転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

７８

　この世界での魔術師は、それほどまでに選ばれた存在なのだろう。
　しかし、メルウィンからはそういった感情はいっさい感じられなかった。

　むしろ、人間の営みに対する愛情さえ窺える。偽善や綺麗事を述べているふうにも見えなかった。
　妙なひとである。

　いい加減なところはあるし、女好きでもあるし、常に緊張感に欠けている性質すらあるのに、何故か嫌いになれなかった。

　いや、なんだかんだでラックを助けにいこうとする仲間想いな一面があるのもわかっているが。

　それらの性格を考えると、女性に好かれるというのも、案外わからなくもないかもしれない。
　ミサはしみじみとメルウィンに言った。

「……意外と普通の思考回路も持ってるんですね。びっくりしました」
「いやぁ、照れちゃうな～」
「褒めてはいませんけど」
「あれ～？」

　頭を掻いて嬉しそうにしていた彼が、困ったふうな笑顔になって首を傾げる。
　カップのお茶を飲みながら、ミサは尋ねた。

「……メルさんは、どう思ってるんですか？」
「なにを？」
「その……ザルフィナさんの言っていたこと。私はこの世界の人間じゃありませんから、どうしても……反発しちゃうんですけど」

　ザルフィナの言葉を思い出しながら言う。
　顎に指を添えながら、メルウィンは小さく唸った。

「まぁ、ああいう考え方になる魔術師がいても、おかしくはないと思うね。それくらい、この世界での魔術師に対する風当たりは、なかなかに強い。けどね、魔術師には絶対に忘れてはならないことがある」

　ミサは目で先を促す。
　真摯な眼差しでメルウィンは継いだ。

「たしかに、魔術師になるには生まれ持った素質が必要だ。そのため、自分は選ばれた存在なんだと誤解してしまう魔術師が一定数いるのも事実。けど、素質があるかどうかなんて運の良し悪しの問題でしかないし、素質があっても努力をしなければ上位の魔術師にはなれない。

　そして上位の魔術師になったからこそ、常に胸に刻まなければならないのは――魔術師は、決して神様なんかじゃないってことだ」

「……神様……」

「この世界に革命を、という気持ちはわかる。実際、ザルフィナくんは魔術師として努力を積み重ねてきたから、それを実現させられる実力もある。彼の友人が亡くなったのは確かにこの世界の在り方のせいなんだろうし、そこに関しては改善していったほうが絶対にいいだろう。

　けど、他の世界まで巻き込むのは、さすがにやり過ぎだ。この世界にはこの世界の秩序があるし、ミサちゃんの世界にも秩序がある。秩序があり、人々の営みがある。それを、個人の都合で壊していいとは思わない。

　この世界の問題は、あくまでもこの世界で解決するべきなんだよ。……解決するかどうかは、別にしてね」