知力99の美少女に転生したので、孔明しながらジャンヌ・ダルクをしてみた

巫叶月良成

文字の大きさ
365 / 627
第4章 ジャンヌの西進

閑話27 サカキ(オムカ王国師団長)

しおりを挟む
 嫌な、予感がした。

 これまでも何度かこんな時はあった。
 その時に限って、敵に囲まれそうだったり、伏兵がいたり、味方が壊滅してたりした。

 だが今のはこれまで以上。最大の予感。

「…………全員、俺についてこい」

 部下に言うと、そのまま走り出す。
 ここ数日、走りっぱなしだ。いい加減疲れたと思うけど、それ以上に何かが足を急がせる。

「師団長? どうした」

 クルレーンが不審に思い聞いてくるが、伝える時間ももどかしい。
 手で合図してついてくるよう促す。

 砦の中央。
 ジャンヌちゃんがいた。
 旗を大きく掲げて叫ぶ。

「皆、俺と共に生きろ! 生きて、世界を取り戻すんだ!」

 そして怒声。
 それが敵意や反意ではなく、焚きつけられた結果の燃え上がりだと理解する。

 あぁ、またジャンヌちゃんがやった。
 彼女の言葉は命令でも要望でもない。
 一緒に、手を携えて行こうという誘いだ。

 だから皆、彼女の言うことを聞きたくなる。
 同じ目線でそう言ってくれるのだから、これはもうたまらない。

 そのげきを受けてビンゴ軍が再び東門へと逃げ出す。

 だが、嫌な予感は終わらない。

「敵が、来ます!」

 報告が入る。
 これか。いや、それは分かっていたこと。
 だからこれじゃない。
 なら何故だ。
 どうしてこうも嫌な――

 銃声が響いた。

 視界の中で、馬上のジャンヌちゃんが揺れた。
 馬が棹立ちになる。
 続いてもう一発。
 ジャンヌちゃんの頭。そこから、赤い何かが舞った。

 ジャンヌちゃんが地面に落ちる。
 そのままピクリとも動かない。

 動悸が激しくなる。

 これは、夢だ。
 あっちゃいけない現実だ。

 射線の方向に目をやる。
 屋根の上。
 そこに男がいた。白の長袖に、茶色のベストを着た男。
 特徴的な帽子に、銃と思うには小さすぎる何かをくるくると器用に回す。

 まさか、あの男が。

「ジャンヌさん!」

 誰かの叫び。
 だがそれもかき消された。
 激しい爆発音に。

 砦が爆発した。
 至るところから火が噴きだし、たちまち辺りは地獄と化した。

 右往左往する兵たちをかき分けて、俺はジャンヌちゃんのところへ向かう。

「ジャンヌちゃんは!」

 倒れたジャンヌちゃんに、千切った袖を巻きつけて手当てをするフレールに聞く。

「なんとか生きてます。ですが出血が激しく……」

 頭と肩に一発ずつ。
 頭部への銃弾はわずかに逸れてこめかみの肉をえぐるだけにとどまったよう。
 なんとか即死はまぬがれたようだが、この出血。確かに危険だ。

「サ、サカキ殿。ジャンヌ殿は……」

 クロスが不安げに近寄ってくる。
 その暢気さに苛立ちを覚えた。

「無事だ。いや、無事じゃねーが、とりあえず生きてる。てかお前は何をしてる」

「は?」

「は、じゃねぇ。てめぇら言われただろ。ジャンヌちゃんに、生きろって! ならてめぇらのやることは1つだろうが!」

「……っ!」

 クロスは息を呑み、そしてようやく意を決したようだ。

「感謝します」

「感謝なんていい、生きることが礼みたいなもんだろ」

 クロスは無言で頷くと、そのまま兵たちの元へ戻る。

「うろたえるな! 我々は撤退する! 東門から撤退だ!」

 それでいい。
 ならあとはこっちだな。

「フレール、サール。ジャンヌちゃんを守れなかったことはもうどうでもいい。あとはこれからだ。絶対ジャンヌちゃんを連れて帰れ」

「師団長殿は?」

「当然、殿軍だ。ちょっと足止めして適当に逃げるさ」

 兵数的にも、状況的にも最悪。
 だが、そうでもしないとジャンヌちゃん本人と、その願いを守ることはできない。

「自分も残ります」

「兄さん!?」

 フレールが一歩、前に出てそう言ってきた。
 いい覚悟だ。
 いつも飄々ひょうひょうとしてよくわからん奴だったが、そういったことができる男は好きだ。

「サール、お前がジャンヌさんを連れて帰れ」

「でも……」

「ジャンヌさんを守れなかったのは事実だ。だからせめて、彼女の望んだことを手助けしてやりたい」

「なら私も!」

「駄目だ。お前はもう1人前だ。だから、お前がジャンヌさんを守るんだ」

「そんな……でも……いやぁ……離れ離れ、嫌……お兄ちゃん」

 急に泣き声をあげだしたサール。
 ここで殿軍をするというのがどういうことか、ちゃんとわかっているのだろう。

 ただフレールはサールの頭を撫でて、

「すぐ戻る。だから先に行っててくれ」

「……うん」

 ったく。調子狂う奴らだ。
 けどもう時間切れだ。

「よし、もう時間はないぞ。さっさと行け!」

「行くのはあんたもだろ、師団長サン」

 不意にクルレーンが、オレの肩をポンッと叩いてきた。

「なんだと?」

「ジャンヌ殿が倒れた。あんたも倒れられちゃ、オムカ軍はどうなる」

「どうなるって……」

 考えたこともなかった。
 ジャンヌちゃんがいるのが当たり前で、その下で働くことになんの違和もなくて。

 でも現実にジャンヌちゃんは倒れた。
 そうなった時。
 オレはどうなる? どうする?

「万が一だ。そうなった時、ここにいる軍のトップ2人がいなくなるのはマズい」

「けど殿軍が」

「ま、そこらへんは依頼のアフターケアの一環ってのかね。うちらがやるさ」

「しかしそれでは……」

 クルレーン隊は100人もいない。しかも鉄砲隊となれば機動力もなく、乱戦になれば生還はおぼつかないだろう。

「我らも残ります」

 声に振り向く。
 そこにはヴィレスの他、500ほどの兵が残っていた。

「ビンゴ軍を逃がすために、オムカ軍のみが犠牲になるなど、我が軍の名折れ。我らも時間を稼ぐゆえ、あなた達は退いてください」

「しかし……」

「しかしも何もないでしょうに。時間がないって言ったのはあんただ。ま、気にしなさんな。雇い主がやられたんだ。俺たちは俺たちで好き勝手させてもらうさ」

 クルレーンが、苦笑してオレの背中を押してくる。

 これ以上の問答は無用だ。
 彼らの覚悟を無駄にすることになる。
 盛大に後ろ髪を引かれる思いだが、それでも行くしかない。

「分かった。死ぬなよ!」

「誰に言ってるんだか」

「また、会いましょう」

「ジャンヌさんを、頼みます」

 クルレーンが、ヴィレスが、フレールが応える。
 すまない。だがありがたい。

 戦友ともたちの声を受け、残った部下たちを指揮する。

「よし、撤退する! サール、ジャンヌちゃんを落とすなよ!」

「う……うぅ、はい!」

 ジャンヌちゃんの馬に乗り、背中にジャンヌちゃんを背負ったサールは、涙を振り切って馬を走らせた。

 その後に部下たちが走り出し、最後尾をオレが走る。

 振り返った。
 600人ほどの決死の部隊が燃える砦に残されている。

 生きろよ。

 生還の望みは薄いと知りながらも、そう祈らずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...