元英雄でSSSSS級おっさんキャスターは引きこもりニート生活をしたい~生きる道を選んだため学園の魔術講師として駆り出されました~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第3章 おっさん、冒険をする

第32話 忍び寄る影

「はぁーおいしかったー」
「はい、味付けもちょうど良くてとても美味しかったです」

 俺たちは宿の一室で夕食を済ませていた。
 どれも見たことのないような物ばかりで主食がパンなどではなくコメという物だった。
 料理は魚料理が中心で味付けは濃すぎず、かといって薄すぎもしない絶妙なバランスだった。
 濃い系が大好きなクロードの人間にとっては物足りなさを感じるかもかもしれないが、俺は割と自分好みの味であった。

 俺たちは大きな部屋を借り、そこに全員で泊まることにした。
 あまりに人気な宿のようで部屋を2つ取ることができず、やむを得ず同じ部屋で泊まることになった。

 そういえば、今までの人生でこうやってのんびりと旅行をしたことがなかった。
 ハルカの婚約の件をなんとかするという目的はあるのだが、まぁ実質旅行みたいなものだ。
 魔術師をやっていた時はこんな豪勢な宿には泊まれなかったし、遠出をしても基本テントを張って野宿。
 観光などもってのほかであった。
 
 そう思うと魔術師やって英雄として生きるよりは一般人として生きる方が気が楽と言える。
 俺の選択は間違いではなかったようだ。

「そういえば先ほど言っていたロテンブロというのはどこにあるんですか?」
「この宿の奥の方ですよ。あとで皆さんで行きませんか?」
「は、はいもちろん!」

 楽しそうで何よりだ。
 レーナには負担をかけてしまっているからな。
 
 今回の同伴の件でもそうだが、学園でも俺がやれなかった雑務を全て一人でこなしていた。
 それでも彼女は決して嫌な顔を見せず、笑顔で仕事をしていた。
 俺が例え若くて元気であっても中々できないことだ。

 ある意味、俺には持っていない物を彼女は持っている。
 人と関わって初めて一目置いている女性だ。

 というか魔術講師になって嫌でも人と関わることが増えてきた。
 誰にも頼らず、一人で我が道を進んできた人間が今では人と協力して仕事をしたりしている。
 数十年前の俺では考えられないことだ。

 魔術講師になったのはニート暮らしの復活の為でその理由は揺らぐことはない。
 辛いし、面倒で辞めたいという思いが常にある。
 だが、慣れてきたのか着任当初よりは嫌な感覚はない。
 あの時はとてつもなく嫌で早急に資産集めをするということばかり考えていた。

 今ではその感情が少しだけ無くなったので不思議なものだ。
 まぁ……早くニート生活に戻りたいというのは切実な願いなのだがな。

 外はすっかりと夜になり、宿周辺は夜の露店で賑わいを見せるようになった。

「なんだか外が騒がしいな」
「夜市場ですね。クロードではあまり見ないかもしれませんが、ホンニではポピュラーなんですよ」

 レーナは窓を開け、外を眺め始める。

「スゴイですよ! 夜なのに外が明るいです」

 猫耳をピクリとさせながら興奮しているレーナにハルカは、

「行ってみます?」と言う。
「ぜ、ぜひ!」とレーナは答える。

 なんか夜の街に繰り出すみたいだが、俺はごめんだ。
 来るべき時のためにしっかりと身体を休めておきたい。というかもう寝たい。

 俺は遠慮しておくと二人に告げる。
 だが、

「レイナードも行きましょうよ。せっかくここまで来たのに勿体ないですって」
「そうですよレイナード先生。食べた後にゴロゴロばっかしているとブタになっちゃいますよ」

(なんだその根拠ないよく分からん言い伝えは)

 二人に説得を受けるが俺はそれを拒む。

「仕方ないですね……じゃあ無理矢理にでも」

 そういうとハルカは俺の制服を引っ張り、連れて行こうとする。

「お、おい。引っ張るな」
「じゃあ早く起きてください。食べた後は歩かないと身体に毒です」

 それも聞いたことがないが、どうやら俺に拒否権はないようだ。

「分かった分かった。行くから」

 俺は渋々立ち上がり、同行することになる。
 はぁ……休めると思ったのに……

 落胆。あまり人の多い所には行きたくなかったのでテンションが落ちる。
 仕方ない、付き合うか。
 腹を括り、夜の街へ繰り出す。


 ―――ドドドンドドドン。


 よく分からない楽器の音が夜の街に響き渡る。
 夜市場の賑わいは想像以上のものだった。
 これはクロードの昼市場より人口密度が高い。というか圧倒的かもしれない。

 数多もの露店が軒を連ね、たくさんの人間が右往左往としている。
 この空間にいるだけでも体力が削られていく。

「わーこれはなんですか?」
機巧からくり人形ですよ。このゼンマイを回して糸を引っ張ると……」

 彼女が人形を手に取り、一連の操作をするとなんと人形が動き始めた。

「スゴイですね……これ魔力の力じゃないですよね」
「はい、歯車で動いているので魔力は一切必要としないです」

 凄い技術だ。
 魔力を使わず、人形にあそこまで繊細な動きを可能にさせるとは……
 古臭い街だとは思ったが、技術はそれ以上のようだ。

「なぁハルカ。さっきから思っていたのだが、ここの人間はなぜそろいもそろって奇抜な格好をしているんだ?」
「奇抜とはどの辺りでしょう?」

 先ほどから違和感を感じていた。
 男女共に動きにくそうな服を纏い、男に関しては頭にヘンな突起物をつけている。
 剣と見られるものは背中ではなく腰につけ、走りにくそうな履物をはいている。
 
 クロードと違って華やかな感じではなかった。
 
 俺はその辺をハルカに伝えると彼女は笑い出した。

「あははは! 確かに異国の人からみたら奇抜かもしれませんね」

 聞いてみるとここの人間は着物という物を身に纏い、男はチョンマゲと呼ばれる髪型をすることが流行っており、腰につけているのはカタナという剣の一種なのだそうだ。

 特にこのカタナは剣術を重んじるホンニの人たちにとっては魂も同然の物らしい。
 剣士が剣を必要なようにホンニの人間はカタナが必須アイテムのようだ。

 ちなみにクロードで言う軍隊の人間のことをここではブシというらしい。

 意外にも満喫することができ、俺たちは宿に戻ることにした。

 そして宿へ向かう途中、俺は邪悪な気配を察知した。

「ん……この感覚は」
「どうしたんですか?」

 急に立ち止まる俺を心配するレーナ。
 ハルカもそれに気づく。

「レイナード先生?」

 俺は小声で彼女たちに、

「誰かにつけられている。これで2回目だ」

 するとハルカがいきなりスッと真顔に変わる。

「もしかしたら”彼ら”かもしれません」
「彼ら?」
「はい。とりあえず確認してみる必要がありますね」

 俺たちは人気ひとけのない所へ移動をしおびきだすことにする。

 たくさんの人で交わる街を走っていく。

 時間は夜市場が最も盛り上がりを見せるゴールデンタイムだった。
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