王女と王子の政略結婚 ー背の高い私と背の低い貴方と-

たま

文字の大きさ
4 / 32

第四話 オタゴリア最後の夜

しおりを挟む
1年というのは、長いようで短い。
短いようで、長い。
何だか、何か悟りをひらいてしまった聖職者のような人間の言葉みたいになってしまった。
でもこの一年を言葉に表すならそれしか言えないのだ。

私個人の希望としては、親や兄としんみりとした雰囲気で過ごしたかったのだが
そうは問屋が卸さなかった。
相変わらず兄にいじられながらの1年だった。
しんみりする暇すらなかった。

おかしい。
兄というのは、政略結婚の為にこの地から泣く泣く離れる妹である私、か弱き乙女を保護し、溺愛するものだとばかり思っていたのだが違うのだろうか。
まぁ冗談だけど。
兄に溺愛されても気持ち悪いし。

そんなこんなで父が命令を下してから、きっかり1年後、我がオタゴリアの刺繍職人やドレス職人やら染色職人やらの汗と涙の結晶であるドレスが出来上がり、何の問題もなく輿入れの準備が整った。
そして私は馬車に揺られてカンタベル王国に向かっている。
今日、オタゴリア王国とカンタベル王国の国境近くのスティ-ブン辺境伯が治める領内に入った。
王都を出立してから4週間。
贅をこらした花嫁道具を見せびらかす、いや、王家の力を見せつけるためのゆっくりとした進行で、普段よりも時間をかけた行軍ではあったが、今晩がオタゴリア最後の夜になる。
スティ-ブン辺境伯と最後の晩餐を共にし、客室に戻る。
王女が寝泊まりするのだ、部屋はかなり贅を凝らしてあるし、居心地良く滞在できるように皆、気を使ってくれていた。
毎日違う枕とベッドで寝るのはかなり辛いものがあったけど。
それでも、そこは自国で、父様の家臣の家だった。
明日は、国境。
私はカンタベル王国の馬車に乗り換えるのだ。
私と侍女4名と私の荷物のみ。
心細くない、と言ったら嘘になる。
流石の私も異国の地に足を踏み入れるのは初めてだ。
そんなナ-バスな私の気持ちを知ってか知らずか。
私の護衛の筆頭を務める第一将軍であるオ-ネルが1通の手紙を持って現れた。

「フィリップス第一王子殿下から、お手紙を預かっております。
オタゴリア最後の夜に渡せとのご命令でしたので、僭越ながら私、オタゴリア第一軍のオ-ネルが預かっておりました」

恭しく侍女に手紙が渡され、私の手元に届く。
見慣れた兄様のやや右上がりだけど几帳面な字で アリシアへ と書かれていた。

「確かに受け取りました。ありがとう、オ-ネル」

王女モ-ドの私が微笑んで受け取るのを確かめてから、オ-ネルは敬礼して部屋から出て行った。

家族と離れて2週間。
考えたら、父様はともかくも兄様とも、母様ともこんな長時間離れて暮らしたことがなかったのだ。

王女として、国から離れるのは自分の宿命だと思って理解していたのだけどね。
兄様の字をみたら、人心ついてしまったみたいだ。

アリシアへ

今晩が最後のオタゴリアの夜なんだね。
何だか今でも信じられないよ。
あの小さかった僕の可愛い妹がお嫁に行くなんて。
明日は、カンタベル側と初の顔合わせになる事だと思う。
カンタベルの人間に、さすがオタゴリアの王女だと思われるように
指の先まで緊張感を持った行動をする事。
いつでも姿勢を伸ばせ。
背筋を伸ばし、指先まで自分の意思できちんと己が役割を果たせ。
堂々としている事。
私は、いつもそうあるように、お前と接していたはずだ。

お前につけた侍女は、護衛も兼ねている。
何かあったらすぐに頼る事。

与えられる幸せというのもあるだろう。
だが、本当の幸せというのは、自分で見つけるものだ。

もし、気分がふさいだら、空を見上げよ。
太陽が出ていたのなら、それはオタゴリアでも見える太陽だ。
月が出ていたのなら、それはオタゴリアでも見える月なのだ。

愛する妹へ フィル

兄様の愛称で最後は終わるその手紙を持って、私は泣いた。
知っていた。私は。
なぜ兄が私を自分の従者や、側近と一緒になって遊ばせたか。
同じ年頃の少女と一緒では頭一つ以上飛び出てしまう為、毎回背を丸めこませ、縮こまる私を見ていられなかったから、なのを。
猫背気味になった私に喝を入れるため。
私を俯かせないようにするため。
自信を無くして表情がなくなっていくのを防ぐため。
本当は、全て知っていた。

愛されていたことを噛み締めながら、私は泣いた。

明日からは、泣けない。
気を抜くことは許されない。
オタゴリアの王女として。

今夜だけは、兄様、許して。
泣きながら手紙を抱きしめる私に、侍女が何も言わずに背中を撫でてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

怠惰令嬢の玉の輿計画 昼寝してたら侯爵様と面倒なことになりました

糸掛 理真
恋愛
頑張りたくない 働きたくない とにかく楽して暮らしたい そうだ、玉の輿に乗ろう

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

処理中です...