ダンジョンテスターコボルさん

切なさみだれ打ち

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ダンジョンテスターコボルさん

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 とある荘厳な城の中、宝箱へまっすぐ進む道と、迂回できそうな脇道があった。
 そこに注意書きといわんばかりに床にメッセージがひとつ書き込まれていた。

「急がば回れ。」

 こうある。

 普通の冒険者なら「迂回すればいいんだな。」そう判断することだろう。

 正しい、きっと無事に進めるだろう。

 いや、意地悪なダンジョンの設計者ならば、特に意味もない、もしくは隠し通路がある。そんな設計をしている可能性もある。

 だが、俺は迷うことなくまっすぐ進んだ。
 そして、見事に落とし穴の中に吸い込まれていった。

「あいたたた……全落とし穴の動作チェック完了」

 天井に開いた大穴と自身の痛みを確認して、身体を打ちつけた鈍痛がおさまるのを待ってから、地図にチェックをつける。

 今やっているのはダンジョンのテスター、あえてダンジョンの罠に突っ込み動作を確認するお仕事だ。
 
 危険、汚い、臭い、きつい、狂気の5Kで知られる職場である。

 そんな職場に体力のないコボルトである俺がいるのは事情がある。

 俺と嫁のコボルトであるコボリ―は特に悪いこともせずに鉱山にある洞窟で暮らしていた。
 だが、ある日……

 コボリ―は宝石を確保する際に俺達魔物が邪魔なので退治してほしい。
 という強欲なニンゲンの依頼で来た勇者と出会い……
 特に悪事はしていないのに殺されてしまったのである!

 納得ができない。

 なんとかならないかと様々な道を模索したが、死者蘇生には莫大な金か、秘宝が必要だ。

 どうにもならなかった。

 そして、俺は、全ての安息を捨て、勇者への復讐を決心した。

 コボルトは器用な生物であり、友好的に接したならば生活の助けとなってくれる。

 だが俺は全てを復讐、そしてコボリーの復活のためにその身を捧げようと決心した。

 俺にできることは無いかと方々を渡り歩いた。

 どこも景気はよくない。

 ありえないほど強い存在が突然あらわれ、領地を奪われた、という話ばかりだ。
 もっともこれは悪魔のような人間も同じような目にあっているらしいのだが……

 そこにニャルラトホテプと名乗る方が来て、それならいい仕事紹介するよ。

 とダンジョンのテスターの仕事を斡旋してくださったのだ。

 この仕事はきつい代わりに滅法給料がよい。数日で普通のコボルトの月収が稼げる。

 そして何より、俺の体に何かよくわからない眷属の加護を施してくださった。

 トラップなどで死なない体力が我が体に宿るという素晴らしいものだ。

 トラップが正常に動作しているか見るために痛みは据え置きだが。

 なぜこんな厚遇をしてくれるのか、ニャルラトホテプさんにそう尋ねると。

「愛、およびそれに準じて努力するものは素晴らしいからだよ。コボル君」

 そう答えてくださった。まさしく神のようなお方だ。

 そういうわけで、俺、コボルはダンジョンテスターを頑張って続けている。

「えっと、今週の予定はもう一件あったな。次のダンジョンの地図は……とルート変更スイッチ付き自動進行床、毒床、落とし穴有、すべてのルートをチェックすべし、とな」

 毒床が作動するかチェックする。

 全部踏み抜く、これは案外楽である。
 毒で気分悪くなりながらチェックをつけて回れば済むだけなのだ。

 自動進行床はつらい、落とし穴と併設されていることがほとんどで何度も同じ場所をぐるぐると巡らなければならない。全部踏むのもパターンがわかれていて気を遣う。
 そして、一個踏むたびにマッピングである。少々気が狂いそう。

「ちなみに全何階あるんだ…?」
 ちらりと地図に目をやると
 7階、と表示されていた。

 このダンジョンは人類の廃棄物がテーマになっているらしく、ゴミで構成されていた。

 ああ、正気が失われていく。

 だがコボリ―の顔を思い浮かべて毒のダメージ、落とし穴の痛みを耐えつつ、チェックをつけていった。

 4日後。
 俺はチェックし終えたマップを見て、確かにやり遂げたという達成感に浸っていた。

 そしてニャルラトホテプさんへと報告へ戻……る前に湖で我が身を清めた。

 この臭い落ちる気がしねえな……そうとうきついハーブ使った風呂入らないと駄目かな。

 ひとまず休もう。
 俺は王都へのワープ床を作るとそれを踏み抜いた。

「まさかあの罠だらけのダンジョンを痛みに耐えてチェックしてくるとは…感動した!」 

 廃棄物のダンジョンをしっかりとチェックしてきたことをニャルラトホテプさんの事務所で告げると、ニャルラトホテプさんは椅子から立ち上がり、形容しがたい肢体をうねらせて近づいてくると俺の手を取り、そう告げる。

 事務所の中に、ゆらゆらと揺れる姿は、くねくねという東方の怪異を連想させる。決まった姿はそう明かさないそうだが、もう少しだけ優しい姿をしてほしい。

「正直、この仕事はつらいから、安定してやりとげるほどの剛の者がいない、いてもすぐに辞めてしまう。むしろ逃げるね! その場で逃げる! 運命から逃げる! それを入ってすぐの君が……感動した!」

 何か液体が溢れている。涙か……?
 感極まりすぎである。

 しかし、そこまで褒められると悪い気はしない。一般的なコボルトの俺でも役に立てることがあったんだっていう気持ちになる。

「そんな君に折り入ってお願いがある……」

 涙がやみ、ニャルラトホテプさんは先ほどまでとうって変わって深刻な空気を纏い、こちらに話しかけてくる。

「君の奥さんを殺害した勇者一行、彼らが魔族の前線基地まで来ようとしている。」

「なんですって!?」

 コボリ―を殺した奴らが来るのか?

 復讐!
 その二文字が俺の頭によぎる。

「だが敵は強い上に他の転生者たちも来るらしいよ。国家の支援もついている、我らの主力が守りを固めているが、突破される可能性もあるだろう。」

「私にもいかせてください!」

「そのつもりだ。ただしテスターとして、ね。勇者を殺すのは力だけではない。搦め手だっていうこともあるんじゃないかな?」

 確かにただのコボルトの俺には奴らを倒す力はない。ないが……

 俺は悔しさで歯噛みする。

「前線基地はあり得ないほどの罠地獄、しかしどれかが動作不良を起こすと味方の移動、敵の侵入、それぞれ合わせて不具合が出るような繊細なつくりをしているんだ。それをしっかりと確認するのも立派な力だ。」

 確かにそうだ。後方支援だって立派な一矢じゃないか。

 自分がコボリ―のために、魔族のために何をすべきか、それを改めて認識する。

「テスター、やらせてください!」
「その言葉が聞きたかった。」

 手を差し出してくるニャルラトホテプさんに、俺は確かにやり遂げますという力強い握手で返した。

 荘厳な庭園と堅牢な城塞、この二つで構成されたダンジョンはいくつもの罠が組み合わされて成り立っている。

 ワープ床で分岐する小部屋。
 これは侵入者の方向感覚を狂わせ、迷わせる。全15部屋。

 大量の落とし穴と誘惑する水の精。
 初見ではまず落ちる落とし穴、それらは戦場を狭め、そしてその地域は誘惑状態にして足取りを狂わせる水の精が大量に配置されている。

 眠り床。
 毒床の新バージョン、歩いているとだんだんと眠くなり、その場で眠ってしまう。その間に俺たちに襲われると不意打ちになるという流れだ。

 もちろんこれまでのダンジョンで出たようなトラップも動員されている。

 まず苦労したのがワープ部屋である。
 正解のルートが一通りしかなく、たいてい外れなので、全てのトラップをチェックするのにひどく時間がかかるのだ。勇者が来ると考えると時間との戦いは避けたかったが手抜きは出来なかった。

 同様に落とし穴地獄にも時間をかける事となる。
 全部で数十個あるからだ。
 落ちてから元の階層に戻るまで歩かねばならぬが、身体はひどく痛む。
 だが挫けてなどいられなかった。

 逆に天国過ぎて困ったのが眠り床である。
 じわじわと眠気が来るため、眠った個所でチェックをつけるのだがその度に起こしてもらわないといけないため非常に申し訳ない。

 たまに蹴られた。

 その他の罠もしっかりとチェックしていく。

 一週間後、手落ちはない。確認は完了した。
 いつ、攻めてきても大丈夫だ。

 そのことをダンジョンのボスに報告して、最後に勇者を仕留めてくれるであろう罠の数々、自分の仕事を確認するため、管制塔に向かった俺はけたたましく鳴り響く警報と「勇者一行接近」の通信に驚かされることとなった。

 ここなら状況がよくわかってありがたい!

 じわりじわりと侵攻してくる勇者一行、庭園の隠し通路のみの道、迷路もさほど効果はないようだ。

 だが、眠り床はそれなりに効果を発揮しているようで、動きが鈍っている。そこに攻撃を集中させると勇者の支援についている軍団はたまらずに散っていく。

 ある程度時がたつと、孤軍奮闘していた勇者チームもおされていった。

 まだ本丸のワープ床も落とし穴も通過してないのにこの具合、いける! いけるぞ!

 そして、ワープ床に辟易して、支援の陣形が崩れた時、魔の軍勢は完全に勇者たちを壊滅させた。

「いよっしゃああ!!」
 俺はたまらず勝利の雄叫びを上げてしまった。

 敵は皆、壊滅した!
 これは諸君らの……
 
 魔王がそう演説しているが、俺はコボリーを今日みたいに守れたのならば、とも考え……
 少しだけ、そう少しだけ涙した。

 悲願を果たしたから……?
 いや、俺は嬉しい時はコボリーとそれを共有していた。今はそれができないから?
 ……いや、ニャルラトホテプさんがいるじゃないか。

「勇者に一矢報いました。ニャルラトホテプさん」
「お見事!」

 非常事態から一転、普段の賑やかさを取り戻し、多様な魔物たちがせわしなく日常に戻っていく途中の王都に戻った俺はすぐに事務所に向かい、恩人にそう告げた。

 ニャルラトホテプさんはいつもの笑顔? で俺にお茶を振る舞ってくれた。

「いつも君の努力と笑顔は素晴らしい……愛に溢れているね」
「この調子でガンガン稼いで、コボリ―復活させますよ!」

 今回の仕事で大金を手に入れたが、復活には遠い。
 いつか三人でお茶会をしたいものだ。

「うんうん、頑張ろうねえ」
 ニャルラトホテプさんは銘菓ダゴンを食べながら微笑んでくださる。

「しかし、なんでニャルラトホテプさんは俺のことを気にかけてくださるんですか?」
 
 ただのコボルトである俺をなぜここまで?
 毎度疑問に思っていた。

「昔、私に挑んだ子を見てるようで……見てて楽……」

 敵に似てたのか。

「みててたの……?」

 ダゴンを差し出されてつまみながら聞く。
 これ柔らかいけどエグいな。

「……成長する姿が見たいと思ったのさ、ははは」

 ニャルラトホテプさんはたまに不思議なところがある。

 だが悪い魔物ではないだろう。

 今後も頑張ろう。

─────


(どう転んでも面白い顔が見れそうとか言えないよな。危ない危ない。推しとかいうと間違いなく引かれるし、罪と罰を抱えた青年のような……涙が見たい)
(どんな復活させ方をするかな、やはり日常から遠く、戦場のにおい染み付いてむせるほどのコボルトになってから復活させて、距離感をずらすか?)
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