを覚悟する時間でもあった。
「ごめんね。女王様のこと、ううん、ジャンヌに酷い事を言ったことも」
言われたのはニーアが前に夢うつつで言っていた言葉。
それはつまり彼女の本心という事。それがはっきりと聞けて、心休まる思いと同時に、俺から謝るべきだったという罪悪感が芽生える。
「いや、俺の方こそ済まなかった。マリアだけじゃない、ニーアにも」
「え、なんであたしにも? その謝罪の言葉は女王様に取っておいてもらった方がいいんじゃない?」
「お前にあれだけ警告されてた。なのに俺は無視して、マリアをひどい目に合わせた。考えればマリアには女王として語ってきただけだったからな。しっかり話をしないと。だからその謝罪だ。マリアにもしっかりと謝る、それから話をする。これは俺のけじめだよ」
「ふふっ」
笑われた。
けど不快な感じはしない。
どこか誇りを持った笑みに思えたから。
「まさかジャンヌにそのことを聞かされるとはねー」
「そのこと?」
「前にね。ある人から聞いたの。“語る”のと“話す”のは違う事だって」
「はぁ……」
「語るってのは一方的に話をすること。一方通行なんだよ。でも話すは違う。受け答えをして、会話にしなくちゃいけない。独りじゃできないことだって。ほら、あたしって武門の家だったから。父親には問題があったら殴って解決しろって言われてたこともあって、その話は目からキノコだったわ」
怖いよ。
良い話が最後で台無しだ。
でも、確かにとは思う。
話し合う。それが俺たちには足りていなかったこと。
「あぁ、そうだな。ちゃんと話す。そうするよ」
「だからさ、ジャンヌ。これ終わったら女王様とお喋り会やろう!」
「女子会か……ま、それもいいか」
「うわっ、ジャンヌが即答した!? てか女子会? なにそれ、良い響き。それいただき! てかそれで決定!」
そんな驚かれることだったか。
まぁ、俺もあーだこーだ言って避けてきた部分もあるからな。文系陰キャの真骨頂というところか。
それも少しは変えていこう。
それがきっと、この国のため――なにより俺のためには良いことになると思うから。
「はいはい、いちゃつくのはもういい? てかそんな男女と女子会とか……え、なにそれ羨ましい、私も参加――いや、ふざけないでアッキー!」
「なんで俺が怒られるの!?」
「ふっふー、残念でした。これはオムカの女子会ですー。他国の人は黙っててくれますかー?」
「はぁ? それならもうシータでやったしー。別に羨ましいなんて思ってないですー。てかそんな二番煎じで、楽しいわけ?」
「楽しいに決まってるじゃん。だってジャンヌと女王様だよ? ダブル可愛いを独占できる機会なんてほとんどないよ?」
「くっ……やるわね」
やるわねじゃねぇよ。
おい水鏡。お前なんだかどんどんニーアと同じレベルになってきてるぞ、特に知能指数が。
これ以上は水鏡が可哀そうな気がして、俺は咳払いして話を先に進めることにした。
「で、そこの井戸か?」
「え、ええ。ここから王宮に入るわ」
少し頬を赤らめた水鏡だったが、何事もなかったように話を進める。
「え、もしかして地下水路から入ろうっていうの? 嫌だよ、そんなとこ。てゆうかそうしてる間に女王様危険なんじゃない?」
「ああそうだな。けど行くのは下じゃない。上からだ」
ニーアが不思議そうに首をかしげるが、それも仕方ない。
これはプレイヤーではない相手には想像しにくいだろう。
「じゃあ2人とも。わたしに掴まって。絶対離さないでね。死ぬから」
そう言われると怖いな。
けどやるしかない。
井戸のふちに立つ水鏡の後ろに立つ。
俺はどうしようか迷って、身長差的にも男女的にも背中から腰に手を回した。
さらにその後ろからニーアが来て、俺を挟みながら水鏡の肩に手を回す。
「おおう、ジャンヌをミカっちと一緒にサンドイッチ。これは……滾る!」
「馬鹿なこと言ってないで。アッキー落とさないようしっかりしなさいよ!」
ギュッとニーアの手に力が入る。
その分、水鏡の背中に押されて胸元が苦しい。
てか何かに押されてる。背中に感じる、柔らかくて大きい何か……! てかぐりぐりするな! まさかわざと!? わざとなのか、この女! 痴女!?
「ぐっ……うぐぅぅ」
「ちょっと変な声出さないの! 集中できないでしょ!」
さらに押し付けられて水鏡の背中に顔面が押し当てられる。
い、息が……。
「ひゃう! ふ、ふざけないの!」
「ぞ、ぞんばごぼびっべ……」
「はぅぅぅ! こ、腰はなし! 背中にしなさい。背負うから!」
というわけでニーアに手伝ってもらって、水鏡におんぶされる形に。
その後ろからニーアが俺をサンドするのは変わらない。
けど息苦しさはなくなったから、後は覚悟のみだ。
「じゃあいくわよ……『大人魚姫』!」
水鏡が唱えた瞬間、井戸の中から大量の水が噴き出してきた。
それに乗った俺たちは、一気に上空へと押し出される。
「うおおおおおおおお!」
逆バンジーってこんな感じか。
いや、逆バンジーなんてしたこともないけど。急速な急上昇、空気抵抗がヤバい、視界も三半規管も一気に混乱する。
水鏡の肩越しに見える風景が安定した。
はるかに見える青い空。そして眼下には緑の山々が悠々とした大自然を展開している。
下は見ないようにした。
見れば絶対後悔するだろうから。
案外、俺は高所恐怖症なのかもしれない。いや、こんな命綱なしで空に放りあげられれば誰だってそうなるだろ。
ただ高さはなんとなくわかった。
目の高さに王宮の3階部分が見える。つまり地面から上空10メートルはゆうに超えているだろう。
「アッキー、場所は!?」
「西の塔! あのぽつんと出た塔の最上階だ!」
「了解!」
水鏡が軽快に答える。
と、急に体を支える力がなくなった。
下から突き上げる水の力がなくなったのだ。
つまりそれは――
「落ち――ぶわっ!」
横から衝撃。
水の方向が変わったのだ。
それは俺たちを目標の窓にぶつけるように飛んでいく。
「ぶ、ぶつかる!」
「しないわよ!」
水鏡の言葉に応えるかのように、もう1つの水の奔流が俺たちを通り過ぎる。
そしてその水が窓を砕いた。
瞬間、悲鳴が聞こえた気がした。
いや、名前を呼ばれた気がした。
確信する。
あそこにマリアがいる。
そして助けを求めている。
だから、
「突っ込め!」
「分かってる!」
加速した。
そして割れた窓に吸い込むように体が入り、一瞬の浮遊感。
何が起きたか分からないが、加速のエネルギーが何かで消え去ったようだ。
降り立つ。
水浸しの絨毯。天幕付きのベッド。
軟禁場所とはいえ、いやだからこそ、それなりに豪華なつくりをしているようだ。
見回す。
そこそこ広い部屋に、衛兵らしき男たちが十人ほど転がっている。
他にはドスガ王、マツナガ、そして横たわるクロエに寄りそうマリア。
どうやらギリギリだったらしい。
だがこれで逆転だ。
ここですべてを終わらせる。そのために来た。
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だから少しだけ格好つけてみようと思って、俺はマリアに向かってこう言った。
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