【R18】祖父の家を譲り受けたらイケオジ吸血鬼も一緒についてきました

チーズたると

文字の大きさ
2 / 22

しおりを挟む


 最初の一歩を踏み出すのに、どれだけ勇気が必要だったことだろう。
 あまりにも自分が場違いな気がした。来てはいけないところに来てしまった――という思いがした。

 だが、すでに祖父から家を譲り受けてしまっているため、今さら帰るわけにもいかない。
 梨花はおそるおそる門に近付いて、慎重に門を開けた。これから自分が住む家だというのに、まるで泥棒である。

 門は、その堂々とした在り方にふさわしい重量だった。
 ギィ……と重厚な音を響かせながら、門がひらく。

 かろうじて自分が通れるだけの隙間を作って、梨花はそこから体を横にして門を通った。大きく門を開けて入るだけの度胸はなかった。

 そして、可能な限り音をたてずに門を閉める。この光景を誰かに見られでもしたら、確実に不法侵入を疑われるのに違いなかった。

 門を抜けた梨花は、門から玄関までの距離が遠いことにも驚く。複数人でキャッチボールでも出来そうな広さだった。

 ふと視線を逸らせば、ガレージに一台の黒い車があることに気付く。祖父のものだろう。これで買い出しなどに出かけていたのだろうか。

 しかし、梨花には免許がなかった。車をどうするのか、あとで祖父に相談しなければなるまい。このまま放置しておくには、あまりに立派な車だった。もっとも、梨花は車に詳しくないので正確なところはよくわからないのだけれども。

 歩いて玄関にまで到達した梨花は、またそこでひるんだ。
 黒い大きな玄関扉だった。

 これからここで暮らすことに、新たな不安が芽生える。
 この玄関をくぐる際、果たして自分は『自宅に帰ってきた』という安心感を得ることが出来るのだろうか。

 いっそ自分の気持ちを和ませるために、ぬいぐるみでも吊るしておこうか。そんな冗談じみたことを本気で考え始める。

 梨花は、祖父から貰った鍵を鞄から取り出した。
 鍵は、封筒に入っている。祖父が封筒に鍵を入れた状態で渡してくれたのだ。

 封筒をあけると、案の定というべきか、洋風の立派な鍵が出てくる。
 じつを言うと、鍵を目にしたのはこれが初めてだった。封筒をもらったまま、開封せずに今日まできたからである。

 梨花はため息を漏らした。こんなことなら、事前に鍵を確認しておくべきだったと後悔した。先に洋風の鍵を確認していれば、ここまで洋館に驚くこともなかっただろうし、心の準備だって出来ただろうに。

 鍵を使って、扉をひらく。がちゃり、と重々しい解錠音がした。マンション住まいだった梨花には、初めて聞く音である。

 そうして、ゆっくりと扉を開けた。なんだかホラーゲームの主人公になった気分であった。
 扉を開けると、広いホールと廊下がある。雨戸がすべて閉まっているため、室内は薄暗い。

 とりあえず明かりをつけようと壁を調べ、スイッチと思われるものを押した。
 電灯は無事についた。人工的な光が、まるでホテルのごとき通路を明るく照らす。

 そう、ホテルという感覚が強かった。ここまで立派であると、個人の家という感覚が薄れるのだ。

 まずは雨戸を開けて、自然の光を入れたいと思った。電灯はついているものの、やはり雨戸が閉まっていると薄暗い印象を受け、落ち着かない。

 おずおずと廊下を進み、通路の窓の雨戸を開けていった。
 雨戸を開けることで室内に解放感が生まれ、太陽光が家の中の印象もいくらか和らげてくれる。

 それでも、家の中を照らした明かりが洋館の立派さをますます際立たせ、梨花はいっそう自分が場違いな存在に思えた。

 視線が、上下左右にうろうろしてしまう。シンプルなマンションから装飾の多い洋館に来ると、視野の情報量が多いためにどこを見ればいいのかわからなくなった。

 掃除はどうすればいいのだろう――と、妙に生活感のあることを考える。
 いや、これから自分が住む家なので掃除の心配をすること自体はおかしなことではないのだが、なんだかしっくりと来なかった。

 洋館は三階建てだったので、廊下の窓を開けていくだけで一苦労である。
 この窓の開け閉めを、朝と晩に毎日しなければならないのか。そして、大掃除の際はこの窓をすべて拭くことになるのか。

 家中の掃除をしようとすれば、一年中つねにどこかの掃除をしていなければならないと思う。
 祖父はいったいどうしていたのだろう、と早くも途方に暮れた。

 なんとか家中の廊下の窓を開けた梨花は、次に部屋の確認をしていくことにする。
 しかし、これもまた大変そうだった。

 毎日つかう寝室や浴室、トイレの位置から覚えていきたいものだが、そもそも部屋の数の多いために最初は迷子になりそうな気がしてならない。

 なにが悲しくて、自分の家で迷子にならなくてはいけないのか。心配は増す一方である。
 それでも、ここに住むからには少しずつ覚えていかなければなにも始まらない。

 とりあえず、梨花は一階の部屋から確認していくことにした。
 一階まで降り、適当に選んだ部屋の扉に手をかける。そして、おそるおそるドアを開けた。

 部屋の中は真っ暗である。雨戸が閉まっているせいだろう。
 まずは雨戸を開けようと、部屋の奥へと進んだ。
 すると、なにかが足にぶつかった衝撃に梨花は声をあげる。

「あいたっ!」

 軽いものにぶつかった感触ではなく、重量のあるなにかに躓いたという印象を受けた。おかげで、ぶつけた足がすこぶる痛い。

 なににぶつかったのかがわからず、目を凝らして見てみるものの、いかんせん部屋が真っ暗なのでなにも見えなかった。

 故に、先に雨戸を開けることにして、今度は足元にも注意しながら梨花は慎重に窓際まで進む。
 手探りで窓を解錠し、窓と雨戸を開け放った。

 太陽の健やかな光が梨花を明るく照らしたので、梨花は反射的に目を眇める。
 そして、自分がいったいなににぶつかったのかを確認しようとして、梨花は振り返った。

「ぎゃああああ!」

 視界に入ったものに驚いて、梨花は悲鳴をあげる。
 思考回路が仕事をする間もなく、驚愕の絶叫が喉から迸った。

 床に置かれていたのは――真っ黒な棺だった。

 混乱して、室内に視線を巡らせて確認をする。
 そこにはベッドがあり、机があり、本棚があった。もしや、祖父の部屋だったのだろうか。

 祖父の寝室だったかもしれない部屋に――棺桶があるということか。
 自分が嫌な汗をかいていることが、嫌でもわかった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...