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05.青年騎士
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久々の戦闘。
高まる鼓動を胸に俺は討伐対象へと突っ込んでいく。
目の前では二人の騎士が戦闘中だった。
だがその片方が相手の瞬時の切り替えによって体制を崩し、絶体絶命に陥る。
(まずい、あのままじゃ!)
「くそっ、間に合え!」
ギアを二段階三段階上げて接近。なんとか敵の懐に飛び込むことができた。
「発動、≪鉄壁≫!」
謎の巨人が放つ強烈なる一撃を両腕でブロック。なんとか救出に成功する。
(よし、間に合ったな)
だがあまり目立ちたくはないし、これ以上戦闘を継続し続けると周りの被害がどんどん拡大ばかり。
だから悪いけど……
「一気に決めさせてもらうよ」
右手でつくった拳に魔力を集中。黒き巨人の攻撃を素早くかわし、まずは一発。
「ぎゅあああああああっ!」
相当効いている様子。拳だけでも十二分に戦えそうだ。
それに、
「あの時に戦った神様に比べればゴミみたいなもんだ」
力自体は生前とは変わっていないよう。
逆に身体が小さくなり身軽になったことで生前よりも行動範囲が広がった気がする。
肉体をガッチガチに鍛えていた前の身体と比べたら耐久性では劣るだろうけど俊敏性は遥かにこっちの方が上だ。
要するに、
「当たらなければどうということはないのだ」
二発、三発と巨人にくらわせ、その重い身体を地につけさせる。
(そろそろフィナーレといこうか)
もっと速く、鋭く。
俺の魔力の高まりは留まることを知らない。動けば動くほどより軽快に、そして力強い一撃を繰り出せるようになる。
これも身体が温まってきた証拠。俺は最後の一撃をくらわせるべく巨人との距離を一気に詰める。
「これで、終わりだ」
俺の細い右腕に魔力を凝縮。それにより放たれる豪快な一撃は巨人の懐を突き刺し、そのまま粉砕。
圧倒的大差で討伐に成功する。
「ふぅ……」
右腕を回し、肩を揉んで解す。
少々身体を酷使してしまったようで肩に痛みが出てくる。
まだこの身体に適応しきっていないことが原因だろう。
若返った身体で生前のような力を少しでも解放すればそりゃ負荷がかかるだろうよ。
でも良かった。身体が若返ったのもあってか判断力の鈍さなんかも解消されていた。
神殺しなどと言われていても中身は人間。当然歳を取れば動きも判断力も鈍くなる。
その点、身体の若返りはある意味プラスに働いた。
最初はすごく驚いたが……
「とりあえず今はここを離れ……」
「あの、すみません!」
「……?」
現場から離れようとした時、声を掛けてくる一人の若者がいた。
その若者は白鋼の鎧に身を包み、爽やかな表情を向ける。
恐らく先ほど助けた若輩騎士だろう。
「助けていただき、感謝いたします。なんとお礼を申せばいいか……」
頭につけた鎧を外すと顔に似合ったダークブラウンの髪が姿を現す。
文字通りのイケメンってやつだ。
「頭を上げてください騎士様。俺もたまたま通りかかっただけなんで」
子ども相手に頭を下げるイケメン騎士殿に急いで顔を上げるよう催促する。
ちなみに喋り方も敬語に変えるようにした。
中身はあれでも見た目はただの少年。
いつものように話すとどうにも違和感があったので普段とは違う話し方に変えることにしたわけ。
それに見た目だけで考えれば向こうの方が目上なわけだからタメ口をきくのは無礼に値する。
ここは謙虚に大人しく振る舞うのが最善の行動といえよう。
「それにしても先ほどの戦闘は実に素晴らしかったです。冒険者か何かやられているのですか?」
子供相手にも丁寧な口調で。
見た目の爽やかさも相まってかかなりの好青年であると伺える。
国家騎士というと皆厳格で怖い顔した連中ばかりしかいなかったからな。
特に俺の周りはそうだった。
この柔軟さも平和だからこそ、なのだろうか?
「いや、別にそういうわけじゃ……ちょっと戦闘経験があるだけで」
ひとまず返答。
あまり前へは出ずにちょっと後ずさり気味で。
するとその若騎士もすぐに、
「そ、そうなんですか? かなり手練れた動きだったのでてっきり冒険者か何かと思っていました」
「た、大したことないですよ。あはは……」
まぁよくよく考えてみれば少しやりすぎたなという感じはあった。
転生後の自分の力が如何なるほどかを試したかったというのもあって少しだけ力(りき)を入れたが、かえって目立つ羽目になった。
(まぁ大体自分の力がどの程度かは把握できたからいいんだけど……)
とりあえず、ここに長居するのは良くない。
実力のある者として目立ち始めると後々ロクなことにならないからな。もう俺はそれで一度嫌な目にあったことがある。
俺はその若騎士に頭を下げ、
「で、では俺はこの辺で……」
即刻去ろうとする。
だが、
「お、お待ちください! できればもう少し時間を頂けないでしょうか?」
「……へ?」
その若騎士は懇願するようにこちらを見てくる。
何か理由がありそうな雰囲気。
(別に断る理由もないし、いいか)
俺はそれを察するとゆっくりと首を縦に振り、彼の元へとついていくことにした。
「すみません、時間をいただいてしまって」
「いえ、お気になさらず」
街角にある洒落た雰囲気のカフェ。そこの二階にあるバルコニー席に俺たちはいた。
もう一人の騎士は彼の命令で城へと帰還してもらうことにし、今は二人きりの状態だった。
「どうぞ、お好きなものをお頼みください。私が全てお支払い致します」
「そ、それはさすがに悪いですよ! 俺はただ目の前にいた魔獣を倒しただけなのに……」
「いえ、十分すぎるくらいですよ。それに、あのまま斬られていたら民を守るどころか自分がやられていました」
暗い表情で俯く国家騎士。でもあれは仕方のないことだ。
街中であんな魔物が出るなんてイレギュラー的事件。これといった準備無しで即座の対処を試みただけでも騎士として十分な心掛けだ。
「すみません、なんか勝手に暗くなってしまって。国家騎士とあろう者が情けない姿をお見せしました」
黒い雰囲気から一変、先ほどみたいな爽やかさが瞬時に取り戻される。
切り替えの速さも騎士には重要な要素の一つだ。
それも元同業者だからこそ分かること。
「それで、お話とは一体どのようなことで?」
頼んだ一杯の紅茶を口に含み、本題へと話を切り替える。
「じ、実は……」
若騎士は口を開き始めると、数十分に及んで話は続けられた。
そして……
「……国家騎士、ですか」
「はい、貴方様を見た時は私は思ったのです。今のバンガードには貴方のような強く逞(たくま)しい力を持った騎士が必要であると」
「で、でも……」
いきなり騎士になれなんて言われても唐突すぎる。
まだこの世界のことすら知り得ていないのに。
「すぐに入団してくださいとまでは言いません。少し見て、それからでも全然!」
確かにすぐに決断は下せない。でも彼の表情は真剣そのものだった。
やはり何か重大な問題がある、そうでなかったらここまで押してくることもないだろう。
俺はそう悟った。
それに、どちらにせよこの世界で生きていくためには何らかの職が必要だ。
ましては一生ニートでいるわけにもいかない。
国家騎士とまでならば給与もそこそこいいだろう。
そういうのを加味すれば悪い話じゃない。
俺は彼の話をもう少し聞き、悩みに悩んだ末に一つの結論を出した。
「……分かりました。では見学をさせていただけませんか? 正式な話はそれからで」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
今まで見せた笑顔の中で一番輝かしい笑顔を見せる若騎士。
その歓喜に満ちた表情にこっちまでニヤついてしまう。
「あ、自己紹介が遅れて申し訳ございません。私はベール・グリモンドと申します」
「ゼナリオです。お願いします」
「よろしくお願いします、ゼナリオ殿!」
握手を交わし、互いに自己紹介を済ませる。
こうして、俺は騎士団の見学をするべく後日王城へと訪問することとなった。
だがこの出会いこそ、自身の今後の人生を左右する出来事であったことはまだ当時の俺は知る由もなかったのである。
高まる鼓動を胸に俺は討伐対象へと突っ込んでいく。
目の前では二人の騎士が戦闘中だった。
だがその片方が相手の瞬時の切り替えによって体制を崩し、絶体絶命に陥る。
(まずい、あのままじゃ!)
「くそっ、間に合え!」
ギアを二段階三段階上げて接近。なんとか敵の懐に飛び込むことができた。
「発動、≪鉄壁≫!」
謎の巨人が放つ強烈なる一撃を両腕でブロック。なんとか救出に成功する。
(よし、間に合ったな)
だがあまり目立ちたくはないし、これ以上戦闘を継続し続けると周りの被害がどんどん拡大ばかり。
だから悪いけど……
「一気に決めさせてもらうよ」
右手でつくった拳に魔力を集中。黒き巨人の攻撃を素早くかわし、まずは一発。
「ぎゅあああああああっ!」
相当効いている様子。拳だけでも十二分に戦えそうだ。
それに、
「あの時に戦った神様に比べればゴミみたいなもんだ」
力自体は生前とは変わっていないよう。
逆に身体が小さくなり身軽になったことで生前よりも行動範囲が広がった気がする。
肉体をガッチガチに鍛えていた前の身体と比べたら耐久性では劣るだろうけど俊敏性は遥かにこっちの方が上だ。
要するに、
「当たらなければどうということはないのだ」
二発、三発と巨人にくらわせ、その重い身体を地につけさせる。
(そろそろフィナーレといこうか)
もっと速く、鋭く。
俺の魔力の高まりは留まることを知らない。動けば動くほどより軽快に、そして力強い一撃を繰り出せるようになる。
これも身体が温まってきた証拠。俺は最後の一撃をくらわせるべく巨人との距離を一気に詰める。
「これで、終わりだ」
俺の細い右腕に魔力を凝縮。それにより放たれる豪快な一撃は巨人の懐を突き刺し、そのまま粉砕。
圧倒的大差で討伐に成功する。
「ふぅ……」
右腕を回し、肩を揉んで解す。
少々身体を酷使してしまったようで肩に痛みが出てくる。
まだこの身体に適応しきっていないことが原因だろう。
若返った身体で生前のような力を少しでも解放すればそりゃ負荷がかかるだろうよ。
でも良かった。身体が若返ったのもあってか判断力の鈍さなんかも解消されていた。
神殺しなどと言われていても中身は人間。当然歳を取れば動きも判断力も鈍くなる。
その点、身体の若返りはある意味プラスに働いた。
最初はすごく驚いたが……
「とりあえず今はここを離れ……」
「あの、すみません!」
「……?」
現場から離れようとした時、声を掛けてくる一人の若者がいた。
その若者は白鋼の鎧に身を包み、爽やかな表情を向ける。
恐らく先ほど助けた若輩騎士だろう。
「助けていただき、感謝いたします。なんとお礼を申せばいいか……」
頭につけた鎧を外すと顔に似合ったダークブラウンの髪が姿を現す。
文字通りのイケメンってやつだ。
「頭を上げてください騎士様。俺もたまたま通りかかっただけなんで」
子ども相手に頭を下げるイケメン騎士殿に急いで顔を上げるよう催促する。
ちなみに喋り方も敬語に変えるようにした。
中身はあれでも見た目はただの少年。
いつものように話すとどうにも違和感があったので普段とは違う話し方に変えることにしたわけ。
それに見た目だけで考えれば向こうの方が目上なわけだからタメ口をきくのは無礼に値する。
ここは謙虚に大人しく振る舞うのが最善の行動といえよう。
「それにしても先ほどの戦闘は実に素晴らしかったです。冒険者か何かやられているのですか?」
子供相手にも丁寧な口調で。
見た目の爽やかさも相まってかかなりの好青年であると伺える。
国家騎士というと皆厳格で怖い顔した連中ばかりしかいなかったからな。
特に俺の周りはそうだった。
この柔軟さも平和だからこそ、なのだろうか?
「いや、別にそういうわけじゃ……ちょっと戦闘経験があるだけで」
ひとまず返答。
あまり前へは出ずにちょっと後ずさり気味で。
するとその若騎士もすぐに、
「そ、そうなんですか? かなり手練れた動きだったのでてっきり冒険者か何かと思っていました」
「た、大したことないですよ。あはは……」
まぁよくよく考えてみれば少しやりすぎたなという感じはあった。
転生後の自分の力が如何なるほどかを試したかったというのもあって少しだけ力(りき)を入れたが、かえって目立つ羽目になった。
(まぁ大体自分の力がどの程度かは把握できたからいいんだけど……)
とりあえず、ここに長居するのは良くない。
実力のある者として目立ち始めると後々ロクなことにならないからな。もう俺はそれで一度嫌な目にあったことがある。
俺はその若騎士に頭を下げ、
「で、では俺はこの辺で……」
即刻去ろうとする。
だが、
「お、お待ちください! できればもう少し時間を頂けないでしょうか?」
「……へ?」
その若騎士は懇願するようにこちらを見てくる。
何か理由がありそうな雰囲気。
(別に断る理由もないし、いいか)
俺はそれを察するとゆっくりと首を縦に振り、彼の元へとついていくことにした。
「すみません、時間をいただいてしまって」
「いえ、お気になさらず」
街角にある洒落た雰囲気のカフェ。そこの二階にあるバルコニー席に俺たちはいた。
もう一人の騎士は彼の命令で城へと帰還してもらうことにし、今は二人きりの状態だった。
「どうぞ、お好きなものをお頼みください。私が全てお支払い致します」
「そ、それはさすがに悪いですよ! 俺はただ目の前にいた魔獣を倒しただけなのに……」
「いえ、十分すぎるくらいですよ。それに、あのまま斬られていたら民を守るどころか自分がやられていました」
暗い表情で俯く国家騎士。でもあれは仕方のないことだ。
街中であんな魔物が出るなんてイレギュラー的事件。これといった準備無しで即座の対処を試みただけでも騎士として十分な心掛けだ。
「すみません、なんか勝手に暗くなってしまって。国家騎士とあろう者が情けない姿をお見せしました」
黒い雰囲気から一変、先ほどみたいな爽やかさが瞬時に取り戻される。
切り替えの速さも騎士には重要な要素の一つだ。
それも元同業者だからこそ分かること。
「それで、お話とは一体どのようなことで?」
頼んだ一杯の紅茶を口に含み、本題へと話を切り替える。
「じ、実は……」
若騎士は口を開き始めると、数十分に及んで話は続けられた。
そして……
「……国家騎士、ですか」
「はい、貴方様を見た時は私は思ったのです。今のバンガードには貴方のような強く逞(たくま)しい力を持った騎士が必要であると」
「で、でも……」
いきなり騎士になれなんて言われても唐突すぎる。
まだこの世界のことすら知り得ていないのに。
「すぐに入団してくださいとまでは言いません。少し見て、それからでも全然!」
確かにすぐに決断は下せない。でも彼の表情は真剣そのものだった。
やはり何か重大な問題がある、そうでなかったらここまで押してくることもないだろう。
俺はそう悟った。
それに、どちらにせよこの世界で生きていくためには何らかの職が必要だ。
ましては一生ニートでいるわけにもいかない。
国家騎士とまでならば給与もそこそこいいだろう。
そういうのを加味すれば悪い話じゃない。
俺は彼の話をもう少し聞き、悩みに悩んだ末に一つの結論を出した。
「……分かりました。では見学をさせていただけませんか? 正式な話はそれからで」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」
今まで見せた笑顔の中で一番輝かしい笑顔を見せる若騎士。
その歓喜に満ちた表情にこっちまでニヤついてしまう。
「あ、自己紹介が遅れて申し訳ございません。私はベール・グリモンドと申します」
「ゼナリオです。お願いします」
「よろしくお願いします、ゼナリオ殿!」
握手を交わし、互いに自己紹介を済ませる。
こうして、俺は騎士団の見学をするべく後日王城へと訪問することとなった。
だがこの出会いこそ、自身の今後の人生を左右する出来事であったことはまだ当時の俺は知る由もなかったのである。
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