上 下
12 / 30

⑫ホライゾン

しおりを挟む
次の日、
光はとあるビル街に来ている。
男がマンションの一室へと歩いている。実は文字で変装している光なのだ。
「簡単だね」
これで、ここのボスの北古寺鑑を確認ができる。確認でき次第、仕事を始めるか。
エレベーターで一室に入り込んだ。こうゆうのって気づかれてドタバタ劇になるけど、案外、馬鹿な奴らなのね。
セキュリティーも甘いし。
ここだな。
北古寺の部屋は。
開けようとしたその時。
鎖が飛んでくる。
それを交わす光。
「お前女だな」
鎖を使う女が出てきた。名前は月島結。この時の結の一声が頭の中に響いている。敵ではなく女。この言葉が光の中に引っかかっていた。
「変装してくるとは、お前、北古寺の愛人だな」
「あの人に近づく女は許さない」
怒りを通りこし憎悪と変わった。これが結の嫉妬の憎悪なのか。
鎖が他方から飛んできている。
結が鎖で光を牽制した。
手で払いのけ。
「あんたね、うちの北古寺の愛人の女は」
孤高に声を上げている結の声を遮る。
「違う」
結の言葉をただ否定する。しかし、光はこの言葉の真意には気づけずにいる。
「そうだ違う」
ボスの北古寺の声が扉越しに聞こえる。
北古寺が扉を開け出てくる。
「お前は相談屋ですよね」
北古寺はよくこの場に乗り込んできたという賞賛ではなくただの馬鹿だと感じている。しかし、一人で乗り込んでくる度胸なのか策略なのかと勘ぐってしまう。
「ご名答」
何で知っているのかを推測する時間がない。飛んでくる他方からの鎖を払いのけるので精いっぱいである。
「その人は相談屋で、特警の犬なんです」
「だから、やっちゃいな。結」
結は憎悪が抜けて鎖での攻撃が弱くなった。そこを見逃さない。光の目の鋭さである。まさに賞賛である。
「ここで、戦おうって、どんな被害が出ると分かっているのか」
この圧倒的数の利で戦おうとするのは馬鹿のやること、でも、仕事だから仕方ない。そういう危険は、はらんでいる。
「仕方ないわね」
この装置を使うことによって。数の利が無くなることを信じたい。
「魔封結解」
「これで、心おきなく戦える」
「こいつは、私のダーリンを奪う奴ね。許せない」
結の中で奪うという言葉は死を意味していた。
絶対に私のダーリンを殺させない。これが、結の意思である。
結はいっそう強くなる。愛人ではないと分かっただけでよかったが、奪うという言葉を呼び出したのは光の存在である。この結にも相談屋、嫌、特警の犬はどんな存在かは分かっている。だからこそ倒さなくてはいけないという自分自身に言い聞かせている。結にしたら守る戦いである。
「許せなくて結構」
「じゃ、あんたの憎悪を狩り取るよ」
「お前の憎悪は何色だ」
「青の嫉妬の憎悪だ。北古寺からの愛はすべて私のものだ。私一人のものだ」
二人が応戦している。
光は「鎌」と書き円で触れて鎌で戦っている。結は鎖と書き円で触れて鎖で戦っている。
交錯する鎖と鎌の激突が繰り広げられる。
その戦いの中で光は、小桜舞と同じように相手の憎悪を見ている。
この結と撃ち合いながら、気づいたことがある。それは、言葉とは裏腹に助けを求めているようだった。
なぜ、そう感じたかは分からない。昔の自分だと気が付かない領域にいる。これが、相手の立場に立つということか。
この女は愛情で動いていない。ただの嫉妬で動いている。ここのボスの北古寺に近づく女は誰だろうと許さない。それは、愛ではなく嫉妬なんではないかと感じるようになる。自分のすべてが、北古寺のものと考えている。視野が狭く自分の感情に流されやすいタイプ。
戦いの中で光は多くの結の声を聴いているような感覚で、戦いに身を投じている。
この結の憎悪は歪だ。
それが、この女と戦って分かった答えである。
二人は応戦している。
「何だよ、追い詰められてんじゃん」
真島貴志は後ろから現れる。
真島貴志は、ホライゾンの幹部であり憎悪である。憎悪の文字は「音階」だ
「助けてやろうか」
「あんたに手を出させない」
「私が北古寺に近づく女は排除する」
「私だけの彼だから」
「そうか、でもさ、お前って弱いよな」
真島は言い放った。この言葉の裏に隠されている。自分自身に対しての憎悪が蘇った。この結は自分の憎悪を変えることが出来る。嫉妬の憎悪から自分に対する憎悪に変化した。その時、鎖の攻撃の方法が変わった。色で言うと青だったのが緑に変わった瞬間だった。これが、こいつの異質だと感じる瞬間だった。
「弱い」
「弱い」
「弱い」
「誰が弱いって」
弱さに切れたのではなく北古寺の前で言われたから許せなかった。ただ、それだけだった。
攻撃のテンポが速くなった。そして、攻撃の仕方が変わった。
「ボス」
「ボス」
「ボス」
攻撃は単調になったが攻撃力は増している。これが、嫉妬の憎悪から、能力の憎悪に変わり膨れ上がった力なのかが分からないが。この力の前に光はただの防戦一方である。
これ以上は、光が後ろに下がった。これだけの歪な憎悪の攻撃が合わさると手には負えない。しかし、勝つ活路もまた見出している。
ここの場所だと勝機が違ってくる。
自分の得意な地形に引きずり込むんだ。
だからこそ、ここはいったん引く。
引くことにより勝機を見出すのだ。
「じゃね、アディオス」
逃げ去る光を追いかけようとする結に対して北古寺は追うなと命令した。
「好きなんだろ俺のこと、じゃあ、追わずに俺を守れ」
悪魔のささやきである。この瞬間に能力の憎悪から、嫉妬の憎悪に変わった。これが自分の嫉妬の憎悪の行き先だ。
「はい」
心が憎悪で埋め尽くされる一瞬だ。
「俺の命を狙う奴がいる」
この情報が北古寺の知識の中に蓄積されて今回の自分への死の恐怖を得た。しかし、それと同時に、高揚感が出てきた。これはまさに、チャンスである。
「情報屋に情報を買うさ」
この時の北古寺はまさに戦いを望む侍だ。こちらから仕掛ける気が満々である。
勝ち誇ったような態度で話している。
「俺達の勝ちだ」
真島と結は言いよどんだ。言葉ではない実行力がこのボスの北古寺をここまで、登りつめたのだ。
しおりを挟む

処理中です...