転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

文字の大きさ
13 / 65

12.行動開始!

しおりを挟む

「ふむふむ、なるほどな」

 俺は木の上から目の前で起こっている戦闘の様子を観察していた。
 距離にして大体500m前後と言ったところか。
 
 しかも戦場全体が見渡せるのでこれほど戦況把握をするために適した場所はない。
 完璧な位置取りだ。

「やはり敵軍の数は最初に視認した通り多いな」

 バンガード軍側と比べるとその違いは顕著に出ていた。物量差では圧倒的に敵側に軍配が上がる。

 でも――

「兵の動きに無駄がない。ライドさんとセシアの指揮による影響だろうか?」

 バンガード軍側の兵の動きがかなり良かった。混戦でも陣形を乱さずに相手との戦闘を繰り広げている。
 兵力で負けているとはいえ、戦況は今のところバンガード軍側が優勢だった。

「敵の数も徐々にだが減っていっている。戦闘終了も時間の問題か」

 この状況でバンガード軍側が劣勢を強いられる可能性を挙げるならば第三勢力の介入か、強力な戦力の出現、兵の疲労などの身体的問題の三つだろう。

 だが戦況を見る限り三つ目はないとみた。なぜなら戦闘の動きがかなりゆっくりだからだ。
 魔獣は次から次へと出てくるがどれも動きがかなり遅い。

 普通ならもっと機敏な動きをするはずの魔獣もただ街の方へ向かってゆっくりと突き進んでいくだけだった。
 まるで自分たちの意志を持っていないかのように。

「意志を持たない……いや、ちょっと待てよ」

 俺は一つ気になる点を見つけ出す。それはどの魔獣も動きが単調であること。
 それとあんな多種多様な魔獣が軍勢を作って襲ってくるなんてあり得るだろうか。

 冷静に考えればおかしな話だ。それに戦闘を見る限り、魔獣たちの様子にも違和感があった。
 
「これはもしかすると……」

 これらの分析を元に俺は一つの結論を導き出す。
 それは――

「誰かが遠方で彼らを操っている可能性が高いな」

 魔獣たちの遠隔操作。別にこれはあり得ない話じゃない。
 俺の生きていた世界でも魔獣を調教し、操る者がいた。この世界にもそういったような輩がいると仮定すれば可能性は十分にあり得る。

 だが問題はそういった奴らをどう探し出すかというところ。
 
「下手に森の中を駆けまわるのは得策ではない。だとすれば――」

 ――ゴォォォォォォォォォォォォ!

 突如として響き渡る大きな音。
 そしてその轟音と共に現れるは――

「なんだ、あれは」

 目の前には見たこともない紅き巨人。前に戦闘をした角の生えた黒巨人とは比にならないくらいの大きさだった。
 周りの魔獣と比べるとその大きさは一目瞭然。

 そして魔力の流動を感じ取るにかなり膨大な魔力を持っていると推測できる。

「やはり誰かが裏で糸を……」

 その紅き巨人は現れたのち、すぐに戦闘を開始。前に戦った黒巨人と似た巨大な斧を用いた力任せの攻撃で次々と兵たちをなぎ倒していく。
 兵たちはどんどん街の方へと後退、陣形は見事に崩される。

「マズイ、このままじゃ……」

 戦況はガラリと一転し、一気に窮地へ。巨人はその巨体を揺らしながら街の方へと侵攻していく。

(まずはあいつを食い止める。黒幕はその後だ)

 俺はすぐに木から降りると、次なる行動へと移った。

 ♦

「前衛部隊、後退してきます!」

 伝達兵が指揮官のセシアとライドの所へ駆け寄ってくる。
 万一のことを想定し、前衛部隊隊長であるセシアが最終防衛ラインまで下がってきた所だった。
 
「やはり前線を下げるしかないか。まさかあんな大物が出てくるとはな」
「真紅の巨王。超危険指定級モンスターがなぜこんなところに……」
「恐らく召喚術による召喚だろう。かなり錬度の高い召喚士なら制約はあるもののああいった大物を呼び出せることができるはずだ。ごくわずかな者しか扱えないだろうがな」
「ということはつまり誰かが裏であれを操っていると?……」
「そういうことになる」

 戦場に重苦しい空気が漂う。このままでは時間の問題、何か先を見据える一手を打たないと自分たちも街も助からないのは明らかだった。

「どうしますか騎士長」
「あれを使うしかないだろう。こんな時のための防御策だ」
「大規模結界ですか?」
「ああ」

 コクリと頷くライド。
 そしてセシアはそれを聞くなりニヤリとし、

「万が一のことを想定して準備をしておきました。もうすぐ展開可能です」
「さすがだな。でもいいのか?」
「何がです?」
「死ぬかもしれんぞ。あいつを止めるには倒すかあれを操る者を排除しなければならないし、完全に結界が張られれば街へはもう逃げられない。それでもいいのか?」

 ライドは真剣な顔をしてセシアにそう告げる。
 だがセシアは一瞬たりとも迷うような表情を見せることはなく、

「死ぬ覚悟なんて戦場に出る時から固まっていますよ。でも私は、そう簡単に死ぬ気はありませんけどね」

 まだ成人にも満たない少女とは到底思えないくらいの勇敢な心構え。
 ライドもそれを見ると思わずフッと笑ってしまう。

「そうか。さすがは団の未来を担う前衛部隊長様、勇ましい覚悟だ」
「騎士長閣下にそう言ってもらえて光栄です。これでさらに仕事に精が出せそうですよ」
「相変わらずお世辞を言うのは達者だな」
「そんなことはないですって。ぜーんぶ本当のことを言っているだけです」
「はいはい、続きは全部終わってから聞くよ。じゃあ、準備はいいな? 行くぞ!」
「はい!」

 馬を操り、二人の屈強な騎士は巨人へと向かって前進する。
 その並外れた不撓不屈の精神を盾にして。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...