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Office03・知れば知るほど

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 翌日。出勤時間前。
 職場のフロアに行くために、ホールでエレベーターを待っていた。
 しかし仕事の事なんて頭にあるわけがない。頭に浮かぶのは三輪さんのことばかりだ。
 今日も三輪さんとデートできるかと思うと、顔が緩んでしまう。

 おっといけないわ、和歌子!
 気を引き締めなくっちゃ!!

 チーン、という音と共に、ホールにエレベーターが到着したので、そのまま何も気にせず乗り込んだ。


「和・歌・子・さん」


 エレベーターに乗って間もなく、名前を呼ばれた。
 鼻歌でも歌うように語りかけてくるこの声は・・・・!!

「出たなっ、悪霊、上山真吾!」思わず睨んでいた。

「悪霊? 俺はそんなカワイイもんじゃありませんよ」しかし、ヤツは笑顔で受け流す。

 さらっと言うな、さらっと!!
 アンタは悪霊よりタチ悪いんかい!
 
「昨日のデート、ドコへ行ってきたんです?」

「真吾君にはカンケーないでしょ」

「ありますよ。大アリです。俺の大好きな和歌子さんが、コトもあろうに三輪上司と――」

「あーっ、あ――っ!!」

 私は、咄嗟に大声で三輪さんの名前をかき消した。
 お陰で、エレベーターに乗ってた人にヘンな目で見られたじゃないのぉ!

「で? ドコへ行っていたんですか? 言わないとまた、ここで例の人の名前、言いますよ?」

 こっ、コイツ――――!
 何時か絶対殴る! シメる!!

「映画見て、その後食事に行っただけよっ! 悪い!?」

「悪くないけど、俺の誘いを断って映画に行くとはね~。で、どうせ、動物映画でも見たんでしょう?」

「なっ、何で解るのよっ」

「和歌子さん、アクション好きなくせに、先に誘ってくれた俺に悪いなーって思って、遠慮したんじゃないかなって思ったんです。仕事終ってからの映画だったら、その時間帯にやってるのは、動物映画しかないでしょう?」

 何コイツ!
 探偵かっつーの!!

「真吾君、あなたねぇ、私につきまとうヒマがあったら、探偵の勉強でもしたら? 絶対なれるわよ、探偵に」

「俺は探偵なんて、興味ありませんし、なるつもりもありませんよ。俺が興味あるのは、とても解りやすい目の前の女性だけですね」

「誰のことよっ」

「さあ、誰のことでしょう」

 ムッカー!
 カンペキ、バカにしてるわっ!!
 むかついたのでエレベーターを降りてスタコラ歩いていくと、怒らないで下さいよ、とヤツが後からついてきた。

「ついてこないでよ」

「俺も職場、こっちですから」

 くっそー、言い返せない!
 難しい顔をして睨んでいると、そんな顔も可愛いですねぇとハグされた。


「ちょっと、やめてよ! もうっ、真吾君――」


 バタバタ騒いでると、私達の職場のフロアの方から、三輪さんが歩いてくるのが見えた。「ちょっと、ちょ、真吾君! 離して! 離してったら!! 三輪さんに見つかっちゃうじゃないの!」

 けど、真吾君は離すどころか、ニコニコ笑顔をむけたまま、三輪さんに大声で挨拶した。「三輪さーん、おはようございま―す!」

 真吾君の大声に三輪さんが振り返る。「おっ、上山か。おはよう」


 三輪さんが近寄ってきた。止めてっ、来ないで――――!!


「久遠時君も一緒だったのか。おはよう。二人は仲がいいんだね」

「ちっ、違――」

「そうなんで―す! 俺、和歌子先輩の事、メチャ尊敬してるんですよ―」顔は笑っているが、目はかなり挑発的な視線を三輪さんに送っている。




――妻持ちが、俺の好きな女にちょっかいかけてんじゃねーよ、的なオーラ。




 
 
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