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しおりを挟むしかし、ローランドは「いや」と言って、彩香の発言を否定する。
「実際におじさんを召喚できたことからも、魔力がまったくないってわけじゃあないはずだ。そんな人間には、そもそも悪魔の召喚なんて出来ないはずだからな」
「自覚できてないだけ……ってことですか?」
たぶんね、と彼は頷いた。
「もっとも、魔力があるって言っても微々たるもんだが。あくまでも【素質がある】って程度に過ぎねぇ。磨かねぇ素質なんざ、原石と一緒だよ。……悪いが、ちっと手を出してみてくれ」
言われて、彩香はおずおずと手を出してみる。
「こう……ですか?」
「そう。んで、掌にエネルギーを集中させるイメージを持つんだ。普通の魔術師なら、そうするだけで手に魔力を集めることが出来るんだが……」
彩香は自身の手に意識を集中させた。が、根本的な問題として「魔力を集めるイメージ」というものがまるでわからない。
なにをどう想像すればいいのか。意識を集中させてはみるものの、彩香は途方に暮れた。
そうして暫しの沈黙の末、正直な感想をローランドに述べる。
「……とくに変化は感じられませんね」
「あー、やっぱ素人には難しいわなー」
眉尻をさげて笑った彼は、後頭部を掻きつつ思案する面持ちを見せた。
「……俺も誰かに魔術を教えるようなタイプじゃねぇし……。んー……まいったね……」
「あの……あなたの魔力を補えなかったら……どうなるんですか?」
「俺の魔力が回復するまで、しばらく世話になることになる」
あっさりと、とんでもない答えが返される。彩香は最初、聞き間違いか冗談かと思った。
けれども、ローランドの態度はいたって平静である。眉根を寄せた彩香は、つい「は?」と声を零した。
だから――と、彼は相変わらず平静な様子でくちをひらく。
「おじさんが自力で魔界に帰れるようになるまで、一緒に暮らすことになる」
彩香は無言で相手の言葉を脳内で反芻し、それから眉間を押さえた。考えるべき事柄はたくさんあるはずだったが、どうにも頭が追いつかず、うまく思考をまわせない。
思索を諦めた彩香は顔を上げ、率直な反論を相手にぶつける。
「……いやいや、普通に困ります。会ったばっかりのひとと、いきなり一緒に住むなんて」
「んなこと言われたって、そうしねぇと帰れねーんだから、しょうがねぇだろう。俺だって、帰れるもんならすぐに帰りてぇさ」
もっともである。事故で魔術の素人女に呼び出されたと思ったら、早々に「帰れ」と言われたのだ。どう考えても彼は被害者だった。
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