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しおりを挟むそんなわけでギャレオスは他に望ましい女性を選び、その対象に接近して、さらにはマーガレットを城から追い出したのだが――。
焦れる思いで、ギャレオスは再び時間を確認する。
「……遅い……」
待ち合わせの相手が、いっこうに現れる気配がなかった。
その者には重要な仕事をまかせているため、ギャレオスの不安は募っていく。
「やはり、あんな小物に仕事をまかせるべきではなかったか……」
仕事を頼んだ魔法使いには、とある花の蜜を用意するよう伝えてあった。
その花にはいわゆる惚れ薬の効果があり、ギャレオスが現在ターゲットとしている女性に定期的に使用しているものである。
近いうちに、その女を新たな婚約者にするつもりであった。
城には「マーガレットが浮気をしていた」という噂を流したため、現在城の者は皆ギャレオスに同情的である。
そんなギャレオスの心の傷を癒してくれた女性だと紹介すれば、周囲の賛同も得やすいだろう。
父の薦めでマーガレットと婚約し、そのマーガレットが浮気をしていたとなれば、いくら国王といえどもギャレオスに対して多少の負い目があるはずだった。
そこを利用して新たな婚約者と結婚し、そうして彼女には惚れ薬を与え続けて、ギャレオスにとって都合のいい傀儡とする。
以上がギャレオスの企てであるため、花の蜜は絶対に必要なのであった。
苛立ちにから小刻みにテーブルを指先で叩きながら、ギャレオスはもう何度目になるかわからない時刻を確認する動作をする。
この際、依頼した男は切り捨てて別の魔法使いに――今度は確実に仕事をこなしてくれる強い魔法使いに頼み直すべきか。
そんなことを考えていると、薄暗い空間の奥から、聞き覚えのある声が響いてきた。
「――あいつなら、来ないわよ」
ぎくりとして、ギャレオスは声のしたほうへ顔を向ける。
かつ、かつと靴音と共に薄闇から現れたのは、城から追い出したはずのマーガレットであった。彼女は相変わらずの強気な笑みを、唇にうかべている。
感情を押し隠して、ギャレオスも笑みを返した。
「おやおや、元婚約者のマーガレット嬢じゃないか。奇遇だね」
「そうね。こんな胡散臭い会員制のバーで会うなんて、本当に奇遇だわ」
「こら、胡散臭いなどと言うものではないよ。言葉遣いは相変わらずだな」
「胡散臭いじゃない、こんな犯罪者がひしめくバー……。ああ、ごめんなさい。たしかここ、あなたが管理してる地区のお店だったわね」
その指摘に、ギャレオスは一瞬だけ言葉につまった。
が、なんでもないことのように、すぐさま平静を繕って返答する。
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