転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

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「あ、あ、あのっ！　いつまでこの状態で……」
「もうちょっと走らなきゃだから、悪いんだけど我慢しててねぇ」

　道の凹凸はさらに激しくなり、メルウィンがジャンプをする回数も明らかに増えた。そして彼が跳ぶたびに、ミサは上下にガクンガクンと揺さぶられることになる。

　まるで、劣悪なアトラクションに翻弄されているようだった。
　気分は悪くなる上に恐怖心も煽られ、さらには舌も噛みそうになる。ついでに言うと、肩に担がれているため乗り心地も最悪だった。

　もはや、不満をくちにする気力もなくなっていく。

「あれ、ミサちゃん元気ないね。大丈夫かい？」
「……これで元気だったら、私は超人です……」
「まぁ、たしかに薄暗いし、空気もよくないからねぇ」

　そこではない。
　しかし、反論する元気もなかった。

「お、目的地が見えてきた。ミサちゃん、もうちょっとだよ。頑張れ頑張れ～」
「メルさんが丁寧に走ってくれたら、もうちょっと頑張れたんですけど――おうふっ！」

　不意に、彼が足を深く踏み込んで高くジャンプした。その衝撃により、ミサのくちからは我ながら女とは思えない声が出る。

　地底は、どこもかしこも天井が視認できないほど高い。
　その天井に向かって、メルウィンは壁を蹴って跳躍しながら上昇しているのだった。……瀕死のミサを担いだまま。

「ここを昇っていけば、ザルフィナくんのアジトにたどり着くはずだ。いや～、やっぱり地底を走ると早いねぇ」
「…………」

「ミサちゃん大丈夫？　生きてる？」
「……かろうじて……」
「そいつはよかった。ここに初めてラックくんを連れてきたときなんか、もう泣くわ喚くわですごかったんだよぉ」

「……喚く元気があったってことですか……。……さすがです……」
「ぜ～んぜん。もう、うるさいったらなかったねぇ」

　世界屈指の魔術師なだけあって、やはり感覚がズレている部分は間違いなくあるらしかった。

　気を失いそうになりながらも首をひねって上を見れば、小さな明かりが確認できる。おそらく、あれが出口なのだ。

　地底にいた時間は決して長くはないはずなのに、不思議とミサは救われた気持ちになる。

「あそこを抜けたら、ザルフィナくんのアジトはすぐそこだ。心の準備はいいかな？」
「ここを出られるなら、もうなんでもいいです……」
「おやおや、ずいぶん余裕だねぇ。頼もしいよ」

　これのどこが余裕に聞こえるのか、ミサに元気が残っていれば問いただしているところであった。

　じきに、出口の光がふたりを包み込む。
　地底が暗いからか、光は目に染みるようだった。