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第4章 ジャンヌの西進
第44話 膠着
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「……今日も動きはなしか」
ゾイ川に一番近い砦から外に出て、対岸を見やる。
対岸にある敵の砦だ。
人工物がほとんどないここら一帯では、敵の動きが良く見える。
もちろん川の傍には集落がいくつもあるのだが、それも小さな民家と畑の集合体。視界を遮るほどのものではない。
さらに俺には『古の魔導書』があり、先日、上流で戦った敵がその砦にいるのは分かっている。
お互い川から一番近い砦を選んで、にらみ合う形になった。
5日ほど経っているが、敵に動きはない。膠着状態と言っていいだろう。
いや、変化はあった。
まず援軍だ。
ビンゴ王国の主都に張り付かせていた偵察部隊から、村を経由してここに報告が来た。
そのおかげで到着が昨日となったが、敵に増援があったことを知れた。
曰く2万ほど。
残った1万余と合わせて3万の兵が対岸にいることになる。
対してこちらは東岸の砦にいた旧ビンゴ兵5千を吸収して1万と2千ほど。
せっかくあれだけ大勝したのに、まだまだ2倍以上の兵力差があるというのだから、サカキじゃないけど詐欺にあった気分だ。
それでも敵が攻めてこないのは、この砦の位置関係による。
そもそも川にほど近い砦に陣取っている以上、敵が渡河し始めたのを見てから迎撃の準備を整えても充分間に合うくらいなのだ。だから、無理に敵前渡河をしてせっかくの増援を失うよりはこの膠着を利用した方が良いと考えているのだろう。
そして何より2つ目の変化が相手を動けなくしている。
敵の大将が死んだ。
否、殺された。
何故かはわからない。
分からないが、ただ『古の魔導書』で再びあのデュエインという名の将軍を調べたところ、
『デュエイン・アルカ。37歳。男。アカシ姉弟の腹心にて軍略と武勇に秀でた猛将だが、敗戦の責を取って処刑される。これ以上は情報が足りません』
まさか1回の敗北で殺されるとは。
どんな悪の組織だよ。
このアカシ姉弟とかいうの、かなり冷酷な奴なのだろう。
これでプレイヤーだったとしたら――ビンゴの兵たちを操っている元凶と同一人物だとしたら――かなりやりづらい相手だ。
そんな酷薄な奴が人を操るスキルを持っているとしたら、何をされるか分かったものじゃない。
人命を無視した作戦なんてお手のものだろう。
そしてそれにより敵の大将が代わったことが大きい。
それは俺のスキルでは見ることができない人物――プレイヤーだ。
もしやあのヨジョー地方で戦ったやつじゃないよな。
あの時は勝てたけど、相手の心理の隙を突いた薄氷の勝利だったのだ。
あれをもう一度やれと言われても無理だろう。敵もそれなりの対策はしてくるだろうし。
「お、こんなとこにいたのか。あの護衛兄妹、泡喰ってたぜ」
サカキがやってきて、ニヤニヤしながらそう告げてきた。
サカキは村に負傷兵を送った後に、こちらに戻した。さすがにオムカ軍で最強の攻撃力を放置しておくのはもったいなさすぎる。
「独りの方が色々考えがまとまるんだよ」
「そっか」
サカキはそう頷いて、俺の横に立つ。
俺は視線を再び川へと戻す。
「動かないな」
「あぁ」
「これはあれか? あのジャンヌちゃんの、ノーシャの計だっけ? それでビビッて出てこられないのか。てゆうかこっちも怖いよな。もし敵がやってきたらと思うと……川なんて渡れねぇよ」
なるほど。そう考えることもできるのか。
相手は再び嚢沙之計を使われると警戒して川を渡れない。
そしてそれはこちらも同じこと。
嚢沙之計は簡単な作戦だ。
だからネタが分かれば、それは相手も使えるということに他ならない。
もちろん上流に軍はいないし、堤も築かれていない。
けどひょっとしたら。何かしらの隠ぺい工作がなされているだけかもしれない。そう思ってしまったら動けないのだ。
乾坤一擲の策が、逆に自分の首を絞めることになるなんて、自縄自縛にもほどがある。
やはり一度で決めきれなかったのが痛かった。
「でもいつまでもにらめっこしてるわけにゃいかねーだろ? 本国の方も心配だしな」
「……そうだな」
王都バーベルを出発してから1か月が経とうとしている。
マリアたち、元気かなぁ。一応こちらからは経過は送っているけど、向こうの便りはない。というより宛先が今までないようなものだったから、それもまたしょうがないか。
「食料は問題ないだろ?」
「ああ。帝国の奴らがたんと蓄えてたからな。それをごっそり奪ったおかげであと半年以上はにらめっこしても大丈夫だけどよ」
味方が増えるのは頼もしいが、その分、食料の消費も馬鹿にならない。
そもそも3千程度の軍だったからこそ、あの村で自給自足がなんとか賄えていたのに、喜志田が5千もの兵を連れてくるものだから完全にキャパオーバーだった。
さらに東岸の旧ビンゴ兵5千が投降した以上、食料なんてあっという間に底をつくはずだ。
正直、軍隊なんてものは生産性のない金食い虫なのだ。
相応の金持ち国でなければ維持できるのも不可能。
だからこそハワードの爺さんはカルゥム城塞で自給自足の軍屯(軍人が畑を耕す)をしていたわけで。
だがそれを救ったのが帝国だ。
というより帝国が東岸の砦を維持するために蓄えていた食料を、まるまる奪ってやった。
正直、兵数が増えるより、俺としてはこっちの方がありがたかった。
東岸を解放したとはいえ、戦乱で荒れた田畑からの収穫はほぼゼロに等しいし、オムカから補給するにも期待できないからだ。
というわけで当面の食料問題は解決。
ただやっぱり金食い虫だから、こうして対峙している間にも貴重な食料が消えていくのを考えると、じっとしていられなくなる。
それはサカキも同じ意見なのだろう。
むしろ籠っているより外で暴れたがる奴だ。積極的な意見を出してくる。
「とりあえずつついてみないか? それで相手の反応見てよ」
「でも相手は3万だぞ。川を渡るのに手間取ったら全滅だ」
「分散した3万だろ? こないだの俺たちみたいに少数精鋭で奇襲かけりゃ問題なし!」
「うーーーーーーん」
確かに敵は多くの砦を抱えているから、そこの守備に兵を割いている。
だから目の前の最前線の砦には1万もいないだろう。
そう考えると積極的に打って出るのは間違いではないが……。
『善く戦う者は、人に致して人に致されず』
これも孫子の有名な一説。
要は戦にせよ仕事にせよ、主導権を握ることが大事だと言っているのだ。
受け身になりすぎると、全てが後手後手になっていずれ破綻する。そうなる前にこちらが仕掛けて、相手を思うように振り回すのが最良だ。
……なんだけど。
どうも相手の動きが読めずに、今一つ自信が持てない。
それより前に気になることが1つ。
嫌に粘りっこい視線を感じる。
サカキじゃない。この場には俺とサカキ以外にも、もう1人参加者がいる。
「で、そいつはどうした?」
俺はサカキの陰に隠れるようにしている人物に話を向けた。
その人物はサカキと比べると頭2個分くらい小さいので、すぐには気づかなかった。
「は、はい! すみません!」
桑折景斗だ。
ドッペルゲンガーのスキルを持つプレイヤー。相変わらずの学生服のような真っ黒の詰襟を着こなしている。
里奈たちと同様、村にいるはずだったのに何故ここに?
「あー、それがよ。なんだか連れてってくれって聞かねーんだわ」
「あ、はい! すみません。僕も何か役に立ちたくて……」
「役に、ねぇ。何かできる?」
「えっと、その……す、すみません。えっと……気持ちなら誰にも負けません!?」
新入社員かよ。
それになんでちょっと疑問形だよ。
正直気が進まなかった。
竜胆とかを積極的に使っておいてなんだけど、俺としてはあまりプレイヤーを巻き込みたくないのだ。
偽善的だとは思う。それでこの世界の人間に殺し合いをさせているのだから。
けど彼らは俺と同じ世界で平和に暮らしていた人間だ。
この殺伐とした世界とは切り離して考えてしまう。
「いいんじゃねぇの? ただ飯食わせてるよりは、働いてもらうのがいいだろ」
「でも……」
「すみません、なんでもします! あ、自分。ちょっと走るのが速いです! パシリでもなんでも使ってください!」
「パシリって……」
自分からそういうの言い出すのも稀なパターンだ。
この子、いい人すぎだろ。
まぁここまでやる気出してくれてるのだ。
伝令くらいなら危険はないか。
「じゃあヴィレスに伝えてきてくれ。一度軍を動かす。2千で下流から川を渡って敵の砦を奇襲。敵の援軍が来る前にひと当てだけして戻って来い、ってな」
「あ、はい! すみません、分かりました!」
景斗はその場で直立不動を取ると、右手を頭に当てて敬礼。そのまま砦の方に走り出した。
……うん、言うほど速くはないな。
「あれー、ジャンヌちゃん、俺は?」
「お前は北から渡河のふりをしておけ。それと敵が堤を築いていないかの偵察」
「えぇー、なんで俺が裏方だし」
「お前、俺がまだ怒ってるってこと気づいてないな?」
「う……すみませんでした」
サカキが景斗並みに小さくなって、景斗の十八番のセリフを吐いたところで、ふと笑いがこみ上げた。
こいつ、こんな俺にも本当に一本気だな。
俺のことを全く疑わない。だからついからかいたくなる。
「嘘だよ。もうそんな怒ってない。お前の出番はもうちょっと後だ。だからこんなところで下手に使いたくないんだよ」
「ジャンヌちゃん……」
サカキが潤んだような瞳でこちらを見てくる。
似合わねー。
「そんなに俺の事を考えてくれたのか! やっぱり好き――だぁ!?」
猛然と抱き着こうと襲いかかってくるサカキに、カウンターを顎に決めた。
大男のサカキがふらつき、腰を落としてしりもちをついた。
うん。里奈に教わった通り、力がなくてもタイミングさえ合えばなんとかなるものだ。
しかし危ない危ない。
こいつはこういう奴だって忘れてた。
やっぱりこいつにはビシビシ行こう。
その方が俺の身のためだ。うん。
ゾイ川に一番近い砦から外に出て、対岸を見やる。
対岸にある敵の砦だ。
人工物がほとんどないここら一帯では、敵の動きが良く見える。
もちろん川の傍には集落がいくつもあるのだが、それも小さな民家と畑の集合体。視界を遮るほどのものではない。
さらに俺には『古の魔導書』があり、先日、上流で戦った敵がその砦にいるのは分かっている。
お互い川から一番近い砦を選んで、にらみ合う形になった。
5日ほど経っているが、敵に動きはない。膠着状態と言っていいだろう。
いや、変化はあった。
まず援軍だ。
ビンゴ王国の主都に張り付かせていた偵察部隊から、村を経由してここに報告が来た。
そのおかげで到着が昨日となったが、敵に増援があったことを知れた。
曰く2万ほど。
残った1万余と合わせて3万の兵が対岸にいることになる。
対してこちらは東岸の砦にいた旧ビンゴ兵5千を吸収して1万と2千ほど。
せっかくあれだけ大勝したのに、まだまだ2倍以上の兵力差があるというのだから、サカキじゃないけど詐欺にあった気分だ。
それでも敵が攻めてこないのは、この砦の位置関係による。
そもそも川にほど近い砦に陣取っている以上、敵が渡河し始めたのを見てから迎撃の準備を整えても充分間に合うくらいなのだ。だから、無理に敵前渡河をしてせっかくの増援を失うよりはこの膠着を利用した方が良いと考えているのだろう。
そして何より2つ目の変化が相手を動けなくしている。
敵の大将が死んだ。
否、殺された。
何故かはわからない。
分からないが、ただ『古の魔導書』で再びあのデュエインという名の将軍を調べたところ、
『デュエイン・アルカ。37歳。男。アカシ姉弟の腹心にて軍略と武勇に秀でた猛将だが、敗戦の責を取って処刑される。これ以上は情報が足りません』
まさか1回の敗北で殺されるとは。
どんな悪の組織だよ。
このアカシ姉弟とかいうの、かなり冷酷な奴なのだろう。
これでプレイヤーだったとしたら――ビンゴの兵たちを操っている元凶と同一人物だとしたら――かなりやりづらい相手だ。
そんな酷薄な奴が人を操るスキルを持っているとしたら、何をされるか分かったものじゃない。
人命を無視した作戦なんてお手のものだろう。
そしてそれにより敵の大将が代わったことが大きい。
それは俺のスキルでは見ることができない人物――プレイヤーだ。
もしやあのヨジョー地方で戦ったやつじゃないよな。
あの時は勝てたけど、相手の心理の隙を突いた薄氷の勝利だったのだ。
あれをもう一度やれと言われても無理だろう。敵もそれなりの対策はしてくるだろうし。
「お、こんなとこにいたのか。あの護衛兄妹、泡喰ってたぜ」
サカキがやってきて、ニヤニヤしながらそう告げてきた。
サカキは村に負傷兵を送った後に、こちらに戻した。さすがにオムカ軍で最強の攻撃力を放置しておくのはもったいなさすぎる。
「独りの方が色々考えがまとまるんだよ」
「そっか」
サカキはそう頷いて、俺の横に立つ。
俺は視線を再び川へと戻す。
「動かないな」
「あぁ」
「これはあれか? あのジャンヌちゃんの、ノーシャの計だっけ? それでビビッて出てこられないのか。てゆうかこっちも怖いよな。もし敵がやってきたらと思うと……川なんて渡れねぇよ」
なるほど。そう考えることもできるのか。
相手は再び嚢沙之計を使われると警戒して川を渡れない。
そしてそれはこちらも同じこと。
嚢沙之計は簡単な作戦だ。
だからネタが分かれば、それは相手も使えるということに他ならない。
もちろん上流に軍はいないし、堤も築かれていない。
けどひょっとしたら。何かしらの隠ぺい工作がなされているだけかもしれない。そう思ってしまったら動けないのだ。
乾坤一擲の策が、逆に自分の首を絞めることになるなんて、自縄自縛にもほどがある。
やはり一度で決めきれなかったのが痛かった。
「でもいつまでもにらめっこしてるわけにゃいかねーだろ? 本国の方も心配だしな」
「……そうだな」
王都バーベルを出発してから1か月が経とうとしている。
マリアたち、元気かなぁ。一応こちらからは経過は送っているけど、向こうの便りはない。というより宛先が今までないようなものだったから、それもまたしょうがないか。
「食料は問題ないだろ?」
「ああ。帝国の奴らがたんと蓄えてたからな。それをごっそり奪ったおかげであと半年以上はにらめっこしても大丈夫だけどよ」
味方が増えるのは頼もしいが、その分、食料の消費も馬鹿にならない。
そもそも3千程度の軍だったからこそ、あの村で自給自足がなんとか賄えていたのに、喜志田が5千もの兵を連れてくるものだから完全にキャパオーバーだった。
さらに東岸の旧ビンゴ兵5千が投降した以上、食料なんてあっという間に底をつくはずだ。
正直、軍隊なんてものは生産性のない金食い虫なのだ。
相応の金持ち国でなければ維持できるのも不可能。
だからこそハワードの爺さんはカルゥム城塞で自給自足の軍屯(軍人が畑を耕す)をしていたわけで。
だがそれを救ったのが帝国だ。
というより帝国が東岸の砦を維持するために蓄えていた食料を、まるまる奪ってやった。
正直、兵数が増えるより、俺としてはこっちの方がありがたかった。
東岸を解放したとはいえ、戦乱で荒れた田畑からの収穫はほぼゼロに等しいし、オムカから補給するにも期待できないからだ。
というわけで当面の食料問題は解決。
ただやっぱり金食い虫だから、こうして対峙している間にも貴重な食料が消えていくのを考えると、じっとしていられなくなる。
それはサカキも同じ意見なのだろう。
むしろ籠っているより外で暴れたがる奴だ。積極的な意見を出してくる。
「とりあえずつついてみないか? それで相手の反応見てよ」
「でも相手は3万だぞ。川を渡るのに手間取ったら全滅だ」
「分散した3万だろ? こないだの俺たちみたいに少数精鋭で奇襲かけりゃ問題なし!」
「うーーーーーーん」
確かに敵は多くの砦を抱えているから、そこの守備に兵を割いている。
だから目の前の最前線の砦には1万もいないだろう。
そう考えると積極的に打って出るのは間違いではないが……。
『善く戦う者は、人に致して人に致されず』
これも孫子の有名な一説。
要は戦にせよ仕事にせよ、主導権を握ることが大事だと言っているのだ。
受け身になりすぎると、全てが後手後手になっていずれ破綻する。そうなる前にこちらが仕掛けて、相手を思うように振り回すのが最良だ。
……なんだけど。
どうも相手の動きが読めずに、今一つ自信が持てない。
それより前に気になることが1つ。
嫌に粘りっこい視線を感じる。
サカキじゃない。この場には俺とサカキ以外にも、もう1人参加者がいる。
「で、そいつはどうした?」
俺はサカキの陰に隠れるようにしている人物に話を向けた。
その人物はサカキと比べると頭2個分くらい小さいので、すぐには気づかなかった。
「は、はい! すみません!」
桑折景斗だ。
ドッペルゲンガーのスキルを持つプレイヤー。相変わらずの学生服のような真っ黒の詰襟を着こなしている。
里奈たちと同様、村にいるはずだったのに何故ここに?
「あー、それがよ。なんだか連れてってくれって聞かねーんだわ」
「あ、はい! すみません。僕も何か役に立ちたくて……」
「役に、ねぇ。何かできる?」
「えっと、その……す、すみません。えっと……気持ちなら誰にも負けません!?」
新入社員かよ。
それになんでちょっと疑問形だよ。
正直気が進まなかった。
竜胆とかを積極的に使っておいてなんだけど、俺としてはあまりプレイヤーを巻き込みたくないのだ。
偽善的だとは思う。それでこの世界の人間に殺し合いをさせているのだから。
けど彼らは俺と同じ世界で平和に暮らしていた人間だ。
この殺伐とした世界とは切り離して考えてしまう。
「いいんじゃねぇの? ただ飯食わせてるよりは、働いてもらうのがいいだろ」
「でも……」
「すみません、なんでもします! あ、自分。ちょっと走るのが速いです! パシリでもなんでも使ってください!」
「パシリって……」
自分からそういうの言い出すのも稀なパターンだ。
この子、いい人すぎだろ。
まぁここまでやる気出してくれてるのだ。
伝令くらいなら危険はないか。
「じゃあヴィレスに伝えてきてくれ。一度軍を動かす。2千で下流から川を渡って敵の砦を奇襲。敵の援軍が来る前にひと当てだけして戻って来い、ってな」
「あ、はい! すみません、分かりました!」
景斗はその場で直立不動を取ると、右手を頭に当てて敬礼。そのまま砦の方に走り出した。
……うん、言うほど速くはないな。
「あれー、ジャンヌちゃん、俺は?」
「お前は北から渡河のふりをしておけ。それと敵が堤を築いていないかの偵察」
「えぇー、なんで俺が裏方だし」
「お前、俺がまだ怒ってるってこと気づいてないな?」
「う……すみませんでした」
サカキが景斗並みに小さくなって、景斗の十八番のセリフを吐いたところで、ふと笑いがこみ上げた。
こいつ、こんな俺にも本当に一本気だな。
俺のことを全く疑わない。だからついからかいたくなる。
「嘘だよ。もうそんな怒ってない。お前の出番はもうちょっと後だ。だからこんなところで下手に使いたくないんだよ」
「ジャンヌちゃん……」
サカキが潤んだような瞳でこちらを見てくる。
似合わねー。
「そんなに俺の事を考えてくれたのか! やっぱり好き――だぁ!?」
猛然と抱き着こうと襲いかかってくるサカキに、カウンターを顎に決めた。
大男のサカキがふらつき、腰を落としてしりもちをついた。
うん。里奈に教わった通り、力がなくてもタイミングさえ合えばなんとかなるものだ。
しかし危ない危ない。
こいつはこういう奴だって忘れてた。
やっぱりこいつにはビシビシ行こう。
その方が俺の身のためだ。うん。
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5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
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