97 / 140
97
ザルフィナは、唇だけで微笑した。
「……さようなら。大嫌いなメルウィンさんの、一番弟子くん」
ラックの視野が暗くなり、いよいよ意識が途切れると自覚した、その刹那である。
部屋の巨大な窓ガラスが、外側から勢いよく打ち破られた。
けたたましい音と共に、ガラスの破片がきらめきながら室内に散る。
部屋に響いたのは、じつに緊張感のない声であった。
「ラックくん、助けにきたぞーぅ!」
「無事ですか、ラックさん!」
そこにいたのは、翼を広げてミサを抱きかかえているメルウィンである。どうやら、彼が窓ガラスを外から破壊したらしい。
窓が壊されたことによって風が室内に侵入し、ザルフィナの長い銀髪を大きく揺らした。
緩慢な動作で、ザルフィナは乱入してきたふたりに振り返る。
と、メルウィンがザルフィナとラックを指さして声を荒げた。
「あっ、ザルフィナくんがラックくんの首を絞めてる! こら、人質に手を出すのはやめなさい!」
「やめてください!」
緊張感の欠片もない台詞である。
しかし、ふたりの登場によって、先程までは危うい雰囲気だったザルフィナの様子がいつもの調子に戻っているのがわかった。
それに安堵している己を、ラックは妙に感じる。
ザルフィナは呆れた表情でメルウィンを見た。
「ひとの家に窓から入ってくるなんて、ずいぶんとお行儀が悪いですね」
「おや、まさか僕がきちんと玄関から呼び鈴を鳴らして入ってくるいい子ちゃんだとでも思っていたのかい?」
「まさか。あなたにそんな真似をされた日には、詐欺を疑いますよ」
「いや、そこまで言わなくても」
眉尻をさげるメルウィンに、ミサが追い打ちをかける。
「日頃のおこないが悪いせいですよ」
「いくら僕でも、ひとんちにはちゃんと入るよ~。今回が例外だっただけで」
返すと、彼は杖の石突きで床を突いて、キンッと音を鳴らした。
「さぁ、ラックくんを返してもらうぞ! その子には、まだまだ僕のお世話をしてもらわないといけないんだから。あと、そろそろラックくんの首を絞めるのをやめてあげてほしいね!」
その言葉に素直に従ったわけではないだろうが、ザルフィナはゆっくりとラックの首から手を離す。
急速に喉に流れ込んできた空気で噎せたラックを横目で見てから、ザルフィナはメルウィンに向き直った。
「返す? 順番が逆でしょう。まずは、ミサさんをこちらに渡してください。話はそれからです」
「いーや、ミサちゃんは渡せない。だって、本人がそっちに行きたくないって言うんだもん。ね、ミサちゃん」
「はい。ザルフィナさんのもとへ行くわけにはいきません」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
勇者の付属品(おまけ)〜Hero's accessories〜爆速成長で神々の領域へ 〜創造神の孫は破壊神と三日三晩戦って親友になった〜
優陽 yûhi
ファンタジー
16歳にして日本最高峰の剣道の大会の優勝者である高校1年の颯斗(りくと)は、
3年生の生徒会長,副会長の佐伯と近藤の勇者召喚に巻き込まれて、
異世界に転移する。
何故か2人とは少しずれた場所と時間に転移した颯斗は、
魔物や魔族との戦いの中で、
人の限界を遥かに越える力を驚く程の速さで付けていく。
自分は勇者の付属品だと言う颯斗だが、
何故これ程までの能力を持っているのか?
勇者のもとに向かう冒険の中で謎が解けていく。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)