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第4章 ジャンヌの西進
第21話 女子会
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「こないだの川遊びは楽しかったの。またいきたいのぅ」
「いいですね。しかしこれからの季節は冬! すなわち雪! なんでも北は冬になると大量の雪が降るとか」
「なんと、雪が! こっちではあまり降らんからの。いっぱい降れば雪像なんかも作れるかのぅ」
「ええ、作れますとも。巨大な奴を。さらに北の方では年中雪が降っている地方があるとか」
「つまり残るというわけじゃな」
「さすが女王様。是非残しましょう。後世に美しさを」
「ふっふっふ……」
ここはマリアの寝室。
そこでいつものように、ベッドの上でごろごろしながらぺちゃくちゃと喋る2人。
俺はその傍で枕を抱えながらとりとめのない会話を右から左に聞き流していた。
ただ訳あり顔でマリアとニーアがこちらを見てくるのにはさすがに気づく。
あまり聞いてなかったから意味は分からないが、嫌な予感しかしない。
「な、なんだよ」
「なんでもないのじゃ」
「ねー」
こいつら。絶対よからぬことを企んでいるに違いない。
けどともかく今はそれにかかわることはないだろう。
「何企んでるのかは知らないけどな。俺は無理だからな。これから出発するし、半年……いや、長ければ1年はかかる」
「ええー! じゃあジャンヌと季節のイベントを楽しめないのじゃー」
こいつ、そんなこと考えてたのか。
平和というか天然というか。
もう少し自分の立場を考えてほしいものだ。
「ええー、じゃない! いいか? ビンゴ地方を併呑したら、お前は大陸の3分の1を支配する国王になるんだぞ。そこらへん分かってんのか?」
「ふへ?」
あ、絶対分かってないやつだ、これ。
口元に指とか当ててかわい子ぶっても……いや、里奈を見た後だと可愛いな、これ!
じゃなく!
「ニーア、お前からも言ってやれ」
「まぁまぁ、女王様はまだ若いし」
「俺と同じくらいだろ」
「ジャンヌと比べちゃ駄目だよ。だって、女王様だよ?」
いや、何がだよ。
全然免罪になってないんだが。
「そうじゃ! 余だからよいのじゃ! それよりジャンヌの話が聞きたいのじゃ!」
マリアが目を輝かせて、無理やり話を方向転換してきた。
「俺の?」
「今日、ジャンヌの実家の話が出たのじゃ。それでジャンヌってどこに住んでおったのかのぅと気になっての」
「あ、はいはーい! あたしも気になる!」
「お前らなぁ……」
本当無邪気というか、何も考えてないというか。
けど微妙な話題だ。
俺の故郷。元の世界のことを、こいつらに話して良いものなのか。
あの女神に口止めされていないから問題はないのだろうけど、それ以前に信じてもらえない方が大きい。それにもしかしたら、俺が男だとバレる可能性があるのだ。
別に俺が男だとか、異世界から来たとか黙っておく必要がない。
少なくとも異世界から来たことについては、いずれ話さなければならないのだ。
この大陸がオムカによって統一された時、そこにあるのは別離だ。
マリアが統一した世界に、俺はいない。
そのことを何も告げずに去るには、こいつらとの関係は深くなりすぎた。
ただタイミングが分からない。
それを話してしまえば、きっと彼女たちとの関係は微妙になる。変な心配やプレッシャーを与えてしまうことになる。
まだこの国は一丸にならないと滅びる可能性がある段階だ。
そこに無暗にひびを入れる必要はない。
そう思って今まで黙ってきたが……。
――違う。
それは俺の逃げだったのかもしれない。
いつまでもこの関係を続けたい。変に終わりにしたくない。その想いがあふれて、こうして今までいずれいずれと先送りにしてきた。
しかし、このビンゴの問題が解決すれば、あとは帝国との一大決戦を残すのみ。
この西進が終われば、もうそのタイミングなのだろう。
いや、遅すぎたのかもしれない。
それほどまでに彼女たちは俺を――いや、それ以上に俺が彼女たちを、失いたくない大切な人たちだと思ってしまったのだから。
「ジャンヌ?」
考え込んでしまった俺に、マリアが心配げに聞いてくる。
「あぁ、いや。なんでもない。ただ、どう話せばいいかなと思って」
ごまかした。
今は言うべきじゃない。けど、言うべき時が来たら……俺はこの瞳に向かってちゃんと話すことができるのか。
それが一抹の不安となって、心の底に残った。
「なんでもいいのじゃ! どんな場所なのか、どんな暮らしをしてたのかでも」
「うーん。じゃあ――」
確かに異世界から来たとか、俺が男だとかは話す必要はまだないだろう。
けど、話のネタとしては、俺の故郷を語るのは問題ないはずだ。
「ほー、鉄道。聞いたことがあるのじゃ! 帝国にはそんなものがあるとな。なんでも十人くらいの人を運ぶことができると……え? 100人以上? 1日だと数十万? またまたージャンヌは嘘が上手なのじゃ!」
「ぷっ……あはは! ジャンヌったら、人が空を飛べるわけないでしょ! 人に羽は生えてないのよ? え? 鉄の塊が飛ぶ? 馬鹿言いなさい! 飛ぶわけないでしょ!」
「ほほぅ。デンワというのは凄いのぅ。それなら毎晩ジャンヌの声が聞けるってことじゃな! よし、ニーア! すぐにデンワとやらの開発をするのじゃ! え? 無理? デンパ? なんじゃそれ?」
「ガッコウ? あぁ、それなら王都にもあるじゃない。え? 規模が違う? は? 何万人もいる? 子供が? しかも100以上も? え、ちょっと待って。ジャンヌの故郷の人口は? 億? いやいやいやいや、オムカの何倍あるのよ!?」
「なんと、そんな娯楽があるのか。しかし歌って踊るアイドルというのは凄いのじゃ。そうじゃ! ジャンヌとニーアはシータ王国で女神ともてはやされたようじゃな! どうじゃ、アイドルとして……えぇ、そんな涙ながらに土下座しなくとも……仕方ないの。じゃがそのテレビというのはいいのう。よし、ニーア! 今すぐテレビというのを……え? 無理? だからデンパってなんなのじゃー!」
「へ? 月ってあの月? いや、行くってあんなちっちゃいのに? 乗ったら壊れるわよ。は? ウチュウ? どこ、それ?」
まぁ、大体が嘘つき呼ばわれされましたとさ。
そりゃそうだろうなぁ。江戸時代の人間が、現代にタイムスリップしたようなものだからな。
実際に見ないと信じられないだろう。
そんなこんなで、俺への質問コーナーに展開した夜の女子会だが、
「うぅーん……ジャンヌぅ……」
さすがにまだマリアに夜は辛いのか、コテンとベッドに倒れ込み、むにゃむにゃしてる。
とかいう俺も、この体は年齢的に似たようなものだから、結構寝ぼけまなこだけど。
前は徹夜なんて余裕だったのになぁ。
「もう、女王様。そのままだと風邪を引きますよ」
「その時は……ジャンヌに、温めてもらう……のじゃ」
「それだ!」
「それだじゃない!」
なんて突っ込んでいる間に、マリアは可愛らしい寝息を立てて完全に眠り込んでしまっていた。
「もう、女王様は」
「色々疲れてるんだろ。侍従長にもしごかれてるみたいだし」
「あんたのせいよ、ジャンヌ」
「俺の?」
「そう。久しぶりで嬉しかったんでしょ。かなり興奮気味だったから」
それは、なんだか悪いことをした。
もう少しマメに気にしてやるべきだったか。
「じゃあ女王様を寝かせるわ。ジャンヌは? いつもみたいにソファでいいの?」
さすがに2人と同じベッドで寝る気にはならない。
さすが王室のベッドともあって、3人だろうが5人だろうが寝るスペースはあるが、それでも、だ。
「あぁ。こっちは気にしないでくれ」
「1つだけ、いい?」
急にニーアが真面目なトーンで切り出した。
「なんだよ、藪から棒に」
「明日なんだけど、人を連れてきてほしいの」
「俺が? 誰を?」
「あなたがかくまっている人よ」
「っ!?」
急に心臓をわしづかみにされたような感覚に陥った。
里奈のことはマリアにもニーアにも知らせていない。
オムカの軍人を何人も殺した里奈のことを知られれば、何をされるか分かったものじゃなかったからだ。
だがそれが知られてしまっている。
半分眠りかかっていた脳みそが高速で回転し始める。
里奈のことを知っているのは、その世話をしていたミストと、その受け渡しからみていたクロエだけ。
いや、あと1人いたか。
「マツナガから聞いたのか」
「違うわ」
「じゃあ誰が!」
「……ジャンヌがそんな声を荒げるってことは。それほど大事な人なのね」
「…………友達だよ」
「そう」
ニーアは少し考え込むようにして、時間をおいてため息とともに言葉をつないだ。
「一応本人のために言っておくけど、あたしの方が無理に聞いただけ。それに詳しいことは聞いていないわ。ただジャンヌと同じ故郷からやって来たってこと、ジャンヌと前から知り合いだったということ、前は帝国にいたけどオムカに亡命してきたこと。それだけ教えてもらって、そのうえで女王様に保護を求めたのよ。ジャンヌが出かけたら、彼女は生活の場がなくなるって」
俺が出発しても里奈には苦労をかけないようにするつもりだし、そもそも一緒についていくと言って聞かないし。
というのは置いておいて。
「それで、その本人ってのは?」
「ミストよ」
あいつか。
またいらんおせっかいを……。
「余計なお世話とか思ってるなら認識を改めてよね。元はと言えば、ジャンヌのせいなんだから。家にも帰らず、どこかに入り浸ってる。そこで誰かと密会してるなんて噂が流れちゃ。そりゃ問い詰めるわよ」
あー……そういうことかよ。
俺が里奈とこっそり会っていることで、変な噂になっているのは聞いている。
かといって俺に会うなとは言えない。
俺は一応軍師という立場にいる。何らかの作戦のために動いているのかもしれないし、重要な客人かもしれない。そう考えると無暗に指摘できないも確か。
ただ、それはそれで憶測を呼ぶ。
噂が噂を呼んで良くない方向へと向かってしまうのだ。
だからオムカで一番権力を持つマリアに面通しした、という実績を作っておこうというわけだ。女王が会って問題ないとしたら、変な噂も立ち消えるだろうと。
「…………分かったよ。午後に一回連れてくる」
ここで里奈を引き合わせるメリットと噂のデメリット、さらにここでニーアにごねられるデメリットと、マリアの心境に影響を与えるデメリットを加味して、俺はそう結論を出した。
避けたかったけどしょうがない。
その返答にニーアは満足したのか。
「ん、お願いね」
うーん、自業自得とはいえ、若干めんどくさい案件になりそうだ。
そもそもどうやってここまで里奈を連れてくるかだよなぁ。
なんて真剣に考えていたので、ニーアが何をしているか気づかなかった。
「ジャンヌ」
「うわっ!」
呼ばれて顔をあげた。その至近距離にニーアがいた。
そして視界が回転する。
背中に重心。
どうやらベッドに倒れたようだ。だが何故倒れたのか、あまりに一瞬のことで分からない。
「わっ!」
思わず悲鳴を上げた。
パジャマの薄布越しに感じる、何か胸元に押し付けられるもの。
視線を下に。ニーアの紅い髪の毛がすぐそこにあった。
え? なにこの状況?
もしかして俺、今、押し倒されている!?
混乱する頭の中、ニーアが動く。
「いいですね。しかしこれからの季節は冬! すなわち雪! なんでも北は冬になると大量の雪が降るとか」
「なんと、雪が! こっちではあまり降らんからの。いっぱい降れば雪像なんかも作れるかのぅ」
「ええ、作れますとも。巨大な奴を。さらに北の方では年中雪が降っている地方があるとか」
「つまり残るというわけじゃな」
「さすが女王様。是非残しましょう。後世に美しさを」
「ふっふっふ……」
ここはマリアの寝室。
そこでいつものように、ベッドの上でごろごろしながらぺちゃくちゃと喋る2人。
俺はその傍で枕を抱えながらとりとめのない会話を右から左に聞き流していた。
ただ訳あり顔でマリアとニーアがこちらを見てくるのにはさすがに気づく。
あまり聞いてなかったから意味は分からないが、嫌な予感しかしない。
「な、なんだよ」
「なんでもないのじゃ」
「ねー」
こいつら。絶対よからぬことを企んでいるに違いない。
けどともかく今はそれにかかわることはないだろう。
「何企んでるのかは知らないけどな。俺は無理だからな。これから出発するし、半年……いや、長ければ1年はかかる」
「ええー! じゃあジャンヌと季節のイベントを楽しめないのじゃー」
こいつ、そんなこと考えてたのか。
平和というか天然というか。
もう少し自分の立場を考えてほしいものだ。
「ええー、じゃない! いいか? ビンゴ地方を併呑したら、お前は大陸の3分の1を支配する国王になるんだぞ。そこらへん分かってんのか?」
「ふへ?」
あ、絶対分かってないやつだ、これ。
口元に指とか当ててかわい子ぶっても……いや、里奈を見た後だと可愛いな、これ!
じゃなく!
「ニーア、お前からも言ってやれ」
「まぁまぁ、女王様はまだ若いし」
「俺と同じくらいだろ」
「ジャンヌと比べちゃ駄目だよ。だって、女王様だよ?」
いや、何がだよ。
全然免罪になってないんだが。
「そうじゃ! 余だからよいのじゃ! それよりジャンヌの話が聞きたいのじゃ!」
マリアが目を輝かせて、無理やり話を方向転換してきた。
「俺の?」
「今日、ジャンヌの実家の話が出たのじゃ。それでジャンヌってどこに住んでおったのかのぅと気になっての」
「あ、はいはーい! あたしも気になる!」
「お前らなぁ……」
本当無邪気というか、何も考えてないというか。
けど微妙な話題だ。
俺の故郷。元の世界のことを、こいつらに話して良いものなのか。
あの女神に口止めされていないから問題はないのだろうけど、それ以前に信じてもらえない方が大きい。それにもしかしたら、俺が男だとバレる可能性があるのだ。
別に俺が男だとか、異世界から来たとか黙っておく必要がない。
少なくとも異世界から来たことについては、いずれ話さなければならないのだ。
この大陸がオムカによって統一された時、そこにあるのは別離だ。
マリアが統一した世界に、俺はいない。
そのことを何も告げずに去るには、こいつらとの関係は深くなりすぎた。
ただタイミングが分からない。
それを話してしまえば、きっと彼女たちとの関係は微妙になる。変な心配やプレッシャーを与えてしまうことになる。
まだこの国は一丸にならないと滅びる可能性がある段階だ。
そこに無暗にひびを入れる必要はない。
そう思って今まで黙ってきたが……。
――違う。
それは俺の逃げだったのかもしれない。
いつまでもこの関係を続けたい。変に終わりにしたくない。その想いがあふれて、こうして今までいずれいずれと先送りにしてきた。
しかし、このビンゴの問題が解決すれば、あとは帝国との一大決戦を残すのみ。
この西進が終われば、もうそのタイミングなのだろう。
いや、遅すぎたのかもしれない。
それほどまでに彼女たちは俺を――いや、それ以上に俺が彼女たちを、失いたくない大切な人たちだと思ってしまったのだから。
「ジャンヌ?」
考え込んでしまった俺に、マリアが心配げに聞いてくる。
「あぁ、いや。なんでもない。ただ、どう話せばいいかなと思って」
ごまかした。
今は言うべきじゃない。けど、言うべき時が来たら……俺はこの瞳に向かってちゃんと話すことができるのか。
それが一抹の不安となって、心の底に残った。
「なんでもいいのじゃ! どんな場所なのか、どんな暮らしをしてたのかでも」
「うーん。じゃあ――」
確かに異世界から来たとか、俺が男だとかは話す必要はまだないだろう。
けど、話のネタとしては、俺の故郷を語るのは問題ないはずだ。
「ほー、鉄道。聞いたことがあるのじゃ! 帝国にはそんなものがあるとな。なんでも十人くらいの人を運ぶことができると……え? 100人以上? 1日だと数十万? またまたージャンヌは嘘が上手なのじゃ!」
「ぷっ……あはは! ジャンヌったら、人が空を飛べるわけないでしょ! 人に羽は生えてないのよ? え? 鉄の塊が飛ぶ? 馬鹿言いなさい! 飛ぶわけないでしょ!」
「ほほぅ。デンワというのは凄いのぅ。それなら毎晩ジャンヌの声が聞けるってことじゃな! よし、ニーア! すぐにデンワとやらの開発をするのじゃ! え? 無理? デンパ? なんじゃそれ?」
「ガッコウ? あぁ、それなら王都にもあるじゃない。え? 規模が違う? は? 何万人もいる? 子供が? しかも100以上も? え、ちょっと待って。ジャンヌの故郷の人口は? 億? いやいやいやいや、オムカの何倍あるのよ!?」
「なんと、そんな娯楽があるのか。しかし歌って踊るアイドルというのは凄いのじゃ。そうじゃ! ジャンヌとニーアはシータ王国で女神ともてはやされたようじゃな! どうじゃ、アイドルとして……えぇ、そんな涙ながらに土下座しなくとも……仕方ないの。じゃがそのテレビというのはいいのう。よし、ニーア! 今すぐテレビというのを……え? 無理? だからデンパってなんなのじゃー!」
「へ? 月ってあの月? いや、行くってあんなちっちゃいのに? 乗ったら壊れるわよ。は? ウチュウ? どこ、それ?」
まぁ、大体が嘘つき呼ばわれされましたとさ。
そりゃそうだろうなぁ。江戸時代の人間が、現代にタイムスリップしたようなものだからな。
実際に見ないと信じられないだろう。
そんなこんなで、俺への質問コーナーに展開した夜の女子会だが、
「うぅーん……ジャンヌぅ……」
さすがにまだマリアに夜は辛いのか、コテンとベッドに倒れ込み、むにゃむにゃしてる。
とかいう俺も、この体は年齢的に似たようなものだから、結構寝ぼけまなこだけど。
前は徹夜なんて余裕だったのになぁ。
「もう、女王様。そのままだと風邪を引きますよ」
「その時は……ジャンヌに、温めてもらう……のじゃ」
「それだ!」
「それだじゃない!」
なんて突っ込んでいる間に、マリアは可愛らしい寝息を立てて完全に眠り込んでしまっていた。
「もう、女王様は」
「色々疲れてるんだろ。侍従長にもしごかれてるみたいだし」
「あんたのせいよ、ジャンヌ」
「俺の?」
「そう。久しぶりで嬉しかったんでしょ。かなり興奮気味だったから」
それは、なんだか悪いことをした。
もう少しマメに気にしてやるべきだったか。
「じゃあ女王様を寝かせるわ。ジャンヌは? いつもみたいにソファでいいの?」
さすがに2人と同じベッドで寝る気にはならない。
さすが王室のベッドともあって、3人だろうが5人だろうが寝るスペースはあるが、それでも、だ。
「あぁ。こっちは気にしないでくれ」
「1つだけ、いい?」
急にニーアが真面目なトーンで切り出した。
「なんだよ、藪から棒に」
「明日なんだけど、人を連れてきてほしいの」
「俺が? 誰を?」
「あなたがかくまっている人よ」
「っ!?」
急に心臓をわしづかみにされたような感覚に陥った。
里奈のことはマリアにもニーアにも知らせていない。
オムカの軍人を何人も殺した里奈のことを知られれば、何をされるか分かったものじゃなかったからだ。
だがそれが知られてしまっている。
半分眠りかかっていた脳みそが高速で回転し始める。
里奈のことを知っているのは、その世話をしていたミストと、その受け渡しからみていたクロエだけ。
いや、あと1人いたか。
「マツナガから聞いたのか」
「違うわ」
「じゃあ誰が!」
「……ジャンヌがそんな声を荒げるってことは。それほど大事な人なのね」
「…………友達だよ」
「そう」
ニーアは少し考え込むようにして、時間をおいてため息とともに言葉をつないだ。
「一応本人のために言っておくけど、あたしの方が無理に聞いただけ。それに詳しいことは聞いていないわ。ただジャンヌと同じ故郷からやって来たってこと、ジャンヌと前から知り合いだったということ、前は帝国にいたけどオムカに亡命してきたこと。それだけ教えてもらって、そのうえで女王様に保護を求めたのよ。ジャンヌが出かけたら、彼女は生活の場がなくなるって」
俺が出発しても里奈には苦労をかけないようにするつもりだし、そもそも一緒についていくと言って聞かないし。
というのは置いておいて。
「それで、その本人ってのは?」
「ミストよ」
あいつか。
またいらんおせっかいを……。
「余計なお世話とか思ってるなら認識を改めてよね。元はと言えば、ジャンヌのせいなんだから。家にも帰らず、どこかに入り浸ってる。そこで誰かと密会してるなんて噂が流れちゃ。そりゃ問い詰めるわよ」
あー……そういうことかよ。
俺が里奈とこっそり会っていることで、変な噂になっているのは聞いている。
かといって俺に会うなとは言えない。
俺は一応軍師という立場にいる。何らかの作戦のために動いているのかもしれないし、重要な客人かもしれない。そう考えると無暗に指摘できないも確か。
ただ、それはそれで憶測を呼ぶ。
噂が噂を呼んで良くない方向へと向かってしまうのだ。
だからオムカで一番権力を持つマリアに面通しした、という実績を作っておこうというわけだ。女王が会って問題ないとしたら、変な噂も立ち消えるだろうと。
「…………分かったよ。午後に一回連れてくる」
ここで里奈を引き合わせるメリットと噂のデメリット、さらにここでニーアにごねられるデメリットと、マリアの心境に影響を与えるデメリットを加味して、俺はそう結論を出した。
避けたかったけどしょうがない。
その返答にニーアは満足したのか。
「ん、お願いね」
うーん、自業自得とはいえ、若干めんどくさい案件になりそうだ。
そもそもどうやってここまで里奈を連れてくるかだよなぁ。
なんて真剣に考えていたので、ニーアが何をしているか気づかなかった。
「ジャンヌ」
「うわっ!」
呼ばれて顔をあげた。その至近距離にニーアがいた。
そして視界が回転する。
背中に重心。
どうやらベッドに倒れたようだ。だが何故倒れたのか、あまりに一瞬のことで分からない。
「わっ!」
思わず悲鳴を上げた。
パジャマの薄布越しに感じる、何か胸元に押し付けられるもの。
視線を下に。ニーアの紅い髪の毛がすぐそこにあった。
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その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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