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107 魔王の正妻候補
しおりを挟む「カイトシェイド様っ! 魔王就任、おめでとうございマスッ!!」
そう言って、真っ先にネーヴェリクが俺の前に跪く。
そのネーヴェリクの態度に、ベータ、ゴブローさん、オメガだけでなく、あの反抗的だったアルファまで同様に片膝をついている。
「え……? ど、どうしたんだ、急に?」
「うるせぇ! と、とりあえず、テメェが成長した事をせっかく祝ってやってるんだから、素直に喜びやがれっ!」
アルファのヤツが、即座にまた立ち上がり声を荒げているが、その耳まで真っ赤だ。
どうやら、皆が俺のクラスチェンジを喜んでくれているらしい。
……地味に嬉しい。
「ふ……ふふふ……カイトシェイドの旦那さんよぉ……」
そんな魔族の皆に対して、ゆらり、と。
まるで幽鬼のようにふらふらと俺に近づいて来るボーギル。
「へ? お、おぅ?」
がしぃっ!!
「アンタ、今、いったい何をしたか分かってんのか!!!」
俺の肩を掴んで、血走った眼で叫ぶ。
「ん? あぁ、もしかして『寵愛』枠にボーギル達を選んだことが悪かったのか? いや、単に優先的に育成ができるらしいから適当に選んだんだが……?」
「だろうなぁ!! 旦那に他意は無いのは分かってるけどなァッ!! でもなッ!? レベルアップ時の天の声から【魔王・カイトシェイドの寵愛を得ました! 魔王の正妻候補に登録されました!!】って突然、宣言された独身男の身にもなってみやがれッ!」
うわぁ……そ、それは……
ボーギルが血の涙を流す勢いで怒鳴るのも、ちょっと分かる。
「わ、悪ぃ……て、ことは、まさか……カシコも、ルシーファも?」
「ええ……全く同じ言葉が聞こえたわ。まぁ、アタシはそれでも女だから……まんざら悪い気はしないけど……でも、カイトシェイドさん、アタシ達を『正妻』に……とかそんな気はサラサラ無いでしょ?」
「ああ、安心してくれ。そんな気は全く無い」
「……でしょうね。……ボーギル、安心してください。カイトシェイドは魔王城でもサキュバスとインキュバスのどちらからも【魅了】が効かない恋愛不感症の木石以下として名を馳せてましたから……」
え? ちょっと待て、ルシーファ。俺、それ初めて聞きましたけど?
つーか、お前だって人の事をどうこう言える程、恋愛経験値なんて無いだろ!?
第一、俺の部下はちゃんと女の子なネーヴェリクなんだぞ!
お前みたいに魔王の腰巾着やってて、それ以外は常時ボッチの堕天使様とは違うんだからなッ!!
……って、何でネーヴェリクまで微笑み浮かべて「そうなんデス! デモ、それがカイトシェイド様なんデス! すごいでしょ?」って顔で頷いてるのっ!?
そして、その様子を見て、ルシーファとカシコちゃんが二人して頭を押さえている。
どうやら、正妻候補でもある『寵愛枠』を雑に決めた事が、かなり型破りだったようだ。
でも、レベルアップを捗らせるには役職付きの『寵愛』枠は結構便利……
もちろん、育ったらちゃんと『寵愛』から外すよ?
あ…… でも正妻候補って、ことは……?
俺はゆっくり振り返ると、ついさっきまで魔王サタナスを喰いとめていた謎解き扉さんが淡い光を発している。
おお! やっぱり、進化が始まっている。
「な、何だ!?」
俺の視線につられて、輝く扉を目の当たりにし、驚きの声をあげたのはアルファだけではない。
全員が見守る中、徐々に光量を上げた謎解き扉さんは、ポン! と、軽い音を立てて進化を完了させた。
そこに立っていたのは、一人の青年姿の魔族だ。
【名前:ドエムン 種族:付喪神・謎解き扉】
胸元には竜を模した紋章と魔核、赤と緑のオッドアイの瞳……なのだが、何故か、あの脳筋バカ魔王に似た外見で、尚且つ上半身裸に亀甲縛りという、どM変態に性癖を振り切ったような外見をしている。
「んんんッ!! お初にお目にかかりますぞ、あるじ殿ッ!! ワタクシめは、謎解き扉の付喪神、ドエムンと申しますぞ! 此度は、旧・魔王のサタナスを防ぎ切った功績を讃え、役付け職就任という栄誉を賜り光栄ですぞぉぉぉっ!!」
「ひきゃーーーーッ!!??」
サタナスによく似た変態さんのご登場に、悲鳴を上げるチビ天使。
「んんん!! ご安心召されよ、ルシーファ殿!! ワタクシめの能力は、防衛に特化しておりますゆえ、攻撃は一切いたしません!! 被虐の鞭こそ我がご褒美ッ! あの熱い連撃をもう一度ッ!! ワタクシめのこの身体ッ! 打って、打って! もっと激しくぅッ!!」
頬を赤らめ身体をくねらせるドエムン。
お……おぅ……な、なるほど?
あの魔王に何十日もボコられ続けた結果、M属性の性癖に目覚めちゃったのね……?
ま、まぁ、でも、ドエムンの防衛能力が確かなことだけは確実。
能力特化型はバランス型と違って使い処は限られるが、その分、適材適所がハマれば強い!
「お互いカイトシェイド様の正妻候補同士ですからな!! 共に切磋琢磨いたしましょうぞ!! はっはっはっはっは!!」
ダンジョン防衛の面からは、キョーレツなキャラクターになるだろう。
今後の成長が色んな意味で楽しみだ。
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