182 / 627
第2章 南郡平定戦
閑話24 モーモ(ドスガ王国 元四天王)
しおりを挟む
オムカ国女王を殺す。
それだけが今の生きる原動力だった。
奇襲がバレて、さんざんに打ち破られた後、本隊には戻らなかった。
戻れなかったわけじゃない。
戻らなかった。
どうせ戻ったところで怒り狂った王に殺される。
ジョーショーが死んだ以上、それを取りなす人間はいない。
だから逃げた。
恥も外聞も捨てて逃げた。
そうすると、自分は自由だと思った。
けど1つだけやり直したことがある。
あの2人に対する復讐。
ジャンヌ・ダルクとニーア・セインベルク。
わたしを侮辱した許されない女たち。
彼女たちに悲憤を。
彼女たちに慟哭を。
彼女たちに怨嗟を。
そう思った時に、何が一番有効かを考えた。
直接の復讐は美しくない。
あの美しい2人が狂い悶えて顔をゆがませるのを見たい。
そのためにターゲットになったのはただ1人。
それがオムカ国女王。
もともと、美しいものが好きだった。
その筆頭が自分の顔だった。誰もがわたしの美貌にひれ伏した。だから散々にもてあそんでやった。
軍に入ったのも、ここなら自分の欲望を発散しても許されるかと思ったからだ。
ドスガ王の方針が自分に合っていたというのもある。
だが、あのエイン帝国との戦争でわたしは致命的な傷を負った。
命には別条はない。
ただ顔面に深く残る傷。
それまで言い寄ってきた男たちが、パタリといなくなった。
誰もがこの深々と残る傷跡を見て、驚き、すくみ、声をかけることをしなくなった。
自分の美貌は衰えていない。それは自覚している。
けど、この傷が。この傷のせいで。
美しいではなく、恐ろしいに変貌してしまった。
その時、自分の心も変わってしまったのだろう。
美しいものを見ると恍惚を覚えると同時、自分は失ってしまったものを見せつけられるようで、残忍な気分が湧き上がってきたのだ。
ためしにそれを壊してみた時、快感が自分の中を駆け抜けた。
あぁ、そうだ。
美しいものは簡単に壊れるから美しいのだ。
散り際が一番美しいのだ。
その真理にたどり着くのに時間はいらなかった。
そう考えると、自分の傷も逆に美しいものだと考えられるようになった。
そして壊した。
壊した。
徹底的に、圧倒的に、残虐的に。
壊しに壊して、潰すに潰して、殺すに殺した。
何度絶頂を迎えたか分からない。
そして今。
最高の獲物を手に入れた。
至高のものを守るため単身で軍に立ち向かう女傑。
究極のものを守るため単身で投降してきた女神の化身。
あれほど美しいものを見たことがない。
ならばそれを壊した時、さらに美しくなるに違いない。
もう想像しただけでイってしまいそうだ。
だからこうして王宮に忍び込んだ。
どうやら戦争はドスガの負けらしい。
王都はオムカに制圧されたし、何やら水が噴き出て西の塔に直撃した時に、ドスガ王の死を直感した。
あのお方もある意味美しい。
圧倒的な暴力と自尊心で醜くも走るその姿が、無様で滑稽で美しい。
だからその死に立ち会えないのは残念だった。
けどそれよりメインディッシュだ。
彼らは西の塔にいる。
そこから下に降りるには王宮の3階を通らないといけない。
つまり、襲撃ポイントが存在するということ。
あとは待つだけでいい。
彼らが降りて来るのを。
勝利という油断と共に。
「水鏡、クロエは大丈夫そうなのか?」
「ええ。とりあえず医者に見せたわ。傷はそこまで深くないけど、血を失ったから。でも大丈夫だろうって」
「そうか……まぁ、なんにせよよかった」
「うむ! クロエも頑張ったしの!」
来た。
声が近づいてくる。
今、西の塔から王宮に入るための渡り通路を進んでいるはず。
あと少しでわたしの下を通る。
ここは王宮に入るためのドア。
その天井にある飾りに足をひっかけ、獲物が来るのを待つ。
ドアのところに衛兵がいるが、こちらそれより真上5メートルの位置にいるのだ。天井を見上げようと思わない限り気づかないし、万一見上げたとしても暗くてよくわからないだろう。
完全に気配を消した。
後はドアが開いて入ってくる順番を見極めること。
女王の見た目は把握している。
真っ白な白髪。それを目掛けて飛び降りて刺せばいい。
そうすればあの2人はどんな顔をするだろう。
どんな音を立てて壊れてくれるだろう。
それが楽しみで、こんなところにいる苦しみを和らげてくれる。
「この後、すぐ戻るの? 戴冠式はあと2週間くらいでしょ?」
「いやー、ここ数日は事後処理で帰れないだろ。マリアは先に帰すけど」
「うー、ジャンヌはまた来ない気かの? 話し合うという約束じゃ」
「絶対守る! すぐに事後処理を終わらせる! 帰ったらなんでもするから!」
「それ、浮気男の典型的な言い訳じゃない?」
「浮気! ジャンヌは浮気しておったのか!?」
「ちがーう!」
ドアが開いた。
入ってくる。
先頭はジャンヌ・ダルク。
2人目は知らない女。
3人目。白髪。これだ。
狙いを定めて飛び降りる。
1秒後か、2秒後か。
あの白髪を真っ赤に染めてあげれば、ジャンヌ・ダルクはどんな顔をするだろう。
ニーア・セインベルクという生意気な女がいないが、それは後で見ればいい。
だから、死ね。
その脳漿をぶちまけて、目ん玉をくりぬいて、耳を削ぎ落して、鼻を潰して、舌をちょん切って、喉を掻き切って、手足をバラバラにして、指を一本ずつ落として、腸をぶちまけて、心臓にナイフを突き立てて――死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
手にしたナイフが白髪の少女に突き刺さる。
その直前。
視界の隅に金属の光が見えた。
それが何かを知る前に、腹部に何かが入ってきた。
それは押しのけようにも遠慮なく入ってきて、激痛を生み出す。
「がっ……あぁぁぁぁぁ!!」
突き抜けた。
腹から入った何かは、背中に突き抜けた。
激痛に手に持ったナイフが落ちる。
何が起きた。
思ったと同時に見たのは、ドアの傍にいた衛兵。
その掲げる槍に自分が串刺しにされている。
なんて不運。
あんなものに自ら飛び込んでいくなんて。
視線を動かす。
すでにオムカの王女はジャンヌ・ダルクと見知らぬ女性に庇われて襲えない。
「たまたま刺さった、なんて思ってるからダサいのよ、あんたは」
兜をかぶった衛兵の声。聞き覚えがある。
兜を取り、その顔がこちらに向く。
そしてそこにあったのは――
「ニーア・セインベルクぅぅぅ!!」
「叫ぶな、うるさい」
突き立てた槍をそいつは無造作に振る。わたしごとだ。
床にたたきつけられ一瞬絶息する。
腹に刺さった何かが抜けていく。
そして栓を失った今、腹と背中から命の源が流れていく。
「あ……あああああああ! わたしの、血が……血が……」
体から力が抜けていく。
視線。
わたしを見るニーア・セインベルクの瞳が暗い、家畜を見るような冷たい視線を向けてくる。
許せない。こいつ。
わたしを待ち伏せしやがった。
そしてこんな酷い。痛い。怒り。苦しい。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
「そんな睨むなって言ってんだろ。あたしだって腹に据えかねてるんだ」
何が腹に据えかねるだ。
こっちのセリフだ。
だから殺してやる。
ナイフはどこだ。
こいつの首を掻き切ってやる。
「こう見えても受けた恩は二度と忘れない。逆に、受けた恨みは一生忘れない。分かるか、この意味が」
知るか。
殺してやる。
今すぐだ。
「てめぇが殴った178発をお返しするつってんだよ」
殴られた。
酷い。こっちは痛みで動けないというのに。
「さって、あと177発あるんだけど。それまで生きてられる? おたく?」
なんだ、この女は。
これが噂に聞く悪魔というものか。
一切の慈悲なく、遠慮もなく、圧倒的力と破壊で他者を蹂躙する。
それは、きっと――
「ニーア!」
女王の声が響く。
その声にどんな意味が込められたか分からない。
だがニーアは顔をしかめ、深くため息をつく。
「ったく。うちの女王様は甘くていけない。ま、それだからこそいいんだけど」
「殺せ」
自然、声が出た。
体を起こす。
血が更に流れた。
「あぁそのつもりだよ。あんたはあたしが殺す。地下牢で誓ったことだ。けど女王様の言いつけ通り、一突きで仕留める」
ニーア・セインベルクが槍を構える。
その姿……あぁ、なんて美しい。
これほどまでに残虐な人がいただろうか。
これほどまでに容赦ない人がいただろうか。
これほどまでに破壊的な人がいただろうか。
いない。見たことない。
だからこそ――美しい。
その美しいものにわたしは壊される。
それは、たった一度きり味わえる、最上のご褒美。
ニーア・セインベルクの表情に驚きが見えた。
わたしは今、どんな顔をしているだろう。
分からない。
少なくとも笑っていることはないと思う。
だってこれから絶頂を迎えるのだから。
笑って気を抜いてその絶頂を逃すなんて損だ。
だから――
美しいものが表情を消す。
次の瞬間、胸に何かが入ってきた。
あぁ……この感覚。
一生に一度きり味わえる絶頂。
わたしは幸せ者だ。
そう考えると、頑張って生きた意味がある。
そう思った瞬間、光に包まれ、何も感じなくなった。
それだけが今の生きる原動力だった。
奇襲がバレて、さんざんに打ち破られた後、本隊には戻らなかった。
戻れなかったわけじゃない。
戻らなかった。
どうせ戻ったところで怒り狂った王に殺される。
ジョーショーが死んだ以上、それを取りなす人間はいない。
だから逃げた。
恥も外聞も捨てて逃げた。
そうすると、自分は自由だと思った。
けど1つだけやり直したことがある。
あの2人に対する復讐。
ジャンヌ・ダルクとニーア・セインベルク。
わたしを侮辱した許されない女たち。
彼女たちに悲憤を。
彼女たちに慟哭を。
彼女たちに怨嗟を。
そう思った時に、何が一番有効かを考えた。
直接の復讐は美しくない。
あの美しい2人が狂い悶えて顔をゆがませるのを見たい。
そのためにターゲットになったのはただ1人。
それがオムカ国女王。
もともと、美しいものが好きだった。
その筆頭が自分の顔だった。誰もがわたしの美貌にひれ伏した。だから散々にもてあそんでやった。
軍に入ったのも、ここなら自分の欲望を発散しても許されるかと思ったからだ。
ドスガ王の方針が自分に合っていたというのもある。
だが、あのエイン帝国との戦争でわたしは致命的な傷を負った。
命には別条はない。
ただ顔面に深く残る傷。
それまで言い寄ってきた男たちが、パタリといなくなった。
誰もがこの深々と残る傷跡を見て、驚き、すくみ、声をかけることをしなくなった。
自分の美貌は衰えていない。それは自覚している。
けど、この傷が。この傷のせいで。
美しいではなく、恐ろしいに変貌してしまった。
その時、自分の心も変わってしまったのだろう。
美しいものを見ると恍惚を覚えると同時、自分は失ってしまったものを見せつけられるようで、残忍な気分が湧き上がってきたのだ。
ためしにそれを壊してみた時、快感が自分の中を駆け抜けた。
あぁ、そうだ。
美しいものは簡単に壊れるから美しいのだ。
散り際が一番美しいのだ。
その真理にたどり着くのに時間はいらなかった。
そう考えると、自分の傷も逆に美しいものだと考えられるようになった。
そして壊した。
壊した。
徹底的に、圧倒的に、残虐的に。
壊しに壊して、潰すに潰して、殺すに殺した。
何度絶頂を迎えたか分からない。
そして今。
最高の獲物を手に入れた。
至高のものを守るため単身で軍に立ち向かう女傑。
究極のものを守るため単身で投降してきた女神の化身。
あれほど美しいものを見たことがない。
ならばそれを壊した時、さらに美しくなるに違いない。
もう想像しただけでイってしまいそうだ。
だからこうして王宮に忍び込んだ。
どうやら戦争はドスガの負けらしい。
王都はオムカに制圧されたし、何やら水が噴き出て西の塔に直撃した時に、ドスガ王の死を直感した。
あのお方もある意味美しい。
圧倒的な暴力と自尊心で醜くも走るその姿が、無様で滑稽で美しい。
だからその死に立ち会えないのは残念だった。
けどそれよりメインディッシュだ。
彼らは西の塔にいる。
そこから下に降りるには王宮の3階を通らないといけない。
つまり、襲撃ポイントが存在するということ。
あとは待つだけでいい。
彼らが降りて来るのを。
勝利という油断と共に。
「水鏡、クロエは大丈夫そうなのか?」
「ええ。とりあえず医者に見せたわ。傷はそこまで深くないけど、血を失ったから。でも大丈夫だろうって」
「そうか……まぁ、なんにせよよかった」
「うむ! クロエも頑張ったしの!」
来た。
声が近づいてくる。
今、西の塔から王宮に入るための渡り通路を進んでいるはず。
あと少しでわたしの下を通る。
ここは王宮に入るためのドア。
その天井にある飾りに足をひっかけ、獲物が来るのを待つ。
ドアのところに衛兵がいるが、こちらそれより真上5メートルの位置にいるのだ。天井を見上げようと思わない限り気づかないし、万一見上げたとしても暗くてよくわからないだろう。
完全に気配を消した。
後はドアが開いて入ってくる順番を見極めること。
女王の見た目は把握している。
真っ白な白髪。それを目掛けて飛び降りて刺せばいい。
そうすればあの2人はどんな顔をするだろう。
どんな音を立てて壊れてくれるだろう。
それが楽しみで、こんなところにいる苦しみを和らげてくれる。
「この後、すぐ戻るの? 戴冠式はあと2週間くらいでしょ?」
「いやー、ここ数日は事後処理で帰れないだろ。マリアは先に帰すけど」
「うー、ジャンヌはまた来ない気かの? 話し合うという約束じゃ」
「絶対守る! すぐに事後処理を終わらせる! 帰ったらなんでもするから!」
「それ、浮気男の典型的な言い訳じゃない?」
「浮気! ジャンヌは浮気しておったのか!?」
「ちがーう!」
ドアが開いた。
入ってくる。
先頭はジャンヌ・ダルク。
2人目は知らない女。
3人目。白髪。これだ。
狙いを定めて飛び降りる。
1秒後か、2秒後か。
あの白髪を真っ赤に染めてあげれば、ジャンヌ・ダルクはどんな顔をするだろう。
ニーア・セインベルクという生意気な女がいないが、それは後で見ればいい。
だから、死ね。
その脳漿をぶちまけて、目ん玉をくりぬいて、耳を削ぎ落して、鼻を潰して、舌をちょん切って、喉を掻き切って、手足をバラバラにして、指を一本ずつ落として、腸をぶちまけて、心臓にナイフを突き立てて――死ね。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
手にしたナイフが白髪の少女に突き刺さる。
その直前。
視界の隅に金属の光が見えた。
それが何かを知る前に、腹部に何かが入ってきた。
それは押しのけようにも遠慮なく入ってきて、激痛を生み出す。
「がっ……あぁぁぁぁぁ!!」
突き抜けた。
腹から入った何かは、背中に突き抜けた。
激痛に手に持ったナイフが落ちる。
何が起きた。
思ったと同時に見たのは、ドアの傍にいた衛兵。
その掲げる槍に自分が串刺しにされている。
なんて不運。
あんなものに自ら飛び込んでいくなんて。
視線を動かす。
すでにオムカの王女はジャンヌ・ダルクと見知らぬ女性に庇われて襲えない。
「たまたま刺さった、なんて思ってるからダサいのよ、あんたは」
兜をかぶった衛兵の声。聞き覚えがある。
兜を取り、その顔がこちらに向く。
そしてそこにあったのは――
「ニーア・セインベルクぅぅぅ!!」
「叫ぶな、うるさい」
突き立てた槍をそいつは無造作に振る。わたしごとだ。
床にたたきつけられ一瞬絶息する。
腹に刺さった何かが抜けていく。
そして栓を失った今、腹と背中から命の源が流れていく。
「あ……あああああああ! わたしの、血が……血が……」
体から力が抜けていく。
視線。
わたしを見るニーア・セインベルクの瞳が暗い、家畜を見るような冷たい視線を向けてくる。
許せない。こいつ。
わたしを待ち伏せしやがった。
そしてこんな酷い。痛い。怒り。苦しい。殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
「そんな睨むなって言ってんだろ。あたしだって腹に据えかねてるんだ」
何が腹に据えかねるだ。
こっちのセリフだ。
だから殺してやる。
ナイフはどこだ。
こいつの首を掻き切ってやる。
「こう見えても受けた恩は二度と忘れない。逆に、受けた恨みは一生忘れない。分かるか、この意味が」
知るか。
殺してやる。
今すぐだ。
「てめぇが殴った178発をお返しするつってんだよ」
殴られた。
酷い。こっちは痛みで動けないというのに。
「さって、あと177発あるんだけど。それまで生きてられる? おたく?」
なんだ、この女は。
これが噂に聞く悪魔というものか。
一切の慈悲なく、遠慮もなく、圧倒的力と破壊で他者を蹂躙する。
それは、きっと――
「ニーア!」
女王の声が響く。
その声にどんな意味が込められたか分からない。
だがニーアは顔をしかめ、深くため息をつく。
「ったく。うちの女王様は甘くていけない。ま、それだからこそいいんだけど」
「殺せ」
自然、声が出た。
体を起こす。
血が更に流れた。
「あぁそのつもりだよ。あんたはあたしが殺す。地下牢で誓ったことだ。けど女王様の言いつけ通り、一突きで仕留める」
ニーア・セインベルクが槍を構える。
その姿……あぁ、なんて美しい。
これほどまでに残虐な人がいただろうか。
これほどまでに容赦ない人がいただろうか。
これほどまでに破壊的な人がいただろうか。
いない。見たことない。
だからこそ――美しい。
その美しいものにわたしは壊される。
それは、たった一度きり味わえる、最上のご褒美。
ニーア・セインベルクの表情に驚きが見えた。
わたしは今、どんな顔をしているだろう。
分からない。
少なくとも笑っていることはないと思う。
だってこれから絶頂を迎えるのだから。
笑って気を抜いてその絶頂を逃すなんて損だ。
だから――
美しいものが表情を消す。
次の瞬間、胸に何かが入ってきた。
あぁ……この感覚。
一生に一度きり味わえる絶頂。
わたしは幸せ者だ。
そう考えると、頑張って生きた意味がある。
そう思った瞬間、光に包まれ、何も感じなくなった。
1
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる