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お別れ
しおりを挟む夢を見るのは久しぶりだ…
ザイラは眠りに落ち、悪夢を思い出して身を強張らせる。
でもなんだか今日は違う…
モヤモヤとして、光りに満ちている場所に見覚えは無い。
悪夢を見る回数は確実に減っていた。
忘れたわけでは無いが、あの赤い館での出来事以来徐々に減ってきていた。
お陰で良い睡眠を摂れていたのだが。
見渡す限り白い。
だが不思議と恐怖は無かった。
不意に振り返ると、ザイラが居た。
少し悲しそうな、だが穏やかな、そんな顔でこちらを見ている。
あの日のまま。
下ろした髪に、可愛らしい寝着のままだ。
「聞こえる?アレシアはもう大丈夫。あの男も外には出れないよ」
夏帆が口に出しても、それは音として空間に響かない。
ただザイラは微笑んで、頷いた。
「なぜ…なぜ私はあなたの体に?あなたは何処にいるの?帰れるの?この体に帰りたい?」
夏帆が聞くと、ザイラはまた微笑んでいたが、その頬を涙が伝っている。
思わず駆け寄ると、ギリギリのところでその体には触れられない。
「…あなたは…あんな状況でも、アレシアを助けてって私に言ったよね?私を助けてでは無くて…」
あの時、なんて優しい人なんだ、と夏帆は思った。
「本当なら私が…あなたは私のせいで戻ってこれないの?ごめんね、私があなたの体に入ってしまったから」
夏帆が必死にそう伝えると、声は出ていないのに、ザイラには聞こえているようで、顔をギュッと歪ませて首を左右に振る。
時間だ…
もうお別れだ、これが最後なんだ…
なぜか分からないが、それが分かる。
辺りが一層明るくなる。
「行かないで!」
夏帆は縋るようにザイラに叫んだ。
私のせいで、ザイラは自分の体に戻れない。どうか、なんとか…と夏帆も溢れる涙を拭いもせず、ザイラに触れようと必死に手を伸ばす。
「ありがとう」
ザイラの口がそう動いた気がした。
ザイラは涙を拭い、夏帆に背を向ける。
夏帆が何かを言っても、一度もこちらを振り返らずに、柔らかな光の中へ消えて行った。
目が覚めると、涙がとめど無く溢れ、目から流れた涙が枕へと伝う。
…ザイラ・ローリーとお別れだ。
夏帆はザイラの体をキツく抱きしめる。
2人で、物語に無い場所へ行く。
共に、生きていく。
精一杯、生きていくのだ。
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