イクメンパパの異世界冒険譚〜異世界で育児は無理がある

或真

文字の大きさ
18 / 40
第一章

昇格

しおりを挟む
「あぅあぅ!」

「れいちゃん!」

 れいちゃんが俺に向かって抱きついてくる。れいちゃんが居なかったら俺はどうなっていたことか。本当にれいちゃん様様だ。

「よく頑張ったな!さすがれいちゃんだ!」

 俺はそう言いながら、れいちゃんの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。やっぱりかわいいな。

「戦闘お疲れ様でした。流石でしたよ。」

「バンさん!」

「ユウマ様、申し訳ありません。もっと早く加勢すべき状況でしたのに、あんな危険に晒してしまって。私の落ち度です。」

「いえ、そんな!バンさんのおかげでれいちゃんも俺も無事ですし!」

 なんと言ってもバンさんとれいちゃんは、観客を守るための結界を張っていたそうで、二人の結界がなかったら観客に犠牲者が出てたことか。

「そう言って頂けると幸いです。」

 バンさんが来てくれなかったら俺は今ここにいないだろう。改めて感謝しないとな。

 ただ、れいちゃんとバンさんと再会した後間もなく、突然現れた冒険者達に俺たちは連行された。もちろん三人共だ。

 会場の観客も次々と外へ誘導され、瞬く間に闘技場が空になる。そんな空の闘技場の真ん中にオーウェンの死体が放置されている。随分不気味だ。

「さあさあ、早く行くよ!」

 一人の冒険者が俺たちを急かす。

「はいはい。」
「あぅ!」
「わかりましたよ。」

 折角いい雰囲気だったのに、一体なんで連行されるのだろうか。危険な魔物を倒したヒーローのはずなのになぁ。隣のバンさんも「なんかやっちゃいましたかねー」と苦笑いしている。

 数分間歩いてギルドに着くとガーレンさんの部屋へと一直線に案内される。部屋に入ると、ガーレンさんが神妙な面持ちで俺たちを迎える。

「君たちには、色々と聞きたいことがあるんだがその前に。」

「闘技場のあの死体は一体なんなんだ!」

 ガーレンさんが叫ぶ。

「あんな紫な変死体見たことねぇよ!」

「いやぁーあれはちょっと……」

「あれはちょっとじゃなくて!誰なんだよあれ!?」

「オーウェン……」

「えっ今なんて?」

「オーウェンです。」

「あぅあぅ!」

 そう言ったら、ガーレンさんはいきなり頭を抱え、叫び出す。そりゃそうか。オーウェンはダイヤ冒険者、しかも歴代依頼達成数一位だっけ?そりゃ自分のギルドの稼ぎ頭が死んだって言われたらこうなるか。

「本当なのか??」

「は、はい。」

「でも紫じゃん!体!オーウェンの面影もないし!」

「それがですねー」

 俺はオーウェンが変態した経緯を話す。するとガーレンさんは青ざめた表情で、俺を見る。

「その種らしき物を食べたら変貌したと?」

「ええ、そういうことです。」

「バンさんも間違いないですか?」

「そうですね。観客席から見ただけですけど、何かを食べたのは間違いないと思います。」

 ガーレンさんは黙って考え込む。その後大きな溜息をつくと、再び話し始める。

「実はギルドにはオーウェンが暴走してるという通報しか入ってきてなくて、どういう経緯で暴走したかとかはまだよくわかってないんですよな。でも、あれほど変貌した姿でとは。まるでー」

「まるで?」

「魔族化……といった感じですかね。」

「しかし魔族は滅んでいますよ?つい最近王子が魔王を討ち取ったそうですし。」

「いや、魔族では無くて、魔獣という線も。」

 魔獣か。あの禍々しい姿に凶暴性、確かに魔獣に近かったかもしれないな。

「まあでも、この件はとりあえず様子見という事で!」

 ガーレンさんは無理矢理話題を切る。どうやら結論を出すにはデータが足りないという結論に至ったようだ。

「後日調査結果を元に、結論を出します。魔獣化する種なんかあったら、王国の存亡に関わる問題ですからな。即急に調査しときますぞ。」

「出来れば私にも結果を教えて欲しいのですが……」

「バン殿、任せてください。一番目にお知らせしますぞ!」

「じゃあ俺もお願いします!」
「あぅ!」

「ユウマ殿にもですな。わかりました。では、一段落つきましたし、今日は一度解散しましょう。あとそうでした!ユウマ殿、渡すものがあります!」

 そう言うと、ガーレンさんはポケットから黄金に煌めくカードを二枚取り出した。これはもしかしたら?

「一応、暴走したオーウェンの撃破並びに武闘大会での優秀な成績に免じて、ユウマ殿とれいちゃんを金冒険者に昇格させますぞ!おめでとう!」

「やったぞ!れいちゃん!金冒険者だ!」
「あぅ!」

 これでついに日本に戻るための情報を本格的に集められる。いよいよ恵との再会が近づいてきた。これは大きな進歩だ。

「さて、聞きたいことも聞きましたし、解散しましょうか。私は事後処理が山積みなのでな、お先に失礼しますぞ。」

「ユウマ様、私も女王に報告義務があるので失礼します。いやはや、骨が折れる。」

 そう各々挨拶すると、二人は足早に帰っていった。なんだかんだ言ってあの二人は重職だからな、この騒動もあってきっと忙しいんだろう。

 さて、俺も傷だらけだし、今日は宿で寛ぐとするか。あ、回復ポーションも帰る途中買ってくか。ギルドの受付で中級ポーションを買うと、そのまま近場の宿に駆け込む。

 ちょっと高級な宿だけど、まあ今日くらいはいいか。もう日も暮れ始めてるし、夕飯もつけるとしよう。

「いらっしゃい。」
受付に着くと、髭の濃いおじさまが出迎えてくれる。

「宿泊をお願いします。部屋は一部屋空いてます?」

「おう、空いてるぞ。一泊金貨一枚だ。」

 高っ。一泊十万円もすんのかよ。

「ご飯もつけるとどれくらいですかね?」

「金貨一枚と銀貨三枚じゃの。」

 うーん、悩むな。このあと宿探しをするのはちょっと骨が折れるんだよな。まあ、方は実際折れてるし。

「じゃあ、お願いします。」

 俺はそう言って宿泊料を払うと、おじさまは「はいよ」と言って鍵を渡してくれる。

「三階の一番奥の部屋だ。風呂は大浴場があるからそっちに入りな。飯は好きな時に食いに来な。」

「分かりました。」

 とりあえず俺は鍵を受け取ると、そのまま部屋に直行する。今日もぐっすり眠れそうだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...