49 / 140
49
しおりを挟む「……私は、彼を守りきることが出来ませんでした。それについて、彼は私を責めてもよかったのに……それもしなかった。それどころか、我が友人は死の直前に私にある秘密を話してくれたのです」
「秘密……?」
思わず零れたミサの疑問に、彼は「ええ」と相槌を打って返した。
「……彼は、こう言いました。【俺には、誰にも打ち明けていない秘密の研究室がある。そこで……とあるミイラの謎を研究しているのだ】――と」
「ミイラの……謎……?」
それがいったいなにを示しているのか、ミサにはわからない。
ザルフィナがゆるく首を左右に振った。
「彼がなにを言っているのか、私にも最初は理解できませんでした。しかし、彼は私にその研究室を託したのです。それまで誰にも伝えていなかった研究室を、私に」
どこか寂しげに、彼は微笑する。
「……無下にすることなど、出来ませんでした。むしろ、死の間際にそんな大切な場所を託してくれた友人に対する情が、深まったくらいです」
「で、君は研究室に行ったわけだ」
「はい」
「ミイラとやらは?」
メルウィンの問いに、ザルフィナは笑みを深めた。
「……ありましたとも。ああ……あの研究室に初めて足を踏み入れたときの、私の驚きといったら」
過去を夢想するふうに、彼はどこか虚ろな眼差しを宙にやる。
「いったいどれだけの長い期間、彼はあのミイラを調べていたのでしょうね……。部屋を埋めつくす書類の山……関連書籍のあふれた本棚……。そして――その部屋の中央に、まるで御神体のように置かれていた一体のミイラ……」
想像して、ミサはぞっと肌が粟立った。それは、言葉にし難いほど異様な光景に思える。
だが、ザルフィナは恍惚とした面差しになって語り続けた。
「驚くべきは、そのミイラから魔力を感じたことでした。つまりそのミイラは、ミイラになってもなお魔力を発し続けるほどの、魔術の素質を持った肉体であったということです」
「……魔術師のミイラだったのかい?」
「私も最初はそう思いました。けれど、彼が残した大量の記録を読むにつれ、そうではないことを知ったのです」
ザルフィナは片手で顔を覆ってしばらく俯いたあと、僅かに顔を上げる。
指の隙間から覗くその瞳が妙にギラギラとしていて、ミサは本能的な恐怖が煽られた気分がした。
彼は静かな口調で継ぐ。
「メルウィンさん、あれはね……普通の人間のミイラだったんですよ。それも、彼の友人の……異世界から来たと思われる普通の人間の――ミイラだったんです」
嫌悪感に、ミサのうなじが粟立った。
ということは、その研究者は自分の友人の遺体を長年にわたり調べていたということになる。
0
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる