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「あんな師匠のもとについているよりかは、有意義な時間を過ごせると思いますが」
ザルフィナはラックの顔を覗き込んでくる。
その柔和な微笑みは、とても世界の秩序を変えようとしている男のものには見えない。
――いや、案外こういう者が、世界を変えてしまうのかもしれなかった。
ラックは首を横に振る。
「……有難いお誘いだが、丁重に断ろう」
「おや。それは何故?」
問われ、これまでのメルウィンとの旅をラックは思い出した。
それは苦労の連続で「こいつの弟子になったのは間違いだったのではないか」と考えたことも、数えきれないほどある。
しかし――。
「……あんな馬鹿師匠だが、いちおう愛着のようなものはあってな。どうしようもないロクデナシで、クズで、女にだらしがない上に金の管理すらまともに出来ん男だが……それでも」
小さく笑って、ラックは続けた。
「……どうしてなんだろうな……嫌いになれないのは」
そう、メルウィンのせいで積み重ねた余剰な苦労は、百や二百ではない。くだらない口論をすることだって、頻繁にある。
にもかかわらず、何故か嫌いになることが出来なかった。
彼をロクデナシだと思っていることも事実だが、世界で最も優れた魔術師であると考えていることも、また事実なのだ。
そんな己の心理が、自分でも理解しきれない瞬間は確かにあるけれど。
ラックの話を聞いたザルフィナが、つと目を細めた。
「……情に流されるなど、魔術師らしくありませんよ」
「魔術師らしくない、か。まさかあんたのクチからそんな言葉が出てくるとはな」
「……どういう意味です」
「どういう意味もこういう意味もない。情に流されているのはあんただって同じだ、と言っている」
不快げにザルフィナが眉根を寄せる。
ラックは重ねて述べた。
「あんた、この世界の在り方を変えたいんだろう。そういう考えを持つようになったきっかけは、人間の友人の死ではないのか」
ただでさえ鋭くなったザルフィナの眼光が、いっそう鋭利になったのがわかる。
それでも、ラックは語ることをやめない。
「つまり、あんただって情に流されているんだ。おまけに、友人の死をきっかけに大それたことをやろうとしている。
興味深い話だな。世界でも指折りの魔術師が【友人の死】というありふれた出来事に心を揺さぶられて、世界を変えようと――」
言葉の途中で、ザルフィナの右手がラックの首を乱暴に絞めた。
そのせいで、ラックは続きを発することが出来なくなる。
低い声音と冷ややかな眼差しで、ザルフィナは呟いた。
「……知ったふうなことを……」
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