転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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15.剣聖

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 かつて、この世界には神託によって選定された異端能力を持つ10人の剣豪がいたという。
 人々はその者たちのことを『剣聖』と呼び、慕った。
 
 時は流れ今世、今もなおその剣聖たちの末裔がどこかで生きているという。

 そして――

「その剣聖の末裔一人がリーリアが生まれたグレースレイド家ってことだ」
「そんな秘密が……じゃあ団長は」
「剣聖の血を引くもの。聖剣士と呼ばれる者の一人だということだ」
「団長が……聖剣士」


 ライドの説明によって言葉を失うベールとセシア。

 ここは団長不在の団長室内。
 あの後、ライドとセシアはリーリアの命令によって王城へと帰還していた。
 そこで団長を追いかけ、完全武装をして出陣しようとするベールとすれ違い、ライドが説得したことで今に至るというわけだ。

「……信じられません。あの団長が」
「まぁ無理もないさ。姐さんは姐さんなりの信念を持っているからな」
「信念? ライドさんは団長のことを何か知っているのですか?」

 ベールの問いに「まぁな」と言い、頷くライド。
 だがそれ以上はどんなに聞かれても答えることはなかった。
 ただ本人から直接聞けというだけ。

 そんな不服そうに皺を寄せる二人にライドは、

「とりあえず今は姐さんの帰りを待つことだ。それが彼女が俺たちに下した命令だからな。大丈夫、ああ見えて姐さんはなもんさ」

 余裕のない二人に一人だけ余裕の笑みを見せるライド。
 そんな温度差のある空間の中で三人はただひたすらリーリアの帰りを待ち続けるのであった。

 ♦

 謎の剣士によって切り裂かれた巨人の腕はそのまま地面へとドスンと落ちる。余りに痛みが全身を駆け巡ったのか巨人は唸り声をあげながらその場に倒れ込む。

 それにしても――

(早い。にもかかわらず重みのある一撃だ)

 凄まじく速く、鋭い一閃に意識がいってしまう。
 かなりの使い手だ……全く隙がない。

(しかも的確な場所にピンポイントで斬撃を繰り出している)

 どうやらこの世界にも人並外れた剣技を扱う者がいるようだ。

 だがしばらく見惚れてしまっていると、

「痛っ!」

 着地失敗。そのまま背中から地面へと叩きつけられる。

「いてて、完全にあの剣技に意識を持っていかれた……」

 この世界へ来て初ダメージがまさかの空中落下。巨人に斧で叩きつけられるよりはマシだが人前でカッコ悪いところを見せてしまったことに後悔する。

 まずは御礼を――

 俺は直ぐに立ち上がり、御礼を言う。

「あ、あの、助けていただいてありがとうござい……ん?」

 先ほどは影しか見えなかったが今は鮮明に見えている。 
 だが俺はその姿を見るなりすぐに違和感を覚えた。

(なんだ、この感覚は。俺はこの人を……)

 知っているような気がした。バイザーで顔全体を覆っているためか顔を視認することはできない。
 だがこの感覚は初めて感じたものではなかった。
 
 前にも感じたこの不思議な感覚、確か……

「大丈夫ですか?」
「は、はい?」

 突然その鎧の戦士から声がかかる。
 考え事をしていたためか気の抜けたような声が出てしまった。

 鎧の戦士はすぐに少しこちらのほうへと近づいてくると、

「立てますか?」
「だ、大丈夫です!」

 俺はすぐに立ち上がり、服についた砂埃をパッパと掃う。
 
「危ないところでしたね。間に合って良かったです」
「すみません、助かりました。ありがとうございます」

 頭を下げて一礼する。
 だがやはり違和感はなくなることがなかった。
 その感覚のみならず、声も聴いたことがある。鎧のせいで少しこもってはいるがよく通る声質だった。
 
(いや、まさかな)
 
 思い当たる人物として考えられる者は一人いる。
 だけど……

「あの……私の顔に何かついていますでしょうか?」
「えっ? い、いやそういうわけじゃ!」

 やばい、見すぎた!?

 あまりにも直視しすぎたせいか首を傾げてそういう騎士様。
 だが次の瞬間、

「ゼナリオ……じゃなくて君は――」

(えっ? 俺の名前を?)

 確かにきいた。最初に俺の名を言おうとしてすぐに訂正したのを。
 基本的に俺は親しくなった人間にしか名は明かさない。

 だとすればこの人は普段から俺と関わりのある人。
 そうなれば答えはもう一つしかない。

「リーリア……さん?」
「……っ!」

 その名を呼ぶと戦士は一瞬だけビクッとし、その場で停止する。
 
「リーリアさん、ですよね。やっぱり……」
「……」
 
 鎧の戦士は無言のまま何も言わない。鎧のせいで表情を見えないためこちらから見ればただただ突っ立っているようにしか見えなかった。
 言葉で表せば機能停止した機械人形オートマタのような感じだ。
 
 だが数秒たった時、鎧の戦士は後ろを振り向き、再び口を開いた。

「……もう、隠しようがありませんね」

 そういうと鎧の戦士は自らバイザーを外し、その姿を露にする。
 そしてバイザーを外して現れるは銀色の長い髪、そして――

「ゼナリオくん、私も一緒に戦っていいかな?」

 その聞き心地の良い澄んだ声でそう語りかける印象深い紅の瞳を持った一人の美女。
 それは正しく、俺が知っていたリーリアという一人の女性の姿だった。
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