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「なぁこっち向いてよ」
「やだ!」
男にしては小柄な体が横に揺れた。そのまま顔の面を隠すようにうずくまる。
「光~ちょっとでも顔見せてくれよ」
「無理ったら無理!」
しゃがみこんだ小さいダルマは断固として顔を上げるのを拒否した。そんな様子を見て通りすがりの生徒たちはクスクスと笑った。
羞恥心で顔が熱くなった。
(どうして彼は何度も俺にまとわりついてくるのか!)
身分違いの俺はそう思っても本人の前で声を荒げれなかった。
10過ぎてΩとバースを受けたその日から俺はこの身を汚くて汚くて仕方ないと思っている。
別になんら特徴のない家庭で生まれた昔の俺はごく当たり前のように人と差のない生活を送っていけると過信していた。
いじめ。差別。性的な嫌がらせ。
信じていた大人たちにまで裏切られたときは、自分はついに人間ですらなくなったと悟った。檻に入れるように一般の目には触れることのないΩ専用の学級クラスへ通い、定期的にやってくるヒートでは自己嫌悪を超えた憎悪で自らも傷つける。
汚くてなんの使い物にもならないか弱い生物。
俺はその劣等感と許せない自分の性に、人と目を合わすことが苦手になった。
「光~これじゃいつまでたってもチューできないよ」
「そんなのしない!なんでする前提なの!」
「そりゃ光が可愛いから。ねえ、こっち向いて?」
恋人のように甘い言葉を囁いた男は俺と背の高さを一緒にして、体育座りした俺をそのまま抱き抱える。少し肩まわりが他人の温度であったかくなった。
ガヤガヤと騒音がそこら中から聞こえてくるなか、少し遠くから「Ωだからって調子乗んなよ」と女の機嫌悪い声が聞こえた。
嫌な刃物でズキリと心臓を突き刺された痛みで、俺は咄嗟に抱きしめる男の肩を押す。
「人、見てるからやめて」
下を向いていた顔をそろりと少しだけあげ横目で男に小さくいうと、やっと顔が見れたと彼は空気も読まず嬉しそうに笑った。
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