知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

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第3章 帝都潜入作戦

第51話 ビンゴ王国からの使者2

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 ビンゴ王国――いや、旧ビンゴ王国からの使者。
 思えば去年も使者がやってきた。
 シータ王国に行く前だから7月ごろか。

 たった1年。
 あの頃は国名に旧がつくなんて誰が思っただろうか。

 謁見の間で俺たちはその使者を引見した。

 その使者は以前に来たようなちゃんとした身なりをしたものではなく、土や泥やで汚れた鎧にビンゴ軍を示す赤のインナーを着た軍人だった。ところどころ血のにじんだ包帯が巻かれているのは、刀傷だろう。

「疲れているところ申し訳ありませんが、何が起こったのかお話もらえますか?」

 マツナガが丁寧にねぎらい、使者の口上を促す。
 こいつにも人の血が流れてたんだな、と少し意外な気持ちで思った。

「はっ、我が王国は先月の16日。主都スィート・スィトンが、エイン帝国軍の攻撃を受け全面的に降伏。王室は皆、帝国の首都へと連行されました……」

 涙を浮かべて使者が語る。

 言われても国が亡びる、というイメージがやはり上手く湧かない。
 ただ、マリアが無理やり帝国に連れていかれるのを思うと、胸がざわつくのは確かだ。

 それからマツナガがメインに質疑応答を行ったが、おおむねこちらが集めた情報と同じだった。
 それだけでイッガーの部下の能力が高いことが分かる。

「1つ聞かせてもらえないか」

 質疑が終わり、使者の感情が収まったあたりで俺は切り出した。

「喜志田はどうなった? あいつがいれば、そうやすやすと負けるとは思えない」

「それが……」

 おい、なんだ。なんで言いよどむ。
 もしかして……あいつは……。

「あ、いえ。将軍は生きております。おそらく」

「おそらく?」

「はい。それが王都陥落の時に牢から助け出したのですが、私をオムカに向かわせて行方をくらましてしまったので」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。牢? 助け出す? あいつ何したんだ!?」

「あ、申し訳ありません。いちから順を追って説明します」

 話をまとめるとこうだ。

 喜志田はヴィー地方という大陸の最西端とも言われる地域を制圧し、帝国相手に優勢に戦いを進めていたという。
 一時期、敵の援軍によりかなり押し戻されたが、ビンゴ王国の支配地域はかなり広がったという。

 そんな時に王都から呼び出しがかった。

「将軍はヴィー地方を制圧し、帝国軍と対峙している最中に……将軍職をはく奪されたのです」

「はく奪……?」

 その代わりに来たのが、これまた絵に描いたような無能な将軍だという。
 そして将軍は部隊を2つに分けて侵攻作戦を行うが、各個撃破されて大敗。

 将軍自身も討ち死にし、兵のほとんどが死ぬか降伏するかしたという。

「それによって、王都を防衛する戦力がなくなり……我が王は降伏を決意いたしました」

 なんてこった……。
 まさかそんな馬鹿みたいなことで一国が亡びるなんて。
 いや、国の滅亡なんてそんな馬鹿みたいなことから起きるのかもしれない。

「しかし何故でしょう。勝っていたのに将軍職をはく奪とは」

 ジルが理解できないと言わんばかりに首を振る。

 それにあっさり答えたのはマツナガだった。

「勝ったからでしょう」

「勝ったから?」

「あぁ、そうだ。マツナガの言う通り、喜志田は勝ちすぎた。だから足を引っ張られた。あいつ、あまり根回しとか上手くなさそうだしな」

 楽毅がっきという人物がいた。
 昔、中国大陸に現れた伝説的な名将だ。諸葛亮しょかつりょうが認めた天才で、小国の将軍でありながらも、当時の超大国を滅亡寸前まで追い詰めた男だ。
 だがあと少しで滅亡できるところで、策謀によって更迭こうてつ。後を継いだ将軍は凡庸ぼんようで、敵の火牛の計によって大敗したという。

 まぁ喜志田を楽毅になぞらえるなんて、おこがましいことこの上ないけどな。

「なるほど。そういうことでしたか」

 ジルが納得したようだけど、顔色は晴れない。
 それはそうだ。最前線で全力を尽くしているのに、味方に裏切られて戦えずに負けるなんて軍人にとっては不名誉この上ないだろう。

「それで、喜志田はどこに行ったのか分からないのか」

「……はい。共もつけずに1人で身をくらましてしまいました。ところで、貴女が……ジャンヌ・ダルク様で?」

「そうだ、俺がジャンヌ・ダルクだ」

「あぁ、良かった。将軍から伝言を預かっておりますゆえ」

 伝言?
 あいつが?

「我はチョーショーとなり王国復興の案内する、と」

 チョーショー?
 ちょうしょう? 嘲笑? 張昭?

 いや、張松ちょうしょうだ。
 三国志の劉備入蜀に出てくる張松か!
 あいつも意外と三国志通だな。

「どうか、お願いいたします。将軍と共に帝国の賊を追い出す手伝いをしてもらえないでしょうか! 私にも家族が国にいます。それが帝国によって理不尽な扱いを受けるなど……是非、我が王国の復興を!」

 血の涙を流しながら使者は平伏してみせた。
 その熱に当てられ、ジルを始めブリーダ、ウィット、さらにクロエすらも顔を紅潮させている。

 いやー、よくないなぁ。
 まったくよくない。

 感情のままに勝算もなく突っ込むのは匹夫ひっぷの勇でしかない。
 それに上の人間が感情に動かされて兵を出したところで、その肝心の兵がついてこない。帝国の侵攻という脅威はあるものの、一般の人々にとってはそんなことより兵たちの命の方が大事なのだ。

 それに喜志田が道案内するといっても、戦闘を手伝ってくれるとは言ってないし、そもそも兵力は皆無だろう。
 だから最悪、俺たちだけでビンゴ王国を滅ぼした強敵を相手にしないといけないわけだ。

 そして何度も言うが、金がない。
 道中、略奪していくなら別だが、同盟国にそんなことしたら逆に俺たちが追い出される。

 だからここで即決するのは危ない。
 時間がないのは承知の上だが、少し冷静になって考えるべきだ。

 俺はマリアに視線を向け、小さく首を振ってみせた。
 その合図をちゃんとくみ取ったようで、マリアは小さく頷いて使者に言葉を投げかけた。

「お役目、大義じゃった。じゃがこれは国の大事。すぐには決められぬのじゃ」

「……はっ」

 使者は明らかに落胆している。
 ったくしょうがないなぁ。

「ビンゴ王国の滅亡は我が国の滅亡と直結している。故に放っておくわけにはいかないので、遠からず軍は出す。それまで療養して傷を治し、鋭気を養ってほしいと、女王陛下はおっしゃっているんだ。もしビンゴ王国へ向かうなら、あなたには、道案内をお願いすることになるから」

 使者はしばらく呆然としていたが、俺の言った言葉を理解したのか、顔を紅潮させて何度も頷いた。

「ええ、ええ、もちろんです! こちらからもお願いします! オムカの皆さまならそう言ってくださると思っておりました。将軍も、きっと今は復興のために耐えているのですから!」

「ん……」

 俺は曖昧に頷いた。
 あのめんどくさがり屋が自分をおとしいれた国を復興するとは思えない。

 そもそも張松は、劉備びいきの三国志演義ではよく書かれているが、侵略される陣営からすれば君主を追い出そうとした裏切り者だ。
 それになる、ということは喜志田にビンゴ王国を復興する気はなく、チャンスをやるから俺に旧ビンゴ王国を制圧してみろという丸投げだろう。

 ったく、難題をこっちに押し付けやがって。

 とはいえやっぱり断る理由がない。
 このままじっとしていれば、二方面から攻められて滅亡するだけなのだ。
 幸い、先日の勝利で北は今は膠着状態だ。
 今のうちにビンゴ王国領を切り取るのが一番の方法に違いない。

 問題は金と兵。
 それさえ都合をつければ、今すぐにでも出撃したいのは間違いではないのだから。


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次で3章完結です。
ここまで読んでいただいた皆様には感謝しかありません。本当にありがとうございます。

次章はビンゴ王国奪還編ということで、いつも苦境にいるジャンヌは無事、帝国の拡大を防ぐことができるのか、という内容をお楽しみください。(多分色々な意味で無事ではないですが…)

いいねやお気に入りをいただけると励みになります。軽い気持ちでもいただけると嬉しく思いますので、どうぞよろしくお願いします。
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