王様スマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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スマイル1・王様をビンタで成敗

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 後は私が施設にいない夜間、子供達の面倒を見る留守番が必要になる。兄の恭一郎にお願いできればいいけれど、クラブでバイトするって言ったら絶対怒られる。頑固親父みたいな一面のある兄だから、彼に留守番は頼めない。


 でも、五千円は欲しいっ! 諦められない!!


 とりあえず、近くに住む仲のいい友人に留守番を頼んだ。二つ返事でオーケーを貰ったので、胸をなでおろした。持つべきものは友ね。これで留守番は確保成功よ。
 今日早速、クラブへアルバイトに行こう。
 リョウ君の誕生日も迫っているし、一日でも早く五千円欲しい。
 私はまだ若いから、多分雇ってもらえるハズよ。一日体験して、やっぱりこの仕事は私に合いませんでした、って言おう。それで、五千円ゲットよ!!

 でも、お店で着るような綺麗なドレス、何も持ってないけれど大丈夫か心配だわ。貸してくれるのかしら。レンタル費用とか取られないわよね?
 よく解らないから、とりあえず電話してみよう。フリーダイヤルなのが助かるわ。


 私がこのクラブに決めたのは、問い合わせがフリーダイヤルだったからに他ならない。


 早速、フリーダイヤルでクラブに電話をかけた。マネージャーが電話に出たので、一日体験したい旨を伝えると、今日すぐにでも来れるかと聞かれたので、すぐに働きたいと希望を言った。ドレスの件を尋ねると、体験だから無償でレンタルがあるから心配無い、と言われて安心した。
 無事に出勤が決まったので、私はもう五千円が貰えるつもりで、心が浮き立った。
 その後、留守番を頼んだ友人が施設に来てくれた。一緒に夕飯を食べ、子供達をお願いして、約束した午後七時半にクラブへ出向いた。


 Club雅――東京メトロ銀座線の銀座駅から指定の出口を上がってすぐ、お洒落でモダンなビルの一階が、そのクラブだ。銀色の重そうな扉のすぐ傍に、店名があったので間違いない。なけなしの交通費をはたいて来たのだから、絶対に五千円はゲットするわよ、と意気込んで中に入った。

 足を踏み入れると、貧乏人はお呼びでない豪華絢爛な空間が広がっていた。店内は全面ガラス張りで、イタリアの大聖堂を思わせるような、気品と品格の溢れる造りになっていて、煌びやかなシャンデリアが光を放ち、落ち着いた濃灰色の本革ソファーに降り注がれていて、目がチカチカした。

 こんな場所に立ち入るのは初めてだから、どうしたらいいのかしら、と困っていると、広い店内の奥の方から、店のオーナー(ママ)と思われる着物の女性が現れた。髪はアップにきちんとセットされており、パールの付いた髪飾りがちらりと見えていた。目力もあり、威厳のある雰囲気。三十代後半位の、和風美人の綺麗な人だった。
 彼女が身に着けている着物は、全体が藤色に美しく染め上げられ、下の方はグラデーションで濃くぼかし染めが施されている。腰から下、袖にかけて松葉で亀甲を描き刺繍が施された、見るからに高級そうなものだった。帯も上品な本金で、本物ならではの澄んだ輝きに水色や灰青等、美しい淡彩を重ねた西陣織の帯を合わせていて、少しふっくらとした体形にそれらは良く合っていた。流石、銀座のママだ。

「貴女が、木村美幸(きむら みゆき)さん?」

「あ、はい。今日一日お世話になります。よろしくお願いします」

 私は早速、偽名と偽住所を書いた履歴書を渡した。電話口で急に名前を尋ねられ、本名を言いたくないから仕方なく思いついた名前――おかあさんの旧姓――を言ってしまったの。
 どうせ今日で辞めるから、私が真崎美羽という事や、住所が施設だって本当の事なんか教えなくてもいいかと思って。

 まあ丁度よかった。店での源氏名を『美幸』にして、ミューちゃんと呼んでもらう事にした。
 慣れてないから全く別の名前で呼ばれても、忘れてすぐに対応できないと思うし、本名が美羽だから、子供達にミュー先生とか、他の人にもミューちゃんって呼ばれることが多いから。

 パウダールームに案内してもらうと、中に化粧道具や髪を巻く用具等が利用できるように置いてあるのを目視して、ほっとした。ビジューの沢山付いた豪華そうなレンタル用のロングドレスを借り、ついでにパウダールームのメイク道具も借りた。
 入店時間までに腰辺りまであるストレートの地毛を巻き上げ、アップスタイルに自分で仕上げた。

 メイクや髪型は、田舎娘をイメージして、わざと野暮ったくした。
 ダサい方が男受けもしないでしょう。今日限りだしね。
 他の女性陣達に見劣りしないように綺麗にして、お客に気に入られ、万が一でも店に残らないかと、引き留められても困るし。
 店側から辞めてくれ、と言われる方がいい。ダサい女なんて、こんな高級なクラブには必要ないでしょ。



 さあ、五千円よ、五千円!



 本当は一万円欲しいけれど、時間的に難しいから五千円。
 高望みしちゃいけないわ。


 五千円の為に、私は愛想を振りまく事にした。
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