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9.なりふり構わない意地悪令嬢に、ニセ嫁タジタジざまぁーす。
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最初に案内された部屋に中松と共に戻ると、彼の読み通り花蓮様は泣いて三条氏に縋り付いていた。
酷い暴言を吐かれた上に、誰にも叩かれたことの無い頬を伊織様にぶたれた、と報告しているのだ。おいおい、こっちは大事な髪の毛を、思いきり引っこ抜かれたんだが?
「伊織・・・・これは一体どういう事だ! 何故、花蓮が泣いて戻ってきたのだ!?」
一矢は全面的に花蓮さんを信用しているのか、三条氏の手前叱責しているのか、それはどうか良く解らなかった。
ただひとつ私が解っている事は中松が居なかったら、悪のご令嬢様に罵声を浴びせられて髪の毛まで引きちぎられそうになっていたのはこっちだというのに、濡れ衣を着せられて大変なことになっていたという事だ。
明日の神松のお弁当、ミートボールひとつ増量しよう。そして、当分は神松と呼び湛えよう。ありがとう、神松!
「私の娘を泣かせるとはどういうつもりだね、緑林さん」鋭い目が光った。
「三条様、一矢様、無礼な態度を取られた上に暴言を吐かれたのは、伊織様の方でございますよ。伊織様に、何の非もございません。ここに証拠がございますので、どうか聞いて下さい」
――証拠はあるのですか?
中松の言葉がよみがえる。
ああ、この男はこうやって人を追い詰め、降りかかる火の粉を自ら守り、払う術を持っているのだ。きっと一矢も権力争いやら様々やり込められる事が常々あるのだろう。それを事前に察し、守っているのが中松なのだ。彼等が固く信頼し合っているのが、特に一矢が中松を傍においているのが、今回の件で良く解った。
彼は、デキる。出木杉君クラスにデキる男だ。
青ざめて泣き喚く花蓮さんを無視し、中松は問題の箇所が録音されている箇所を再生して流した。さっきの部屋に入る辺りから、足を引っかけられた上に暴言を吐かれ、髪の毛を引っ掴まれて酷い目に遭わされた事が、全て露呈した。足りない部分は、中松がご丁寧に解説してくれた。
流石、神松。鬼のように容赦が無い。
「辰雄さん」
神松の報告――というよりボイスレコーダーの内容――を聞いた一矢は怒っていた。リムレスフレームの四角い眼鏡の奥の瞳が、怒りで満ち溢れていた。
「私の大切な女性に、あまりにも無礼では無いか! 花蓮の教育、一体どうなっているのだ? 言っておくが、私は花蓮と将来を約束した覚えはない。一言も言った事は無いぞ。私は幼い頃から、伊織だけを愛し、伊織だけを妻に迎えたいと、そう心に決めていたのだ。花蓮が私に初めてを捧げてと言うが、それが肉体的な事を示唆しているなら大間違いだ。私は花蓮と関係など一度もしていない。勉強を教えたり、庭の花を愛でたり、パーティーに招待したり、花蓮が私を慕ってくれていたので、一人前になる手助けはしていたつもりだが、それを勝手に解釈し、私の一番大切な女性を傷つけるとは、無礼千万! 伊織を傷つけることは、即ち私を傷つける事にもなるのだぞ! 今後の取引は考えさせてもらう」
私と素で喧嘩するおかしな言い合い以外で、こんな彼の剣幕は見た事が無い。
一矢が、本気で怒っている。私の為に、本気で・・・・。
それに、花蓮様と関係を持った訳じゃなかったんだ。彼女の虚言だった事に、改めて嬉しさがこみ上げた。
「伊織、痛い思いをさせてすまなかった。屋敷へ帰ろう」
優しい顔を見せてくれたので、頷いて手を取った。「帰ってすぐ手当しよう。本当にすまない」
何故か一矢の方が泣きそうな顔をしていた。
「失礼する」
三条親子に一瞥をくれると、一矢と中松に守られるように私はこの屋敷を去った。
ああーっ。無事に帰還できたぁ。ほっとした。
それにしても意地悪令嬢って、コワーイ!!
酷い暴言を吐かれた上に、誰にも叩かれたことの無い頬を伊織様にぶたれた、と報告しているのだ。おいおい、こっちは大事な髪の毛を、思いきり引っこ抜かれたんだが?
「伊織・・・・これは一体どういう事だ! 何故、花蓮が泣いて戻ってきたのだ!?」
一矢は全面的に花蓮さんを信用しているのか、三条氏の手前叱責しているのか、それはどうか良く解らなかった。
ただひとつ私が解っている事は中松が居なかったら、悪のご令嬢様に罵声を浴びせられて髪の毛まで引きちぎられそうになっていたのはこっちだというのに、濡れ衣を着せられて大変なことになっていたという事だ。
明日の神松のお弁当、ミートボールひとつ増量しよう。そして、当分は神松と呼び湛えよう。ありがとう、神松!
「私の娘を泣かせるとはどういうつもりだね、緑林さん」鋭い目が光った。
「三条様、一矢様、無礼な態度を取られた上に暴言を吐かれたのは、伊織様の方でございますよ。伊織様に、何の非もございません。ここに証拠がございますので、どうか聞いて下さい」
――証拠はあるのですか?
中松の言葉がよみがえる。
ああ、この男はこうやって人を追い詰め、降りかかる火の粉を自ら守り、払う術を持っているのだ。きっと一矢も権力争いやら様々やり込められる事が常々あるのだろう。それを事前に察し、守っているのが中松なのだ。彼等が固く信頼し合っているのが、特に一矢が中松を傍においているのが、今回の件で良く解った。
彼は、デキる。出木杉君クラスにデキる男だ。
青ざめて泣き喚く花蓮さんを無視し、中松は問題の箇所が録音されている箇所を再生して流した。さっきの部屋に入る辺りから、足を引っかけられた上に暴言を吐かれ、髪の毛を引っ掴まれて酷い目に遭わされた事が、全て露呈した。足りない部分は、中松がご丁寧に解説してくれた。
流石、神松。鬼のように容赦が無い。
「辰雄さん」
神松の報告――というよりボイスレコーダーの内容――を聞いた一矢は怒っていた。リムレスフレームの四角い眼鏡の奥の瞳が、怒りで満ち溢れていた。
「私の大切な女性に、あまりにも無礼では無いか! 花蓮の教育、一体どうなっているのだ? 言っておくが、私は花蓮と将来を約束した覚えはない。一言も言った事は無いぞ。私は幼い頃から、伊織だけを愛し、伊織だけを妻に迎えたいと、そう心に決めていたのだ。花蓮が私に初めてを捧げてと言うが、それが肉体的な事を示唆しているなら大間違いだ。私は花蓮と関係など一度もしていない。勉強を教えたり、庭の花を愛でたり、パーティーに招待したり、花蓮が私を慕ってくれていたので、一人前になる手助けはしていたつもりだが、それを勝手に解釈し、私の一番大切な女性を傷つけるとは、無礼千万! 伊織を傷つけることは、即ち私を傷つける事にもなるのだぞ! 今後の取引は考えさせてもらう」
私と素で喧嘩するおかしな言い合い以外で、こんな彼の剣幕は見た事が無い。
一矢が、本気で怒っている。私の為に、本気で・・・・。
それに、花蓮様と関係を持った訳じゃなかったんだ。彼女の虚言だった事に、改めて嬉しさがこみ上げた。
「伊織、痛い思いをさせてすまなかった。屋敷へ帰ろう」
優しい顔を見せてくれたので、頷いて手を取った。「帰ってすぐ手当しよう。本当にすまない」
何故か一矢の方が泣きそうな顔をしていた。
「失礼する」
三条親子に一瞥をくれると、一矢と中松に守られるように私はこの屋敷を去った。
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