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105 魔王・カイトシェイド
しおりを挟む……コンコンコン。
俺とボーギルの会話が途切れた瞬間、主寝室の扉がノックされた。
「失礼します、旦那様……冒険者ギルドのカシコ様がお見えです」
「おう、どうぞー」
緊急事態で一度集めた人材だが、ぶっちゃけ発狂するボス猿を生暖かい瞳で見守る……以外出来る事が無いので、ローテーションでサタナスの映像をチェックをしつつ、普段の生活に戻ってもらってある。
「ボーギル、そろそろ交代の時間よ」
「おう、わかった」
一応、俺本体はちゃんとサタナスの動向を見守ってるよ? うん。
「ねぇ、カイトシェイドさん」
カシコちゃんが少し困った笑みを浮かべながらおずおず、と進言する。
「この魔王、そろそろ追い出せないかしら?」
「ん~……できなくはないと思うけど、別に急ぐ必要性も無いだろ?」
あそこで発狂していただいてる分には、他に被害も無いし、ダンジョン・ポイント美味しいですし?
「でも、やっぱり、こんな近くに魔王が居ると、ルシちゃんは怖いみたいで……ちょっと体調崩しがちなのよね」
つーか、あれだけ知能が虫以下な魔王(笑)を目の当たりにしてなお、恐怖心を保ち続けられるってある意味スゴイな。
ルシーファのヤツ……どんな酷い殺され方したんだ?
「本人は『平気です』って言い張ってるんだけど……見てて気の毒で……」
そうか……
あの中央神殿を思い起こすと、天使って育てば立派な客寄せになる種族みたいだし……
幼生体の内はかなり、か弱いみたいだし……
ちょっとは気を配ってやるか。
「ん、じゃ、あと数日で流石のサタナスも魔力切れを起こすと思うから、それ以降でも良いか?」
「ええ、構わないわ」
結局、サタナスが魔力切れを起こし始めるようになったのは、それからさらに10日後の事だった。
ぜー、はー、と肩で息をする魔王サタナスの後ろに俺はダンジョン内瞬間移動をすると、あえて魔王城で働いていた時と同じ敬語でヤツに声をかけた。
「……久しぶりですね、魔王様」
「ハッ! ようやく余の前に姿を現したか……雑用係のクズがッ!!」
コイツの認識は、そこからアップデートしないの?
俺は抑えていた魔力を全力で展開する。
「……なッ!?」
ここにきて、ようやく顔色を変える魔王サタナス。
どうやら、自分が魔力を使いすぎ、そして俺が「自分のダンジョン」を持つことで、どれだけ強化されているのか……やっと認識ができたようだ。
「こちらを未だにクズ呼ばわりしているようですけど……たったお一人で……他の四天王はどうされたんですか?」
「ふんっ!! 余の役にたたないクズなど、余の手で処分してやったわ!!」
ルシーファが殺されたってのは本人から聞いていたけど、マドラとシシオウも死んだのか……
確か魔王サタナスのスキルは『ソウル・イーター』だ。
どおりで……謎解き扉さんとの戦闘中……戦闘? ……独り相撲中に、ドラゴンブレスを吐いたり、爪を獣化させたりした訳だ。
ということは、一番最初の超遠距離攻撃魔法はルシーファのスキルを吸収したのか。
「後は貴様だけだ、カイトシェイドッ!! 余に楯突いた愚かさを悔いるが良い! そしてたっぷりと拷問した後で八つ裂きにしてくれよう!!」
パリィンッ……!
「何ッ!?」
魔王サタナスのヤツが、俺に何かを仕掛け……しかし、それが不発に終わったことで勝手に驚愕している。
ふむ? どうやら、サタナスのヤツ、俺に対して何らかの『空間支配系』の能力を使って来たな?
魔王サタナスの影から伸びた黒い触手のようなモノが、乾いた音を立てて砕けて消えた。
己のスキルが弾かれたのを目の当たりにして、明かに狼狽する魔王サタナス。
『ダンジョン・クリエイト』は空間支配系の中でもかなりの高位スキルだ。
しかも、ここは俺のダンジョンの中。
そんなところで、ダンジョンのヌシである俺に、ほかの空間支配の能力が発動する訳が無い。
「魔王様……いや、スキル喰いのサタナス。お前、まだ理解できないのか? 俺とお前の実力差を?」
「き、貴様ァァァッ!!!」
俺は、世界樹の杖を振りかぶると、その杖に己の魔力を流す。
……本気で攻撃呪文を使うのはいつ以来だろう?
「【空間支配・壱式】!」
キュイィーーーッ ボッ!!
「グギャアアアアッッ!! フゲゴッ!?」
極限まで圧縮された魔力が魔王サタナスの顔面で弾ける。
ヘタに自分のダンジョンを壊しても嫌だから、その衝撃範囲はかなり控えめだ。
だが、魔力を使いすぎて疲労しているヤツを倒すにはこの程度で十分だろう。
ボキンッ!! ドシャッ!
「ん……??」
折れた左の角を置き去りに、魔王サタナスの姿が掻き消えた。
死亡ボーナスが入らなかったということは、サタナスのヤツ、マドラと一緒で魔王城のバックヤードへ転送される魔道具でも持っていたのか?
それにしては、何らかの加護っぽい印象だったんだけど……?
ま、いいや。
俺は、へし折れた魔王の角を拾い上げた。
有角種にとって、ツノとは力の象徴。
コイツを折られたとなると、そう簡単に再戦を仕掛けては来ないだろう。
俺がにんまり、と笑みを浮かべた瞬間……突如、聞きなれない声が脳内に響き渡った。
【妖魔・カイトシェイドは『格上喰い』を果たしました!!】
【下克上により、その存在のステージが上がりました!】
【進化を実行します!!】
んんん!?
ちょ、待って!? 俺、自分自身の進化って初めてなんだけど!?
ぽん、ぽん、ぽん、と何故か自分の周りで魔力が小さな花火のようにはじけて光っている。
【妖魔・カイトシェイドは魔王種にクラスチェンジします!!】
「ふぁッ!?」
思わず変な声が出た。
俺、カイトシェイドは……本日をもって、魔王となるようです。
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