OCEAN LINE 〜あの空を我が手に〜

ハーミット

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オーストラリア奪還計画

第二十五話「希望の聖剣」

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 竜を倒した後、神崎定進は無力化した。能力の補助があったとはいえ音速を超えて飛び回っていた。身体的な損傷は津田穂月が治し続けたが、それ程までに思考も加速させており、その分の精神的に、脳に来る疲れまでは治せなかった。

 その状態から帰還する為にすかさずネクは風翼を発動して神崎定進を運搬する体勢に移行する。

 「さぁて、この眠り姫ならぬ眠り王子様は僕が光線で運んでいくとして、まだまだ雑魚は居るけれど、穂月ちんはまだみんなの強化はできるかい?」

 能力強化があるのと無いのとでは動き易さに大きな差が出る。とはいえ神崎定進をあそこまで強化したのであればきっと津田穂月の負担も大きかっただろうと、アルバートは気を使っていた。

 「私に問題はありません。まだまだ大丈夫です!」

 そう言って、津田穂月は先程は射程圏内から離れ、影響下に無かったソフィアとエミリーにもその付与の能力を発動する。

 それぞれ拠点に帰還するまでに強化付与による能力強化で、自分にどのような可能性があるのかが見えていた。

 神崎定進を運ぶネクと、エミリーとネアに関しては感じる変化は大したこともなく、巨大生物相手では変化を感じにくくなかなか困った顔を浮かべていた。

 しかし、それ以外の各員は違っていた。

 ネメの消失の能力。触れたものを消失させる。その範囲拡大の可能性。両腕から消失領域に入った光が消えて黒腕が浮かび上がる。これなら直接接触しなければならなかったリスクや、リーチの短さも少しカバー出来る。

 アルバートの光線は厳密には光を放つ線を出す能力であり、その線は物理法則に作用されない光と、物質の狭間のようなもの。光として発動する際は高エネルギーのレーザービームとして使用できる。物質として発動する際はその大きさに反比例して強度が落ちる。単純に展開可能な上限が増えただけだが、あの竜の攻撃を耐えれる程に展開できたのは喜びが多かった。だから、もう一度感覚を掴む為にも強化付与を頼みたかったのだ。

 そして何よりこの強化付与はソフィアにとって非常に大きな物となった。救世主の能力制御が甘く、ただその力を放出するだけであったが、強化付与がある今はその制御が取れ、放出されるエネルギーを小さく纏めていく。そう小さく縮めていった光の束たちはやがて一本の剣の形にまで収縮する。柄を握る感覚はずっとあったが、この日初めて救世主の剣の真の姿を目撃した。

 銀色の刃、剣の腹には白と黒の菱形が連続している。この剣にも重さは感じ無い。概念的力の塊であり、厳密には物質では無いからであり。それは神崎定進が精神世界で見て作り出せるようになった真意の黒き器も同じ。

 ソフィアに起きた変化はそれだけではなかった。小さく抑え込んだ能力が今度は自身の内側に溢れ、身体中が未知の感覚を得て。身体中が能力で満たされる。それにより今までよりも格段に速く動ける。速度系の強化能力者でもなし得ない速さで敵を切り裂いていく。これが神崎定進が言っていた力を制御するという事だと理解する。

 「こいつは本当に凄いな穂月ちん。自分のこれからの伸び代を見ているようで、なんと言うかすごく不思議だ。でも素晴らしい感覚だね」

 付与の能力による圧倒的な強化によって一行は無数の巨大生物を倒しながら拠点へと無事に帰還する。拠点の島に帰還してからは津田穂月は付与を解いて強化は終了するが、その時の感覚は強く残っていた。

 その夜はその後も神崎定進、津田穂月に関する話が止むことは無かった。

 「エミリー!あの力凄かったよ!救世主の能力には意思があって、力を解き放つのから内側に流し込む様にオルタネートした時になんだかその意志の片鱗を感じた気がするの」

 「神崎定進だけかと思っていましたが、あの津田穂月さんの付与の能力も規格外という事ね」

 「そうだねエミリー。じゃあ穂月ちゃんもボクのライバルだ。ボクも負けないように頑張らないとね。誰よりも一番になりたいからね」

 清々しく語るソフィアのその姿を見てエミリーはただならぬ焦りを感じる。

 「穂月さんとライバルって事はあの神崎定進の事がすきになったんですか?」

 それを聞いてソフィアが酷く動揺した様子が見て取れる。

 「え?そっそんな風に見えたの?確かに定進には憧れる強さもあるけど、それは違うよ」

 ここでは無いどこか遠くを見ているようなそんな言葉の先をエミリーは聞きたくなかった。

 「ソフィア…それはつまり」

 「ボクは救世主だからね。今1番強いのは定進だけど、その定進が何かあった時に頼れる様に強くなりたい。だからあの2人はボクのライバルだよ」

 「ソフィアの事は私が守るから安心して」

 これまで護り続けてきた。これは、エミリーの願い。

 「うん、ボクはまだまだだから、きっといつかエミリーの事も護ってあげられるようになるまではこれからもボクの事を護ってね」

 希望に溢れた満面の笑みでソフィアはエミリーにお願いした。

 「うん」

 今はまだその時ではない安堵と、いつか来るその時を憂うその返事で2人の会話は終わる。
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