王様スマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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スマイル15・王様をお泊り保育に誘う

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「あれっ、王雅、おはよう。もう来てくれてたの? あ、準備も、もう出来てるね。ありがとう」

 声を掛けると、王雅がよお、と返してくれた。

「そんな、いーんだよ。気にすんな。いっつも一人で大変だろ。だから、お前を助けようと思って早めに来たんだ。それより、今日は・・・・誘ってくれて、ありがとう」

 少し照れながら、嬉しそうにしてくれている。
 良かった。王雅も楽しみにしてくれていたのね。正直、嫌がってないか心配だったのよね。
 山の上で雑魚寝なんて、王様には無理かもしれないでしょ。

「うん。いつも色々私達の為に面白い事考えてくれるから、今回は王雅にも楽しんで貰おうと思って誘ったんだけど、暫く施設に来なかったから、仕事忙しかったんじゃないかなって思ってたの。急に誘って、迷惑じゃなかった?」

「全っっ然、大丈夫! 丁度、土日は休みだったんだ。迷惑なんてこと、あるわけねーよ。それより、誘ってくれて嬉しかったぜ」

 輝く王様スマイルが返ってきた。

「そう。それなら良かった。じゃあ早いけど、みんな準備できてるみたいだし、出発しようか」子供たちに号令をかけた。



「はーい!!」



 こうして王様とマサキ施設の全員で、チャーターした激安観光バスに乗り込み、お泊り保育へ出発した。
 観光バスの乗り心地は、私の知っている乗り心地だった。桃園の時に乗った、王雅が用意してくれたセレブバスとは比べ物にならない位、私の身体に馴染んだ硬さで、落ち着いた。





 ※




「なっ・・・・なんじゃココは――――っっ!?」




 現地に到着するなり、王様が大声で叫んだ。「宿泊施設(ホテル)じゃねーのかよっ!?」

 マサキ施設を出発して、一時間弱。安定の乗り心地の格安観光バスにガタゴト揺られて、近所の山奥にやって来た。見晴らしの良い草原の中に、ポツンとひとつだけ、がらんどうの何もない公民館のようなホールが建っている。
 この施設は、ただ本当に雑魚寝ができるだけの建物なの。地元の方々のご厚意で、ここも毎年、格安で貸してもらっている。保育園とか幼稚園とか、お泊り保育に利用する際、隠れ人気スポットではある。何も無いのが、却っていいの。沢山身体を使って遊べるから。
 辺りを見回していた王雅が私の方にずかずかやって来て、低い声を絞り出した。「おい美羽、これ・・・・何だよ」

「えっ?」

「ここに泊まんのかよ!」

「そうだけど」

「へっ・・・・部屋は!?」

「部屋? みんな一緒よ。ホールひとつしかないもの」

 電話をリョウ君に任せちゃったから、山の上の施設で雑魚寝なんて多分言ってないわよね。王雅は、宿泊施設がホテルだって勘違いしちゃったのね、きっと。予想した通り、お泊り保育も知らないのね。今までやったことが無いんだわ。

 
「なっ・・・・どういう事だよっ。俺とお前の部屋は!?」

「大人だけ別の部屋なんて、あるわけないでしょ。みんな一緒に決まってるじゃない。何言ってんのよ、おかしな事言うのね」

「そっ・・・・そんな、お前、ガキ共の横で初夜っ・・・・いや、その、俺はいーけど・・・・お前がマズいんじゃねーの? そーゆーのって、やっぱさ、もう少し大事に・・・・」

「初夜? 何言ってるのよ。何よ、初夜って」

 王様は、時々訳の分からない事を言い出す時がある。まあ、育ちの違いかしら。
 お泊り保育をやったことが無い貴方にとったら、今日が初めての夜には、違いないけれど、普通そんな言い方するかしら。

「あの・・・・ちょっと聞くけど、俺と泊まりたくて誘ってくれたんじゃねーのかよ」

「うん。だから、今からバーベキューして、草原でめいっぱい遊んで、みんなで飯盒炊爨して、美味しいごはん食べて、キャンプファイヤーして、ここに泊まるのよ。王雅って、こーゆーコト全然したことないでしょ? 貧乏には無縁だものね。だから、これがどんなに楽しいか、体験してもらおうと思って誘ったの!」


 さっき、とても素敵な王様スマイル見せていたし、準備万端で早く来てくれたし、王雅も楽しみにしている事は解っているから!


 あら。でも、なんか今の一言を聞いて、この世の終わりみたいな顔しているわね。王雅の様子を見ると、死にそうになっているわ。さっきと全然違うじゃない。


 もしかして、雑魚寝がそんなにイヤだったのかしら。
 だったら、誘って悪かったかな。

 やっぱりセレブは、所詮セレブよね。雑魚寝が楽しいなんて、思うワケ無いんだわ。
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