転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

チーズたると

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「……私は、彼を守りきることが出来ませんでした。それについて、彼は私を責めてもよかったのに……それもしなかった。それどころか、我が友人は死の直前に私にある秘密を話してくれたのです」
「秘密……?」

 思わず零れたミサの疑問に、彼は「ええ」と相槌を打って返した。

「……彼は、こう言いました。【俺には、誰にも打ち明けていない秘密の研究室がある。そこで……とあるミイラの謎を研究しているのだ】――と」
「ミイラの……謎……?」

 それがいったいなにを示しているのか、ミサにはわからない。
 ザルフィナがゆるく首を左右に振った。

「彼がなにを言っているのか、私にも最初は理解できませんでした。しかし、彼は私にその研究室を託したのです。それまで誰にも伝えていなかった研究室を、私に」

 どこか寂しげに、彼は微笑する。

「……無下にすることなど、出来ませんでした。むしろ、死の間際にそんな大切な場所を託してくれた友人に対する情が、深まったくらいです」

「で、君は研究室に行ったわけだ」
「はい」
「ミイラとやらは?」

 メルウィンの問いに、ザルフィナは笑みを深めた。

「……ありましたとも。ああ……あの研究室に初めて足を踏み入れたときの、私の驚きといったら」

 過去を夢想するふうに、彼はどこか虚ろな眼差しを宙にやる。

「いったいどれだけの長い期間、彼はあのミイラを調べていたのでしょうね……。部屋を埋めつくす書類の山……関連書籍のあふれた本棚……。そして――その部屋の中央に、まるで御神体のように置かれていた一体のミイラ……」

 想像して、ミサはぞっと肌が粟立った。それは、言葉にし難いほど異様な光景に思える。
 だが、ザルフィナは恍惚とした面差しになって語り続けた。

「驚くべきは、そのミイラから魔力を感じたことでした。つまりそのミイラは、ミイラになってもなお魔力を発し続けるほどの、魔術の素質を持った肉体であったということです」

「……魔術師のミイラだったのかい?」
「私も最初はそう思いました。けれど、彼が残した大量の記録を読むにつれ、そうではないことを知ったのです」

 ザルフィナは片手で顔を覆ってしばらく俯いたあと、僅かに顔を上げる。

 指の隙間から覗くその瞳が妙にギラギラとしていて、ミサは本能的な恐怖が煽られた気分がした。

 彼は静かな口調で継ぐ。

「メルウィンさん、あれはね……普通の人間のミイラだったんですよ。それも、彼の友人の……異世界から来たと思われる普通の人間の――ミイラだったんです」

 嫌悪感に、ミサのうなじが粟立った。

 ということは、その研究者は自分の友人の遺体を長年にわたり調べていたということになる。


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