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「ラックくん、起きて。ラックくん」
眠っているラックを、メルウィンの小声が起こした。
ラックは重い瞼をこじ開けながら、師匠に返答する。
「……なんだ、師匠」
「僕ちょっと出かけてくるから、ミサちゃんのことよろしくね」
「……は?」
上体を起こし、メルウィンを軽く睨みながらラックは訊いた。
「出かけるって……どこに」
「ちょっと、近くの町まで」
「町? いったいなにをしに――」
そこまで言って、ラックは察する。
「……女遊びか?」
「ん~?」
「とぼけるな。金が手に入ったから、さっそく町に出て女遊びをするつもりなんだろう」
「なんのことやらぁ」
「おい」
睨む目付きを鋭くすれば、メルウィンは僅かな沈黙ののちに、降参したふうに肩をすくめた。
「べつにいいじゃないか。僕、女の子と遊ばないと干からびちゃうんだよぉ」
「だからって、こんなときにまで……」
「ちゃんと結界は強化していくからさ。朝には帰ってくるし」
「そういう問題じゃ――」
「じゃ、よろしくね~」
「ちょっ……」
ラックの言い分を無視して、彼は軽やかな足取りで去っていった。
すぐに追いかけようとしたものの、ミサがいることを思い出して、ラックは動きを止める。いくら結界があるとはいえ、魔法も使えない女性をひとり残していくことには抵抗感があった。
師匠の背中を眺めながら、ラックはため息を漏らす。メルウィンという男はとにかく女好きであり、町へ行くたびに女性へ声を掛けたり、遊んだりしているのだった。
人間性はどうしようもなくクズなのだが、無駄に容姿が整っており、さらに魔術師という肩書きもあって、女性からの人気は高い。
ラックも最初の頃こそ、そんな性格を直してほしくて何度も何度も注意をしていたのだが、効果などあるはずもなく、じきに諦めてしまった。
つまり、メルウィンがクズなのは今に始まったことではないのである。
ラックはベッドに横たわり、眠っているミサを横目で見やった。
「……こことは別の世界……か」
そんなこと、考えたことすらなかった。魔法が存在しない世界が、この世にあるなんてことを。
いったい、どんな場所なのだろうか。もしもそんな世界に生まれていたら、ラックはどんな人間になっていたのだろう。
少なくとも、メルウィンは今と変わらないと思う。いや、魔術師でなくなるぶん、ひょっとするとクズ度は増すかもしれないが。
そんなことをゆるゆると想像しながら、ラックは両目を閉じた。
師匠が張った結界だけあって、この中では安心して眠ることが出来る。
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