16 / 127
第1章 おっさん、魔術講師になる
第16話 レーナの悩み 前編
とある日の朝。
「はぁ……」
レーナは深く溜息をする。
「どうしたレーナ? 溜息なんて珍しいな」
「あ……ご、ごめんなさい! 私、溜息してました?」
彼女はどうやら自覚がないようだった。
「ああ、お前らしくない溜息だったぞ」
「そ、そうですか……」
よくよく考えてみれば前に行った課外授業からこんな調子が続いている気がする。
少しだけだが、以前と様子が違う気がした。
「悩みでもあるのか?」
俺はさり気なく聞いてみる。
だが、レーナは首を横に振り、
「い、いいえ。大丈夫です」
「そうか。体調が悪いとかであったらすぐさま救護室へ行くんだぞ」
「は、はい。心配をおかけしてしまってすみません」
俯く彼女に俺はそっと答える。
「気にするな。お前には世話になっているからな」
その後のレーナはいつも通りだった。
クラスの生徒たちと仲良く話し、弛む様子もなく魔術講師としての仕事を全うしていた。
「ふむ……どうやら心配はなさそうだな」
俺もその後はいつも通りのだらけ自習授業でしっかりと睡眠をとった。
* * *
そして時刻は夕方。放課後になった。
「レイナードは……もう帰宅しましたね。相変わらず帰るの早いなぁ」
講師室にあるレイナードのデスクを確認する。
「さてと……私は処理しきれていない書類を片付けないと」
溜まりきっている書類を手に取り、仕事を始める。
だが、数十分経つと集中が途切れてしまう。
いつもは何時間やっても集中が途切れることはなかった。
なのに今回はたった数十分しか集中ができなかったのだ。
理由は自分でも分からなかった。
(どうしちゃったんでしょうか……イマイチ乗り気になれません)
レーナは気晴らしのために学園の最上階にある展望デッキへと行く。
「……きれい……」
展望デッキからは王都全体が見渡せる。学園内にある絶景スポットだ。
真っ赤な夕焼けが王都全体を茜色に染めあげる。
その景色には前に課外授業で行ったハーバー高原も見えた。
「私とレイナードが恋人同士に……周りから見ればそう見えるのでしょうか」
突然、あの時の記憶が蘇る。
そして彼女は『はっ』と思いつき、
「もしかしたらこの悩みが原因で仕事が……」
いつものように仕事に集中できないのはこの悩みのせいなのかもしれない、そう思い始めた。
悩んでいるという自覚がそれまでなかった。だが、今思うと悩んでいないということは嘘だったことに気付く。
それと同時に恋人関係という目で同じようにレイナードも見られていて迷惑したりしていないか、もしかしたらそういうのが彼のストレスの原因になっているのではないかと心配するようになる。
「悩みはないか……か……」
時折吹く気持ちのいい涼やかな風が疲れた身体をリセットしてくれる。
今の悩みと疲れで疲弊しきった身体には丁度いい薬だった。
「もうすぐ暑い時期が来ますね……」
身も心もリフレッシュしていると背後から聞いたことのある声がした。
「先生ー! レーナせんせー!」
「この声は……」
後ろを振り向くとフィオナの姿があった。
フィオナの金髪ロングヘアが夕焼けの色と同化してなんとも綺麗な髪色に変わる。
フィオナはレーナの元へと駆け寄る。
「こんなところで何をしているんですか?」
「仕事に集中できなくてここでリフレッシュしているの」とレーナ。
そして立て続けにレーナが話す。
「フィオナは何をしているの? 下校時間はとっくに過ぎているけど……」
「魔術の自主練習をしてました。少しでも早く上達したいので!」
フィオナの少し疲れた表情を見ると、すごく練習していたということがよく分かる。
「フィオナは努力家ね」
こう言うとフィオナは、
「そんなことないですよ。夢のために頑張っているだけです」
「夢?」
「はい。私の祖父は宮廷魔術師を志す心優しい人でした」
フィオナは続ける。
「私にいつも魔術のことを熱心に教えてくれて誰よりも努力家で、私は尊敬していました。数年前に病で亡くなってしまいましたけど、死ぬ間際まで私に魔術の事を教えてくれました」
「よっぽど魔術が好きだったのね」
「はい、それで私も次第に興味を持つようになって祖父が叶えられなかった宮廷魔術師になるという夢を叶えたいと思うようになったんです」
「それでこの学園に?」
「そうです! 今は亡き祖父の意志を受け継いで立派な宮廷魔術師になるのが夢なんです」
「そうなんだ。素敵なお話ね」
フィオナは少し照れるような仕草をする。
そして彼女は熱心に語り始める。
「ちなみに目標としている魔術師はアーク・シュテルクスト様です!」
「アーク・シュテルクスト……ああ、幻の大英雄と呼ばれた方ね」
「はい! 私の目標であり、憧れなんです。病でお亡くなりなってしまったのは残念でしたが……」
彼女の熱心さを見ると自分も魔術を習っていた時のことを思い出す。
私を救ってくれた恩人に魔術を教わっていた時の事だ。
「レーナ先生はなんで魔術講師になったんですか?」
「え……? 私……?」
聞かれたことがなかった質問に少し戸惑う。
フィオナほどたいそうなことではないけど理由はあった。
「聞きたいの?」
「はい! よろしければ是非聞かせてください!」
目を輝かせながら見つめるフィオナ。
彼女は私のことを先生として見てくれていることを思うと数年前の話が嘘のように思えてくる。
「分かったわ。私が魔術講師になったのは……」
レーナはフィオナに向かって魔術講師になった経緯を話し始める。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。
棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした
たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。
死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。