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第二話・壊れた男
Side・松田 亜貴・1
しおりを挟む「あぁっ、亜貴っ――・・・・」
僕の下で甘い声を漏らす玲子の首を軽く絞めた。
苦しそうに顔を歪ませる玲子を見て、僕は興奮する。
――このまま首を絞めて本当に殺したりしたら、君はさぞかし美しい顔をするんだろうな、玲子。
何時だっただろう。僕がこの異常な性癖に気づいたのは。
多分由布ちゃんと結婚してから、まともなセックスができないと解った時だと思う。
彼女を抱くのは苦痛だった。由布ちゃんの事は大好きな筈なのに、なぜか興奮しなくて出来なかった。
辛うじて何度か両手で足りる程は彼女を抱いたけれど、それ以上は無理だった。
彼女がしつこく何度も誘ってくるから、つい僕の裏側の本当の目を向けてしまってからは、誘われなくなったから助かっているけれど。
何か違う。僕が求めているものは、こんな平凡に抱き合う行為じゃないって。
それに、由布ちゃんをあまり僕の手で汚したくなかった。
いつまでも可愛いお姫様でいて欲しい。中学の時の変わらない可愛い笑顔の、穢れを知らないお姫様で――。
だから、抱かずに家に閉じ込めた。
そして逃げられないように、誰もが認める優しい完璧な夫を演じた。
演じるというよりは、もともと僕は人に合わせて上手く生きていくことに長けているし、別に無理なくありのままの僕の姿そのままを振舞ったんだ。何の苦労も無かった。
出世にも興味無いし、結婚してから彼女の父親が経営する会社に入社して役員をすると、たちまち喜ばれた。業績も上げて認めさせ、今では次期社長候補の地位も手に入れた。
すると、由布ちゃんがどんどん綺麗になっていったんだ。
僕に満たされてなくて、常に不安気で何時も僕を想って泣いているようになった。
由布ちゃんが苦しそうに泣いている――そう考えると異常に興奮するようになったんだ。
そこで初めて、自分の性癖を理解した。
僕は幼い頃から昆虫が好きだった。羽や足をむしるとバタバタと悶えて絶命する姿が、美しくて好きだった。この性癖はここに結びついていたのだ、と。
動物はまだ殺したことが無い。処分に困るから。
人間は殺したら動物以上に面倒だから、これもまだ殺したことは無い。
でも、どんな風に悶えて絶命するのかこの目で見てみたいとは思っている。
「亜貴ぃ・・・・あぁ・・・・もっと、もっとちょうだいっ!!」
こんな時、何時も親友――秋山壮の事を思い出す。
『大切なものは、無理せずそのまま大切にすればいい。歪(ゆがみ)や欲は、どうでもいい玩具を見つけてその玩具で満たせばいいだろ。亜貴の素直な心のままに振舞えばいいんだ。楽にしろよ』って――
壮の言う通りだ。流石カウンセラーだ。
君にそうやって言われてから、僕は随分楽になったんだ。
君に紹介して貰ったバーで知り合った彼女と、もう二年も関係を続けている。
由布ちゃんをどうにかしてしまうんじゃないかって、玲子のお陰で悩まなくても良くなった。
由布ちゃん。今頃、同窓会を楽しんでいるかな。
僕、本当は君と玲子みたいなセックスをしたいんだよ?
でも君にそんな事をすると、僕は多分君の事を締め殺してしまうだろう。興奮しすぎて由布ちゃんを殺したりしたら、大変だから。
だから、抱けないんだ。
僕の闇のスイッチを入れたまま君に触れると、止まらなくなってメチャメチャに壊しちゃいそうで怖い。
僕は好きなものを見つけると、閉じ込めて分解して壊してしまう癖があるから。
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