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10.ご褒美に若頭とのデートが決まりました!

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 時には加減し、時には絶妙に抜き去ったり、相手優勢の攻防を繰り広げた。
 今日だけは負けてあげる。でも、次の勝負(特に中松さん絡み)はぜーったいに負けないからね――そんな風に思いながら勝負を楽しんでいると、待ち人来たれり。

 入江さんに写真を送って貰っていたから、よく解った。
 あちらの方から誰かを探しながら焦って走ってくる彼は――五条武成(ごじょうたけなり)さん。白雪お嬢のお父様だ。

「すきあり―っ!」

 今は、白雪お嬢が鬼だ。私は彼女から早足で逃げ去り、わざと大声を上げながら、かあーん、といい音を立てて陣地内の缶をけ飛ばした。それは狙い通り、五条さんの足元に転がった。

「美緒蹴りすぎだから――! あーっ、すみませんその缶拾ってくださ――」

 白雪お嬢が缶を追いかけながら、遠くからやって来た彼の顔を見て、時を止めた。

「おと・・・・うさま・・・・?」

「白雪! 無事だったのか!!」

「えっ、無事? ってどういう意味――」

 お嬢はお父様に抱きすくめられた。「本当に良かった・・・・!」

 
「ちゃんと約束を守って、すぐ、おひとりで来ていただけましたね? まさか警察に通報なんかしていませんよね?」

 声を掛けると、白雪お嬢を抱きしめ、その小さな胸に顔を埋めるようにしていたお父様が、はっと顔を上げた。「警察には言っていない! 言われた通り、一人で来た! だから頼む! 娘だけはっ。娘だけは返してくれ!! 金なら幾らでも支払う!」

「よろしい。ちなみにお金なんか要りません。では、次の条件を言います。娘さんを返して欲しければ、一緒に遊んで下さい。お仕事はもう、今日は休みです。このまま帰ったら、娘さんは返しませんよ」

「きっ・・・・君が誘拐犯なのか・・・・!」

「人聞きが悪い言い方はよして下さい。私は、白雪お嬢様の友人です。缶蹴り友達ですから。沢山、お嬢様のお友達もいますよ。みんなで楽しみましょう」


「だっ、騙したのか!! 大事な取引中だったんだぞ! それを――」


「娘以上に大事なものなんか無いんだよ!」今の台詞にカチンときたので、乱暴な言葉で話をブッたぎってやった。「そんなに大切なら、もっと白雪さんに目を向けられたらいかがですか! 彼女がどれだけ傷つき、悲しい思いをされていたか、考えた事あります? 無いですよね? 大事な取引を放ってでもここへ来られたのなら、まだやり直せます。因みにその放って来られた大事な取引なら、大丈夫ですよ。ご心配には及びません。入江さんがきちんと処理をしてくれています。ちゃんとお願いしましたから。お仕事に迷惑はかけないように配慮したつもりです」

 にっこり笑って言ってやった。「今日の五条武成さんのお仕事は、白雪お嬢様と缶蹴りをしてめいっぱい楽しみ遊ぶ事、以上です。任務完了したら、解放してあげます」

「みっ・・・・美緒アンタ・・・・!」

 お嬢の目がみるみる潤み、涙でいっぱいになった。
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