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第20話:クリスタルの大洞窟、ルネヨー・フラックシス
しおりを挟む聖神歴895年、1月の18日、月曜日の「精霊術学の野外授業」にて:
「みんな~~!準備はもういい~~?じゃ、出かける前に今日の『野外授業』についての情報と注意事項を伝えておくから、よ~~く聞いていてね~!」
いよいよだな、やっと今日という日がきた!
俺達平民組がやっと、精霊と契約できる『野外授業』が行われる『精霊術学』が主催する『運命の日』の今日を無事に迎えることができた!
10分前に、イリーズカ先生に先導されるままに、俺達1年B組だけじゃなくて、何故かA組もC組までもが教室から呼び出され、今はここの学院の校門へと続く大広場に集合させられてる。確か、先生は1年生すべての【精霊術学】の授業を受け持っていると言ってたな。
着いてからイリーズカ先生が他の教師と何やら内緒で話し合っているみたいなのでこの絨毯が敷かれたばかりの床で座って待たされる10分が経つ。やっぱり、ご令嬢ばかりが集うと、床に座らせるためにはそんな贅沢な絨毯も用意しなきゃならん訳だな。
僕の左隣で体育座りしてるジュディを振り向いてみれば、緊張感が窺える顔をしているようだけど、右隣のオードリーはただ正座しながら両目を閉じて瞑想でもしていたけど、先生からの発表があることを聞きやっと目を開けた。
「まず、ホームルームで教えて上げたから既にみんなも知っての通りに、今日行われる【精霊術学】の授業は特別に、一日中全時限目の時間を使っての本格的な『外出遠征』になるよ~~それも1年生全員の参加者が必須の科目で~っ!」
だから、俺達B組のオードリー、ジュディと自分だけじゃなくて、C組のジェームズ、そしてA組のクレアリスとメンバーに加わったばかりのヒルドレッドもここに集まっているんだ。
「既に『契約精霊』持ちの生徒も一緒に参加する必要性は、未だに『契約精霊』を持たずにそれを済ましたい生徒のための護衛と戦闘支援のためにあるからね~~、だからこれも忘れないでほしいわよね~~?」
先生の言った通りだ。だからオードリー達貴族組も参加せざるを得ないようだね。
「じゃ、今日中に『野外授業』が行われる場所は……この学院からたった10キロしか離れてない近いところにある、【クリスタルの大洞窟ルネヨー・フラックシス】だよ~~~!」
やっぱりかぁー!予想していた通りにとでも言うような表情を浮かべながら俺の方へと短く頷いているオードリーとジュディ。
「学院行事なので、移動手段は普通に馬車ではなく、魔術使いや精霊術使いの活動のためだけに作られた魔道鉄車だね、だからみんな安心して外の景色を見物しながら【クリスタルの大洞窟】に着くまでの道程を楽しめるよ~~!そして、既に教えてあげたんだけど、【クリスタルの大洞窟】と言うのは、確かに初心者向けの【精霊生息地】であり、空気に漂う【純粋なる聖魔力気(エアープレッシャー・オブピュア・ホリーマジカルエネルギー)】の密度もそこまで濃くはないけれど、それでも注意しておく要点が二つまであるのを忘れないでね~~!その、一つ目にはー」
来たかー!これは最重要な注意点になる気がするので、ずいっと前方に身体を傾けて気合いの入った俺は、次に先生の白い顔にあるピンク色の唇から漏れ出る言葉を待つと、
「【クリスタルの大洞窟ルネヨー・フラックシス】には、三つまでの階層に構成されてる正真正銘の【精霊生息地】なんだから、【樹界脈】もあそこへ流れていく事になること自体は分かるよね~?なら、【樹界脈】が流れていくとなれば、どんな『もの』がその見えざる空気中の脈に乗って出現できちゃうって思う~~?」
「【世界獣】だ!…そうだろう、先生?」
「ピンポンピンポン~っ!正解だよ、オケウェー君~!じゃ~、三つの階層っていうのは、ワタシ達が入ってすぐに入っていける『第一階層』で、【樹界脈】の分脈と密度が薄い階層のことよ~。つまり、【世界獣】が現れる確率も低いだけじゃなくて、脈の密度が希薄という影響もあるからたとえ出現したとしてもせいぜい、【最弱級】か【闘志級】程度のものでしょうね~!そして、我々のいるこの地上と同階層っていう背景もあることから、たとえ異常事態が発生しても直ぐに引き返せるようだから安全第一って考えてる子は『第一階層』を活動範囲にしてくれても構わないよ~~ん!」
先生のいう通りだ。
でも、安全面でそれが事実だとしても、精霊もが【樹界脈】を利用しての栄養吸収を行うなら、【樹界脈】の密度が薄い『第一階層』では強くて高度な精霊とは出会えないんだろう………
「でも、チャレンジがしたい者やら、もっと強~~い精霊が欲しいなら、奥へ進んだ方がいいと思うわよ~~。地下に潜れば潜る程に『第二階層』へと出られて、より濃い密度の【樹界脈】が流れていってるのに比例して、高度な精霊だけじゃなくてもっと強力な【世界獣】の出現率も上がっていくわ~!」
確かにそうだけど、俺にはどうしても【大聖霊】の力が必要なので、もっと奥へ行ってみてそれを見つけ出してから契約を交わす必要がある!たとえどんな強力な世界獣が現れようと、全てを蹴散らしてやるまでのことだ。
「で、『第三階層』のある最下層までに到達すれば、一番奥に【不触の一柱】があり、中には【愛の大聖霊】が眠っているとされるわ~~」
確かに、授業で習ってきたんだっけー?3体の【大聖霊】にはそれぞれ異なる能力と司る役割があり、それら3体のことは、【正義の大聖霊】、【管理の大聖霊】、そして最後は【愛の大聖霊】達ってことだな。
「じゃ、そこまでの神業ができるっていうなら、試してみてもいいけれど、高度な精霊と契約したいがために奥へ進んだけど結局は上級クラスの【世界獣】に敗れて『喰われる』ことになりました~って悲惨な結末にならないよう、各自の自己責任でお願いしててね~!聖エレオノール精霊術学院の創設から271年経ってきたけど、今まで『野外授業』の『契約精霊捕獲遠征』の課目で出してきた死者数は僅か50人弱だから、これでもすごい~抑えてるんだけどね~!」
ふむ。270年以上もの長い期間に、こんな危険な場所で『精霊狩り』させてきてもその程度の人数を出したとは大したものだとも言えよう。
「なので、二つ目の懸念事項は~~、生徒全員に無理なことだけはせずに、~自分に実力と力量に見合う階層だけで未だに契約精霊持ってない子が留まっていて、精霊探して契約を済ましてちょうだいね~~!じゃ、伝えたいことも言い終えたし、さっそく向かうとしよう~~!」
こうして、イリーズカ先生に先導されるまま、俺達1年生全3組は【魔道鉄車】10車に乗って運転手が目的地へと運転してくれることを車内で待つ。
ゴード!ゴード!ゴード!ゴード!………
「わああーー!これは【魔道鉄車(マジック・アーマード・カー)】ですかー!初めて乗りました!」
「~!ちょっとジュディ!庶民のあんただから初めて乗れて舞い上がっちゃう気持ちは分からなくはないけれど、あまりはしゃぎ過ぎないようにしててよね!は、はずかしいわよ……」
と、そんな会話を交わすジュディとオードリーが前方の横一列長い席に腰かけているのを見てると、
「乗る前に、僕達6人がもう『チーム結成を決めた』って先生に伝えたのが良かったっすね!」
俺の隣に座ってるジェームズに同意するように、俺は、
「そうだな。お陰でこうして同じ【魔道鉄車マジアカ】に皆が乗れたんだから」
オードリー達が座っている横一列ベンチの向こうの席のもっと左の方向へ目を向ければ、確かにさっき入ってきたクレアリスやヒルドレッドの姿を確認できた。
「本品の書類はすでに先生に提出させてもらったんっすけど、念のためにって言われ参照用のコピー用紙を貰ってきたんっすよね、僕達【チームオケウェー】の登録者名が載せられてる名簿。じゃ、また見るっすか?」
「うん、再確認のため」
「はい、これ!」
ジェームズに手渡された綺麗な封筒に入っていた用紙を取り出して目を通してみると、
Okewey Galancred
Audrey von Drenfield
Clairisse von Schneider
Judy Thompson
Hildred von Orzstynia
James Richmond
確かに全員の名前が入っているな、よっしゃーー!
「でも、さすがにヒルドレッド譲さんまでこっちのチームに入隊することを承諾してくれたことはびっくりしたっすねー!」
「いいや、そうでもないと思うよ。何となく、そんなに俺と勝負したくて仕方ないっぽい顔してたから、彼女の焦りに付け込んで絶対にこちらのチームへと引き込めると確信したからだぜ?」
あそこでクレアリスと何かを話し合っている薄い金髪のツインテールっ子のことを凝視しながら、つい先週の金曜日にて、屋上でのヒルドレッドとの会話を思い出す:
………………………………
……………
「はあーーー!?何ですってーー!?」
「だから、決闘なら断ると言ったじゃないかー!」
「何故なんですのよーー!?そんなの不公平じゃありませんことー!?フェクモからの例外中の例外の新入生入学が認められる外国出身でありながら初めての男子生徒の貴方に、オードリーと決闘することは了承したと聞きましたのに、何故わたくしとだけは断るんですのーー!?」
ヒルドレッドからの恨みがましい目に構わず、
「さっきオードリーと同じような理由に、今はそんな気分じゃないからだよ。至ってシンプルのものだ」
「そ、そんなの認めませんわよ――!オケウェー・ガランクレッド、いい~!?わたくしは貴方から良い返事が貰えるまでは絶対に貴方の側から離れませんわ!」
ほう?なら、これは好都合な展開だな。よし!利用できるものは何でも利用してやろう。
「なら、そんなに俺と決闘を挑みたいと言うのなら、俺達のチームに入って来週の『野外授業』における『精霊と契約する遠征試験』の攻略に協力してからにしろ。そうしたら、お前との決闘を受けてやってもいいとは思うぜ?」
「あら、その程度の条件ならお安い御用ですわ、お~ほほほほ~~!!それなら良くてよ、貴方のチームに入ってみても……まったく、貴方も罪な男ですわ~、入学早々レイクウッド王国自慢の最高級二人までのトップクラス貴族令嬢の才能ある精霊術使いを側につかせる真似してますから~!」
………………………………
………………
俺の条件に、快く了承したヒルドレッドはこうして、俺達が名付けた【チームオケウェー】に所属することになった。
学則1条にて、も~っと先の話になる【精霊術士学戦武闘大会】にて参加するチーム構成員は早い段階、新学期早々の1月という年明けを迎えるばかりでもチームを先に登録することが出来るらしいので、そのルールに則っての先生への申請。
なので、今回の『野外授業』にて、俺達6人からなる【チームオケウェー】は一緒に小隊として【クリスタルの大洞窟ルネヨー・フラックシス】で行動することができ、洞窟の最下層まで探検することが許されるまでになった。まあ、あくまでも自己責任での許可となってるがな。
というか、チームとして最低でも4人が揃わなければ、最後の『第三階層』まで潜っていくことの許可を先生がくれないはず。
だから、【チームオケウェー】としての正式な『学戦武闘参加チーム』の登録を済ませてきたから、こうして『第三階層』までいって最深部に眠るであろう【愛の大聖霊】と出会って契約を交わしてみるっていうチャレンジに挑める。
「ところで、ジェームズは確かに、前に言ったんだよね?あんたの実家に、父さんが15年以上もプロ作家として色んなアクション系と恋愛系の小説を書いてきたって」
「あーはは~、覚えてくれてるんっすね、それ?……まあ、確かにそうだけどね、でも、ここ数年に、父、いいえ、リッチモンド作家…は新作をまったく出してないんだよなぁ……」
「それがどうしてなんだよ?」
疑問に思う俺が訪ねると、
「それもしょうがないっすよ。だって、……僕らは一般家庭の庶民一家でやってきたんっすから。よって、作品の中に組み込まれる題材やテーマが限られてるんだ………」
「その口ぶりだと、よほど……苦労してたんだったよな、生活面での事情が…」
「ああ…」
しんみりとした空気間になる中、
「あの時、あの貴族家に受けた脅ーあ!いいや、何でもない、オケウェー!さっき言いかけてたこと、忘れた方がいいっすよ」
「えー?でもー」
「だからもういいっす!僕がつい口から出そうとした言葉はただの気まぐれの冗談的なものだってことっすよー!話はそれだけだから、これから『野外授業』を通してどうやって精霊を見つけ出して契約できるか、そしてどうやっていい成績も残しながらクリアーしていくかに集中した方がいいっすよな!」
「お、おう。ジェームズがそれでいいなら、そうするがな」
これ以上話すことはなさそうなので、ジェームズのいう通りに思考を『野外授業』に関することに切り替えた。
前にもあの仮面の野郎、ゼナテスに知らされたことなんだが、聖エレオノール精霊術学院に入学できる者は限られてるんだ。莫大な学費はもちろん、中等学院にて行われる『精霊契約適合値』の検査をある程度に合格できなければ、ここへの入学は出来ないはず。
ジュディとジェームズがここへの入学ができたことも去年辺りから『精霊契約適合値』の検査を合格できて、自分達が精霊と契約できる素質を持っていると証明されたから精霊術学院への入学が認められてるんだろうけど、莫大な学費を払うためには貴族家にしか出来ないことなので、適合値の検査を合格した大勢の庶民がいてもここへの入学ができないって理不尽さがまかり通る。
かといって、【樹界脈】がそれなりに濃くなっている精霊が良く集まって生息している地帯とか土地や要点には王国側の兵士とか管理人、そして複数の精霊術学院の卒業した生徒による【精霊守護騎士団】の監視と管理もあるので、精霊術学院に通わないと、精霊と契約できる場所への入場許可を得られないのが実情。だから、普通の人がもしも『精霊契約適合値』が如何に優れていようとも、そう簡単に野良の精霊と契約できるはずがない訳だ。
ジュデイは王様から奨学金を貰えたらしいから入学できたみたいなんだけど、ジェームズは前に話してくれた通りだと、プロ作家である父からの長年の秘められた貯金があったからそれを使っての全学費を一気に支払えたからジェームズをここに通わせられたらしいんだけど、なんかあの時に話してくれたジェームズの顔はあまり優れてなくて、詳しく真相を聞き出すことを躊躇った。
ゴー―ドオー!ギ――シ~!
鉄車の動きが止まった。
どうやら着いたようだ。
さっきから学院の校門から続く本道が複数の整備された舗装道路のひとつをこの10車の【魔道鉄車】が通って、【クリスタルの大洞窟(ルネヨー・フラックシス)】までの道のりを進んできたから、そこへ行く人があまりないことから渋滞に合うこともないし、誰からの点検があるわけでもないので、車が停止したとなると目的地に着いたと思うのは自然。
ちなみに、俺達一年B組には33人の在籍生がいて、A組やC組に至っても両方がそれぞれ25人と39人で構成されてるクラスなので、この10車がすべて載せる数の一年の精霊術学院生は97人まで。
一つの【魔道鉄車】に10人までの乗客が載せられる計算だから、俺達6人がこうして車内に全員乗ることが出来たというわけだ(ちなみに、長い横一列のベンチに座れるのは10人以上のように見えてるけど、鉄者に乗る国法に則ると、席を開けることで緊急時の際になったら、死傷者を横たわらせたり、治療することも出来るので一応席を開けるよう法律で義務付けられている。
「う~ぐああぁ~~~あ!」
鉄車(Iron Car)から出てきて思わず欠伸してしまった俺に、
「到着して早々欠伸をかくとは、お行儀悪いですわ、オケウェーサン」
タタ……
ドアを開けて降りてきた俺、オードリー、ジュディとジェームズに、別のドアから降りてきたクレアリスとヒルドレッドがこちらに合流するよう集まってきた。
車内で、何か大事な話があるからってクレアリスと二人っきりの空間が欲しいと言われ、もっと遠くの席へ移動したっていうのを思い出した。一体なにこそこそ話してたんだろう、ヒルドレッドとクレアリスの二人......
「それにしても、ここは既に洞窟内か、その『第一階層』に入っていく寸前の広場的なところなんだね。あそこに、両開きの真っ白い扉があって中へ続くのはきっと『第一階層』となるし……」
実際に、ここは野外へと続く唯一な場所だしな。
見る限り、ここは普通についている『魔道光灯』に照らされながらの一般的洞窟内っぽいんんだけど、そこの扉を潜っていく後のことこそが、本格的な【クリスタルの大洞窟(ルネヨー・フラックシス)】っていう『ダンジョン』になりそうだね。
ちなみに、『ダンジョン』っていうのは【世界獣】が縄張りとし、生息する領域ってこと。
「じゃ、みんな、ここに集まってきてくださいねー!入る前の【天頂神】への祈りを全員いっしょに始めるわよ~~!」
ほう、【天頂神】への祈り…かぁー。
フェクモにいた頃、神々のことをまったく頭にない俺だったけど、11歳に死霊魔術使いになったその日からを境に、【天頂神】に対してだけ複雑な思いが芽生えるようになったってのを再認識させられる。
だって、【天頂神】の所為で俺たちフェクモ人は【一般的な魔術】の使用が出来ないようになってたからそれで、なんか…ここの学院生みたいにこう呼びたくはないけど、まるで本当の意味で【呪われた大地】に生まれ育った感じがしたので、それで【天頂神】に対してだけは何があっても心の底から尊敬したり崇拝することができないがな………たとえ、その神が全ての神の上に君臨して、宇宙を作った関連性があるとされる【神々の父】であろうとも。
でも、その神のお陰で、俺は『一般的な魔術士や精霊術使いに狩られる心配のない大陸に死霊魔術をこっそり、存分に訓練することもできる』ってことも事実なので、この点に関してだけは【天頂神】に感謝するしかないね。
「さあ、行くわ、オケウェー!戦術通りに望めば怖いこと無しだからあたくしから離れ過ぎないようついてきなさいーー!」
オードリーが側までやってくると、これから行われる『野外授業』に対する『予定された戦術の採用』のことを思い出させながら俺をあそこへ集合しに行った他の一年生に倣うよう促した。
「ああ」
「はいです!」
「「「よっしゃー!「……「おほほ~!いよいよわたくしが大活躍する時がきましたわ~!」」」
短く返事した俺はジュディ、ジェームズ、黙ったままのクレアリスと舞い上がった姿勢を見せるヒルドレッドを伴いながら、【天頂神への祈り】に参加するために、イリーズカ先生の元へと歩いていくのだった。
………………………………………………
……………………
同日の【聖エレオノール精霊術学院】の生徒会室にて:
「ええっ、その方針で進ませてやりなよぉー、リリカ」
「かしこまりました」
もう一人の女学院生にそれだけ言った生徒会長、エルヴィナは自分の茶髪セミロングの髪を片側だけ結い上げながら、今度は静かに部屋の中心に立つ銀髪ショートヘアをしている『彼女』へと注視する。
「それで、調査はどこまで進んだのぉー?」
「はっ!調べたところによると、確かに、あの時は彼に向かって放たれた氷弾はあの子から撃たれたものではなく、『別の射手』から発せられたものだと判明できました。ですが、その『元』に辿るのが困難かと思われますので、正体を掴めるまでに時間がかかるか、もしかしてはいつまでも判定できない恐れもありますので、調査を続けることに意味があるかどうかを会長に……」
「はいストップ、マーリちゃんっ」
「え?」
「もう分かったから、次の課題の報告を続けて。むしろそっちの方こそ重要だからぁ」
「はっ!つまり、彼の『本当の正体』について、ですね?」
「ええ。だって、おかしいと思わないっ?フェクモっていう『魔術を使用できないところ』に産まれながらにしても、何故いきなりこちら北方の大地へやってきて数日間しか経ってないのにあれほど数々の魔術が使えるようになったのか?って。挙句の果てに【炎霧の柱】っていう【第3階梯の火炎魔術】まで使えたんだよぉーー?いくら何でもおかし過ぎるぅ!」
「確かに………でも、この件に関して、学院長と……話し合う会長を見てると、なんか……『あちら』の方にはさほど驚いた反応が見られないようですが、もしかするとー」
「『学院長』と彼に何かの関連性があり、そして学院長が彼の秘密を何か知って、ボク達生徒全員から隠しつつ、彼をも同時に泳がせて利用するつもりとでもぉー?そう言いたかったんだよねぇ?」
「……はっ、そこまでお考えになってらっしゃるなんて、やっぱり会長さんは凄い頭が切れるお方ですねー!」
「褒めても何も出ないよぉー?でも……確かに、学院長に何か真相が掴めて、ボク達から秘密にしていると言うのなら、確かに学院創設以来の由々しき自体にもなり兼ねないんだよねぇ……」
「ですが、そうは言われても、………学院長はああでも一応はレイクウッド王国の誇りである四大貴族の一人ですよー?あれ程の大物を、僭越ながらどうしても格も、その失礼させて頂きました会長!えっと、階級の...お格が一段と下におありの会長さんが……どうやって摘発できるとおっしゃるんでしょうか…?」
「まあ、『摘発』とは人聞きが悪いねぇ、マーリちゃんっ」
「はっ!申し訳ありませんでした会長さん!出過ぎた真似をしてしまいー」
「いいえ、そこまで怒ってないよ、むしろマーリちゃんの意見に同意したいぐらいだよぉー?」
「え?」
会長の柔らかくなった表情に目を見開いたマーリエラに、
「確かに、貴族階級がもっと上にある学院長の方を追窮して、周りを嗅ぎまわっていることこそ危険だと思うんだよねー?だから、オケウェーのことを調査するに当たっては、何か知ってるっぽい学院長の方を探るのではなく、『彼』と『彼の仲間』を直接に標的にして調べる他ないと思うんだよねぇー?なので、これからも彼ら周辺の出来事に注目し、各方面からのツテと監視網を用いて調査を続けなさい、いいなぁー?」
「はーっ!会長の仰る通りに致しますので、これからも任務に戻ります故、すぐ退室させて頂こうと存じてますが良いですかー?」
「もちろんっ!またねー!」
「畏まりました、では失礼致します」
それだけ言うや否や、すぐさま生徒会室を退散していったマーリエラ書記が見えた。
「…………さてえ、色んな角度からの思惑や視点もありそうで難しいとは思うけどぉ、『彼の正体と本当の素性』だけは何としても突き止めていきたいんだねぇ………」
テーブルから離れて、静かに部屋の一隅の壁で飾られてる先代ノールド・ミラクリーズ伯爵 の肖像画を見つめながらこう呟いた、
「でもぉ、その前に、邪魔を仕掛けにいくはずの『裏生徒会』のあいつらのことを先に『片付けていく』しかなさそうねぇ、残念っー。だってボク、紫色がする物全体に対して苦手なんだよぉ、しくしくぅ……」
それだけ愚痴る生徒会長、エルヴィ―ナは静かに目を閉じて、先代様の肖像画に背中を向けて、とぼとぼと部屋を出ていくだけだった。
....................
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