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月
しおりを挟む『ライラさんの授業が終わったら、ミリとレオ殿は姉様の元へ向かうようにと。何か話があるそうです』
バイラムは腕組みをしながら王国の品々を興味深く眺め、思い出したようにそう言った。
レオとミリアムはその後直ぐに馬車に乗り、キアラの元へ向かう。
ライラもバイラムに見送られ、帰路へ着いた。
特別、月が綺麗な夜だった。
キアラの呼び出しは大きな意味がある。
ミリアムの表情は険しく緊張していた。
だが…もし、ミリアムとレオを…
詮索は無用だ。キアラは初めて会った時から、ライラを牽制していた。レオから離れるように…と。
それはレオにも既に何度も伝えられているに違いない。
だが…キアラはトロメイ領へレオを送り出した。
手狭な部屋は、窓から射す月明かりに照らされている。
ベット脇のテーブルに、ライラは王国から持ってきた写真立てを飾っている。アレシアやフィニアス、コナーにナディア…ザイラにとってかけがえのない人達だ。
そして、少し型崩れした小さなドライフラワーのブーケも…
潰れないように、箱に入れて後生大事に持ってきてしまった。
ライラはレオの事を何も知らない。
最初に会った時は、知らない方が却って良かった。
世にも美しい瞳を持ち不思議な魅力を持って、変幻自在に姿を変える大国から来た第二皇子の側近…
そしてザイラが何かと必要とした時、その人は音もなく姿を現す。
ザイラがそうだった様に、レオとミリアムにも、産まれ落ちた家門に有意義な縁を結ばなければならない義務がある。
全ては、家とその血筋を繋ぐため…
その責務は生きていく上で享受出来る恩恵にも結び付く。
ただ、決して自由では無い。
ザイラとアイヴァンの政略結婚は、確かに本人達以外にはしっかり有益となっただろう。
元の物語をぶち壊しておいて、それでも生きたいと願った代償は払わないといけないと思っていた。
自分には、誰かの隣に居たいとか…居て欲しいとか、そんな風に思って良い気もしていなかった。
このまま知らない方がきっと良い。
欲をかくから、こうしてどこか胸が苦しくなる。
それでも知りたい…
だが、なぜか聞いてはいけないような気がしてならなかった…
レオは巧妙に、そしてあくまで自然に、核になる部分を厚く覆い隠している気がしていた。
決して気づかれないように、触れさせ無いように警戒さえしている。
ライラの指に光る歪な指輪にライラは目を落とした。
そのオパールの煌めきを見れば、どうしてもレオを連想させる。
あのブローチを手放すのなら、今だろう…
これ以上自分の気持ちに嘘はつけない。
レオの抱えている苦しみや、その全てをライラは知りたい。
それがどんなものであっても、この先どんな辛く苦しい現実を運んできても、後悔はきっとしないだろう。
不安定で不確実な関係に安寧を求めるのは愚かな事だ。もう誤魔化せないなら、疲れ果てるまで付き合うしか無い、欲と煩悩に塗れた、病にも例えられる…この感情に。
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