転移先で出会ったアラフォー魔術師が時々かっこよく見えるのが悔しい

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　そこで、すぐ傍で泣いている女の子の存在に気が付いた。ミサがトラックから庇った少女である。どこか痛むところでもあるのだろうか。

「……あの子は……？」

　すべてを言わずともミサの質問の意図を察したのか、遥が答えた。

「ああ、怪我はないみたい。病院で診てもらわないと、正確なところはわからないけど。いきなりのことだったから、びっくりして泣いちゃってるんじゃないかな」

　女の子の近くには、彼女をあやしている大人が数人いる。
　ひとまず、泣けるだけの元気がある事実は喜んでもいいのだろう。
　遥が少女からミサに視線を戻した。

「って、ひとの心配してる場合じゃないよ。姉さんこそ、痛むところはないの？　見たところ血は出てないみたいだけど……。……トラックに撥ねられた――んだよね？」

　彼は、不安と疑惑が混ざったふうな眼差しを向けてくる。

　正直なところは、ミサにもわからなかった。トラックとぶつかった覚えはないし、今だって気付けばここにいたのだから。

「わからないけど……体はべつに痛くない……」
「跳ねられてない……ってこと？　あのタイミングでトラックの前に飛び出して、そんなことあるかな……」

　首を傾げながら、後半はひとりごとのように遥は言った。

　すると、遠くから救急車のサイレンの音が響いてくる。それは、徐々に近付いてきている様子だった。

「ああ、誰かが救急車を呼んでくれたんだね。姉さん、とりあえず病院で診てもらおう。母さんには僕から連絡しておくから」
「大袈裟な……」

「大袈裟なわけないだろう。危うく僕の前で血みどろになって僕にトラウマを与えるところだったんだから、おとなしくしててほしいな」
「わ、わかった……」

　そういうふうに言われてしまうと、ミサには反論することが出来ない。
　そして、ミサは救急車でそのまま病院へと運ばれることになったのだった。

　――結局、異常はなかったのだけれど。
　ミサの容態よりも、両親の取り乱し方のほうが余程心配だった。

　病院に駆けつけてきた母は狂ったように泣き、同じく駆けつけてきた父も一緒になってパニックに陥り、こちらのほうが入院が必要なのではないかと思ったほどである。

　ちなみに、ミサが庇った女の子も無事だった。

　自身の状況がまだわかっていないのであろう少女本人に反して、女の子の両親からは何度も何度も頭を下げられて、ミサが申し訳なくなるくらいであった。

　そうやって、あわただしく一日があっという間に過ぎていった。

　あまりにもあわただしかったために現実味が薄く、異世界から帰ってきた身としては妙な心地であった。もとの世界でのほうが現実味を感じないなんて、変な話である。