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33話
「必ずやアシカガ・ユウスケという男を倒せ。手足の一本や二本、いや命を奪ってもかまわん」
黒狼将軍ドリスは密かに飼っている戦闘奴隷のエルザを呼んで命じた。
「よろしいのですか、男は貴重だということですが」
エルザは問い返す。
自分が戦うことになったユウスケというのは男なのだという。
この世界で男は人口維持の為の貴重な資源であり、男を傷つける事は固く禁じられていた。
「良い。あのパリスの奴に一泡喰らわせてやるためなら構わぬ。そもそも男が女に敵う訳などない。お前の剛力をもってすれば一ひねりに違いない」
エルサは髪型はポニーテールで身長はやや高めだが見た目は普通の少女だ。
顔立ちもはっきりしており美人の部類に入る。
だがその力の強さは異常だった。
狼を一撃で殴り殺し、手刀で木をへし折る。
その振るう剣はまさに剛剣と呼ぶにふさわしかった。
「お任せください」
「首尾よくあの男に勝ったなら、かねてよりのお前の望み、叶えてやろう」
「ま、まことにございますか」
「約束しよう。しかし万が一にも仕留め損なうようなことがあれば――分かっていような」
「ははっ。この命に代えましても、必ずやその男を倒して見せます」
「――じゃあ、行ってくるよ」
「ユウスケ、くれぐれも油断するな。落ち着いて相手の太刀筋を見極めろ」
パリスが試合会場の扉の前で僕を激励してくれる。
うーん、それが出来れば話は早いんだけど。
ここ数日でかなり上達したと思うけど、さすがにそこまでは難しい。
まあ俺には必殺技があるし、頑張りますよ。
逆の扉の前にはエルザが一人立っていた。
目を閉じ、深く深呼吸する。
――大丈夫だ、男などに負ける訳がない。この試合に勝てば、夢がかなうのだ。
エルザは『イグニの村』と呼ばれる隠れ里で生まれた。
イグニの土地は貧しく、村人たちは糧を得るために間者や殺しなど裏の仕事を請け負って暮らしていた。
イグニが『闇の村』と呼ばれる所以である。
エルザの母親も裏稼業を行っていたが、ある日を境に村に帰ってこなくなった。
それ以来、幼かったエルザはさらに幼い妹と共に生きて行かねばならなくなった。
村の女たちはエルザ達に優しかったが、貧しさゆえに育てる余裕はない。
だからエルザに裏の技術を教えた。
自分たちの食い扶持を自分で稼げるように。
エルザは必死で技を覚え、子供ながらに裏稼業についた。
子供なら間者として近づいても疑われにくいから。
だがやはり経験の無さがたたり、正体がばれて捕まった。
そして奴隷として売られたのだ。
そのエルザを買ったのがドリスだった。
エルザはその日から奴隷としてドリスの為に働いた。
エルザには夢がある。
いつか正式な騎士となり、イグニに妹を迎えに行くのだ。
主であるドリス将軍はいつかお前を騎士にしてやると言った。
だからその為にはどんな汚い仕事でも喜んでやった。
エルザには特別な力があった。
それは『剛腕』という、本来の筋力では考えられないほどの力を出す能力。
イグニで習った裏稼業の技術とその剛腕で、エルザはドリスの為に働いてきた。
あれからもう五年がたった今日。
これから出会う男を倒せば夢がかなう。
正式に騎士として認められる。
そうなればすぐにでもイグニに妹を迎えに行こう。
きっとずいぶん大きくなっているだろう。
――この日の為に今まで泥水をすすって生きてきた。負けるはずがない。
首に手をやると、そこには黒い布のチョーカー。
隷属の首輪といい、主の意思で自由に締め付ける事が出来る魔道具だ。
これが着けられている限り逃げる事も逆らう事も不可能だ。
エルザはゆっくりと目を開けた。
今まで男というものを見たことはないが、その瞳に迷いはない。
--その男を倒す。
「両者、中へ!」
大きなドラムの音と共に、ゆっくりと扉が開く。
「頑張れよ、私は観客席から見ている」
「ああ、ありがとう」
ユウスケはパリスに見送られ、円形の競技場へ入る。
身分の関係でここにはこれなかったが、タリアとミネバも何処かで見てくれているはずだ。
――よし、やるぞ。
抜身の両手剣を持ったユウスケの向かい側の扉から、ゆっくりと少女が歩いてきた。
ポニーテールを揺らしながら。
どんな巨体の女が出てくるかと警戒していたユウスケは、あまりに普通な少女の見た目に拍子抜けした。
――なんだ、かわいいじゃん。これならいけるんじゃね?
いよいよ試合が始まる。
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