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5.俺好みの女に教育してやろうか、ってどういう意味ですか?

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「令嬢修業の後、三十分だけ特別レッスンで延長だからな。俺が直々にレッスン付けてやるよ。だったら、俺に勝てるんじゃねえの?」

「わかったわ」

 どうせ断れないんでしょ。約束したからね!
 あー、それにしても悔しい。
 ナメられてるもんね。完全に。

 でも、見ていなさい!
 何時か・・・・絶対に私が倒す!
 今は修業してレベルアップの時間なのよ。勇者が魔王を倒すかのように、末端の構成員が親分クラスのボスを討ち取るには、それ相当の時間と修業が必要なのだ!

 私は絶対に、ぜーったいに負けない!
 たとえ宇宙が滅びようとも!
 鬼を、たおーす!


 わー、姐さんかっきいー(カッコイイ)、と兄弟分(ほぼ身内というか、身内しかいない)が拍手喝采よ。ふん。どーだ、コラ。姐さんポジションを狙う女は、人望あるんだぞー。


「やけに素直だな」


 意気込む私に向かって、鬼が一言。「素直な女は・・・・――好きだぞ」



 ず・ぎ・ゃ―――ん!(撃たれて重体)



 

「美緒。俺に頬染めて遊んでる暇ねえぞ。ちゃっちゃと修業しろよ」


 鬼ハラ受けているのに、鋭い目線とドスの利いた声で言われ、再ときめき。
くやしい――!

 おのれーっ。私の心にずぎゃんずぎゃんと何発も銃弾を撃ち込みよって!
 見てなさい!
 こんな修業程度、姐さんクラス候補のアタイにはお茶のこさいさいなんだからねっ!


「かかってきな! この勝負、受けて立つ!」

「だからその言葉遣いをやめろって」呆れて言われた。

「そうでしたわ、おーほほ。ごめんあそばせ」

 高笑いすると、鋭い目線を送っていた鬼が、表情筋を崩してぷっと吹き出し、笑ったの!

 ぎゃをー!
 だからずるいって、それ!
 こっちを油断させておいてから、ずぎゃーん、ずぎゃーん、って、私を撃つの止めて欲しい!!

 もうこれで何発目よ!?
 何回瀕死状態にさせたら気が済むのよ!


 こうなったら無になるわ!
 これでどーだっ。

「早く指導して、中松様」

 キリッと令嬢らしくお腹に力を入れて背筋を伸ばし、彼を睨みつけた。
 私は無になるの。中松様にいちから手取り足取り教えてもらう、不出来な令嬢を演じるの!
 
「そんな怖い顔して睨むなよ」

 くくっ、と笑われた。嫌味な笑いじゃなくて、ちょっとウケた時の軽い笑顔。

「ホント、美緒は飽きねーな」

 ぽん、と頭を撫でて貰った。ううう・・・・鬼、時々飴。使い分けが上手いのなんの。
 何枚も何枚も上手なんだなって思う。年上だし、元ヤ〇ザだし、勝てる要素がひとつもない。でも、頑張ればいつか努力が結ばれ、花開くときが来るだろう。

 なーに、大丈夫。今のところライバルが皆無だと思われる(お姉ちゃんはもうポンコツ組長のものだし)から、後は私が頑張るだけ!
 こーなりゃ、セクシー抗争なんかせずに、とっとと既成事実作っとけばよかった。

 あの雰囲気にもう一度持っていくには、どうすればいい?

「美緒、また何か企んでるだろ。お前、顔に出すの止めろ」

「えっ? 顔に出ておりましたか、中松様」

 キリっとした真顔を作って言ってやったら、また笑われた。
 ぎゃをー。
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