転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

３１

「美しい女性を見ると、ついね。綺麗な花の前を素通りすることは難しいだろう？　あれと一緒さ」
「あらあら」

　そこで、ふたりは雑談を始める。

　ミサは呆れてため息を吐くのと同時に、ラックに同情した。常にこんな師匠と行動を共にするのは、とんでもなく大変だろう。

　メルウィンは女性にデレデレとしており、しばらくはここを動きそうにない。
　どうしたものかと、ふと視線をずらした瞬間、ミサは側に綺麗な花が植わっている鉢植えを発見した。

　赤の鮮やかなその花は、これまでに見たことのない種類である。
　もう少し近くで見てみたくて、ミサはその鉢植えの側にまで移動した。

　元気のいい真っ赤な花は、陽光が降り注いでいるこの街によく似合っている。

「ふふ、綺麗だねぇ」

　ミサは思わず、肩にとまっている魔術で作られた小鳥にそう声を掛けた。意思があるのかどうかもわからないため、こんなことをしても無意味なのかもしれないけれど。

　そうやってミサが花を眺めていると、不意に背後から見知らぬ声に話し掛けられた。

「――お嬢さん」

　振り返れば、そこに立っていたのは五十歳前後と思われるひとりの男性である。

「……はい？」
「とつぜん声を掛けてごめんね。ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいかなぁ」
「頼みたいこと……？」

　ミサは首を傾げた。
　申し訳なさそうな表情で、男性は言う。

「ああ。じつは、荷物を運ぶのを手伝ってほしいんだ。生憎と、儂はいま片手がこの状態でね。難儀してるんだよ」

　見ると、男性は首から下げた布で右腕を吊っていた。骨折でもしているのかもしれない。

　視線をメルウィンに戻せば、彼は依然として宿の女性と話し込んでいる。しばらくは放っておいてもよさそうだった。

「私は、かまいませんけど」
「助かるよ。ありがとう」

　男性は、ひとのよさそうな面持ちで笑う。

「それで、荷物っていうのは……」
「ああ、こっちだよ」

　ゆっくりとした足取りで、彼は路地に入っていった。足も僅かに引きずっているため、こちらも負傷しているのかもしれない。たしかに、この状態では荷物を運ぶのも一苦労に違いなかった。

「あの、大丈夫ですか？」

　話しかけると、男性は優しげに微笑んで返す。

「ふふ、大丈夫だよ。ありがとう」
「ひょっとして、足も怪我されてるんじゃ……」

「おや、気付かれてしまったかい。恥ずかしいねぇ。じつは、ちょっとドジしちまったんだよ」

　言って、再び彼は笑う。
　それを不思議に感じてミサが小首を傾げれば、男性は「ああ、ごめんごめん」と謝罪して続けた。

「お嬢ちゃん、うちの嫁さんの若い頃にそっくりでね。それでまぁ、なんかなつかしくなっちまったのさ」

「嫁……。奥さん、ですか？」
「ああ。もう亡くなって、ずいぶん経つがね」