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叔母・ソフィア
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「それで、ソフィアはどうしたんだ?」
熱々のシチューをスプーンですくいながら、エルナの父・レオポルドがソフィアに問いかけた。
「うん、実はね……旅芸人の一座にスカウトされちゃったの。踊りのセンスが良いって!」
「えぇっ!?なんだって!?」 「本当に?すごいじゃない!」
思わず両親が手を止め、驚きの声を上げた。
「ねぇ、たびげいにんの……いちざ?ってなに?」
小さなエルナは話の内容が分からず、隣に座る母・ユリアの袖を引っ張ってたずねた。
「旅をしながら、音楽や踊り、珍しい芸を見せて人々を楽しませるお仕事の人たちのことよ」
ユリアは微笑みながら、エルナの髪を優しく撫でた。
「ええ~っ、すご~い!ソフィアお姉ちゃん、旅に出るの?」
「俺は少し心配だな……。確かに、踊りをいろんな人に見てもらうのが夢だってのは知ってるけどさ。アークエルドの町でも何度も舞台の主役を任されてるんだろ?十分すごいじゃないか」
レオポルドが眉を寄せる。
「たしかにアークエルドは、このフィルデン村よりはずっと大きい町だけど……それでも観客は顔見知りばかりなの。私はもっと、知らない土地で、初めて出会う人たちに自分の踊りを見てもらいたいの」
ソフィアは、さっきまでの遠慮がちだった様子が嘘のように、まっすぐな目で話し出した。
「踊り子って、若いうちしかできないでしょ?今がそのチャンスだと思うの。だから、挑戦してみたいの」
「レオポルド、許してあげましょうよ。私はソフィアの気持ち、分かるわ。夢を追いかけるのは、特に女の子には簡単じゃないもの。私は応援する」
ユリアが優しく背中を押すと、ソフィアは目を潤ませながら微笑んだ。
「ありがとう、お義姉さん……」
「……はぁ、分かったよ。お前の人生だ。好きにやってみな」
レオポルドは苦笑しつつ、妹の決意に肩をすくめた。
「ありがとう、兄さん。私、がんばる」
その後、夕食を終えたソフィアはエルナとたっぷり遊んだ。久しぶりに構ってくれる大人がいて、エルナも満足げだ。
「さて……言いたいことは伝えたし、そろそろ戻るね」
エルナの髪を撫でながら、ソフィアが立ち上がる。
「えーっ、もう帰っちゃうの?もっと遊ぼうよ」
「あら?今夜は泊まっていかないの?遠慮なんていらないのに」
「おいおい、こんな夜中に出るのか?せめて夜が明けてからでも――」
家族の言葉に、ソフィアは小さく首を振った。
「……実はね、もう一座に入団してるの。今はラ・ベトヌェ・ブロス遺跡の近くでキャンプしてて。明日の朝には出発なの」
ラ・ベトヌェ・ブロス遺跡。それはフィルデン村の近くにある古びた廃墟で、旅人たちが雨風をしのぐためにときどき立ち寄る場所だった。
「えっ?じゃあ……もう決めてたってことか?」
レオポルドが目を丸くする。
「うん。……ごめんね。嘘はついてないけど、隠してたのは本当」
ソフィアはバツの悪そうに笑ってみせた。
「……まぁいいさ。自分で決めた道なら、応援するよ」
「ありがとう、兄さん。こうして出発前に会えてよかった……。もうしばらく、この辺りには戻ってこないと思うから」
ソフィアの目に涙がにじんだ。レオポルドもこみ上げてくるものを堪え、天井を見上げたが、こらえきれずに一筋の涙が頬を伝った。それは別れの寂しさよりも、妹の成長を誇らしく思う涙だった。
「お姉ちゃん、遺跡に泊まってるの?あそこって、おばけ出ない?」
エルナののんびりした質問に、大人たちの空気は少し和らぐ。
「出ない出ない。エルナはほんと、怖がりさんだね」
ソフィアは鼻をすんと鳴らし、笑いながら涙を拭った。
「ほんと?じゃあ、今度一人で冒険に行ってみようかな……」
「ダメだよ、一人でなんて危ないから。行くときは、兄さんたちと一緒にね」
「はーい」
エルナが元気よく返事をする。
「じゃあ、行くね。兄さん、お義姉さん、エルナ……またね。きっと、どこかで私の踊りを見てね」
「あぁ、頑張れよ!」
レオポルドは目の奥の熱さをこらえながら、大きく手を振った。
熱々のシチューをスプーンですくいながら、エルナの父・レオポルドがソフィアに問いかけた。
「うん、実はね……旅芸人の一座にスカウトされちゃったの。踊りのセンスが良いって!」
「えぇっ!?なんだって!?」 「本当に?すごいじゃない!」
思わず両親が手を止め、驚きの声を上げた。
「ねぇ、たびげいにんの……いちざ?ってなに?」
小さなエルナは話の内容が分からず、隣に座る母・ユリアの袖を引っ張ってたずねた。
「旅をしながら、音楽や踊り、珍しい芸を見せて人々を楽しませるお仕事の人たちのことよ」
ユリアは微笑みながら、エルナの髪を優しく撫でた。
「ええ~っ、すご~い!ソフィアお姉ちゃん、旅に出るの?」
「俺は少し心配だな……。確かに、踊りをいろんな人に見てもらうのが夢だってのは知ってるけどさ。アークエルドの町でも何度も舞台の主役を任されてるんだろ?十分すごいじゃないか」
レオポルドが眉を寄せる。
「たしかにアークエルドは、このフィルデン村よりはずっと大きい町だけど……それでも観客は顔見知りばかりなの。私はもっと、知らない土地で、初めて出会う人たちに自分の踊りを見てもらいたいの」
ソフィアは、さっきまでの遠慮がちだった様子が嘘のように、まっすぐな目で話し出した。
「踊り子って、若いうちしかできないでしょ?今がそのチャンスだと思うの。だから、挑戦してみたいの」
「レオポルド、許してあげましょうよ。私はソフィアの気持ち、分かるわ。夢を追いかけるのは、特に女の子には簡単じゃないもの。私は応援する」
ユリアが優しく背中を押すと、ソフィアは目を潤ませながら微笑んだ。
「ありがとう、お義姉さん……」
「……はぁ、分かったよ。お前の人生だ。好きにやってみな」
レオポルドは苦笑しつつ、妹の決意に肩をすくめた。
「ありがとう、兄さん。私、がんばる」
その後、夕食を終えたソフィアはエルナとたっぷり遊んだ。久しぶりに構ってくれる大人がいて、エルナも満足げだ。
「さて……言いたいことは伝えたし、そろそろ戻るね」
エルナの髪を撫でながら、ソフィアが立ち上がる。
「えーっ、もう帰っちゃうの?もっと遊ぼうよ」
「あら?今夜は泊まっていかないの?遠慮なんていらないのに」
「おいおい、こんな夜中に出るのか?せめて夜が明けてからでも――」
家族の言葉に、ソフィアは小さく首を振った。
「……実はね、もう一座に入団してるの。今はラ・ベトヌェ・ブロス遺跡の近くでキャンプしてて。明日の朝には出発なの」
ラ・ベトヌェ・ブロス遺跡。それはフィルデン村の近くにある古びた廃墟で、旅人たちが雨風をしのぐためにときどき立ち寄る場所だった。
「えっ?じゃあ……もう決めてたってことか?」
レオポルドが目を丸くする。
「うん。……ごめんね。嘘はついてないけど、隠してたのは本当」
ソフィアはバツの悪そうに笑ってみせた。
「……まぁいいさ。自分で決めた道なら、応援するよ」
「ありがとう、兄さん。こうして出発前に会えてよかった……。もうしばらく、この辺りには戻ってこないと思うから」
ソフィアの目に涙がにじんだ。レオポルドもこみ上げてくるものを堪え、天井を見上げたが、こらえきれずに一筋の涙が頬を伝った。それは別れの寂しさよりも、妹の成長を誇らしく思う涙だった。
「お姉ちゃん、遺跡に泊まってるの?あそこって、おばけ出ない?」
エルナののんびりした質問に、大人たちの空気は少し和らぐ。
「出ない出ない。エルナはほんと、怖がりさんだね」
ソフィアは鼻をすんと鳴らし、笑いながら涙を拭った。
「ほんと?じゃあ、今度一人で冒険に行ってみようかな……」
「ダメだよ、一人でなんて危ないから。行くときは、兄さんたちと一緒にね」
「はーい」
エルナが元気よく返事をする。
「じゃあ、行くね。兄さん、お義姉さん、エルナ……またね。きっと、どこかで私の踊りを見てね」
「あぁ、頑張れよ!」
レオポルドは目の奥の熱さをこらえながら、大きく手を振った。
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