気づいたら記憶喪失だった

或真

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序章

ラスの野望

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深紅に染まった一室の床に、魔法陣が浮かび上がる。
眩い光が部屋を包み込み、光の中から一人の獣人が現れた。
フォルフェウスである。

「ただいまー!」
そう腑抜けた声で呼びかけると、

「おかえりー!」
と陽気な声が帰ってきた。

「どうだったーってフォルちゃんなんで胸に穴空いてるの!?」
フォルフェウスの胸の風穴を見て驚いた。

「いやぁ、不覚を取られちゃって。ごめんよラスっち!」
ラスっち。そう呼ばれたのは金髪の女性であった。
黒い鎧を纏う彼女は勇者に間違えられることがあるほど神々しいものの、頭の角がその神々しさを歪める。
実は彼女、悪魔なのである。

「そうなんだー。もう、気をつけてって言ったのにー!」
そう言いながらフォルフェウスに治癒魔法をかけていく。

「いつもごめんねー!でもちゃんとやることはやってきたよ。」

「おー流石フォルちゃん!で、龍王くんはどうだった?」

「ラスっちにかかれば余裕だと思うよ。ただ気になったのがもう一人強い奴がいたの!」

「そうなの?フォルちゃんが言うならよっぽどなのね。」
ラスは治癒魔法をかけ終えると、フォルフェウスの体はみるみる再生していく。

「ああ、もしかしたらラスっちを殺せー」
その言葉を言い終わる前にラスはフォルフェウスの心臓を潰した。

「グッアァアアッ!」
フォルフェウスが苦しみで雄叫びをあげる。

「ねぇ、フォルちゃん最近調子乗ってない?私は人間ごときに負けるわけないでしょ!」
そう激昂しつつ、フォルフェウスの体を切り刻んでいく。

「や、やめてくださいッ」
痛みのせいか奇声を出しつつ懇願した。

ラスはプライドが高くそれが傷つけられると、激昂する。
しかも、悪魔は怒るととても恐ろしい。
フォルフェウスを治癒魔法で再生させ、再び心臓を潰し、拷問していく。
ラスは笑顔を浮かべながら、楽しんでいる様子だった。

数百回これを繰り返した後、やっとラスの機嫌が良くなった。
「まあ、誰にでも間違いはあるもんね。部下のミスを許すのも上司の勤めだと言えるもんね!」

「は、はい、そうですね!」

「おい。誰が喋っていいって言った?」

「ヒィ、すみませんラス様!」

「まあいいや。とにかく、その二人をちゃんと監視しといてね。そしてちゃんと報告をすること。」

「し、承知いたしました!一つ質問をよろしいですか?」

ラスは懲りない奴だなと思いながら、その勇気に免じて質問を許す。

「ラス様は一体どんな目的のために龍の腕試しを指示されたのでしょうか?特にラス様の相手になるとは思えませんし。」

フォルフェウスは早速先ほどの失態を挽回すべく、ゴマをすっていく。
しかしこれはいい質問だ。フォルフェウスは脳天気に見えても、案外色々考えているのである。

ラスはフォルフェウスの評価を見直しつつ、答えた。
「それはね、世界を全部頂くための駒を集めるためだよ。」

ラスの野望。それは単純かつ大きな目的であった。

世界征服。

ラスは欲張りである。全て欲しい、あいつが羨ましいとか、常に妬みと隣り合わせだった。その妬みは年々大きくなり、彼女自身を苦しめることになってしまった。この妬みを解消するためにどうすればいいかと考えたら、答えは力を得ることだと分かった。

武力があれば、どんなことも叶えられる。

そう考えた彼女は、世界征服を可能とする駒を集めることにしたのだ。そして戦争を起こして、世界の頂点に立つと言うのが彼女の野望であった。

「でも残念ながら、まだ弱すぎるかな。世界征服の準備はもうちょっとかかりそうだなー」

「なるほど、だから強くなるまでは監視のみでいい訳なのですね!」

「うん、私の必要な駒はもうほとんど揃いかけてるんだから、監視でヘマをしないようにね。もしやらかしたら、わかるよね?」

「は、はい!誠心誠意努めさせていただきます!」

ラスは頷くと、天空の城から地上を一望した。
(この地上上の物が全て私の物に…)
魔王ラスは世界征服に向けて準備を進めていくのだった。

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